第10話|初戦闘
嫌な予感というのは、当たる。
街道の見回りを終え、ギルドへ戻る途中。
さっきまで穏やかだった風が、急に止んだ。
鳥の声が消える。
「……来るな、これ」
[観測者アレス]『警戒』
[初見の神]『静かすぎ』
足を止めた瞬間だった。
草むらが大きく揺れ、影が躍り出る。
ゴブリン。
さっきより明らかに多い。
三体。
しかも――背後にも。
「……囲まれたか」
逃げ道はない。
街道は一本道。
左右は腰丈の草原。
振り返れば、距離はすでに詰められている。
棍棒を握る手が、汗で滑った。
「落ち着け……」
息を整えようとしても、心臓が言うことを聞かない。
[初見の神]『数やば』
[観測者アレス]『一体ずつ』
分かっている。
だが、頭で理解しても身体が追いつかない。
最初の一体が突っ込んできた。
叫び声。
棍棒が振り下ろされる。
避ける。
――遅い。
【小回避】が発動する。
致命点を外れた一撃が、肩口をかすめた。
「ぐっ……!」
痛み。
だが、折れていない。
「……助かった」
小回避がなければ、今ので終わっていた。
二体目が横から飛び込む。
反射的に地面を蹴る。
距離を取るが、足がもつれる。
転倒。
「っ……!」
棍棒が頭上に振り上げられる。
終わった――そう思った瞬間。
視界が、ほんのわずかにズレた。
攻撃が、紙一重で外れる。
【小回避】再発動。
「……ッ!」
転がり、立ち上がる。
息が荒い。
スキルは強い。
だが、万能じゃない。
発動しなければ、普通に死ぬ。
三体目が背後から迫る。
「……来い」
逃げられないなら、やるしかない。
地面に落ちていた鋭い石を握る。
狙いも、技術もない。
ただ――目。
喉。
関節。
生き物としての弱点だけを意識した。
一体が突っ込む。
真正面。
「今だ!」
全力で、石を突き出した。
偶然か、必然か。
石は、ゴブリンの喉に刺さった。
悲鳴。
血。
倒れる。
「……っ!」
勝った、なんて感覚はない。
残り二体が一瞬ひるんだ。
その隙を、逃げに使う。
走る。
全力で。
背後から投げられた石が肩をかすめる。
だが、当たらない。
小回避が、また命を拾った。
街道に衛兵の詰所が見えた。
「助けてくれ!」
叫ぶ。
次の瞬間、矢が飛んできた。
二体目が倒れる。
三体目は、逃げていった。
戦闘は、終わった。
その場に崩れ落ちる。
全身が震え、視界が揺れる。
……生きている。
倒したのは一体。
ほとんどは運だ。
それでも。
[初見の神]『初討伐おめ』
[観測者アレス]『判断よかった』
コメントが流れる。
画面の向こうで、誰かが拍手している気配。
胸の奥が、じわりと熱くなった。
「……これが、戦闘か」
派手な技も、魔法もない。
あるのは恐怖と、判断と、運だけ。
そして――
「小回避がなかったら、確実に死んでたな」
スキル欄が、静かに光っている。
地味だ。
だが、確実に命を救っている。
英雄には程遠い。
だが、冒険者としての一歩は、確かに踏み出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、
★評価・感想・ブックマークで応援してもらえると励みになります。
次回もよろしくお願いします!




