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烏は狐に恋をする  作者: 鶴薗こはる


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人間と亜種②

 暫くカフェで寧々さんと話し込んだ後、それぞれの自宅へ帰ることになった。

「本当はもっとお話したかったのだけれど、この後予定があったものだから……」

「気にしないで寧々さん。またすぐに会えるわ」

「うん。帰ったらすぐにお手紙を書きますから、お返事をくださいね!」

「ええ、もちろん」

 名残惜しそうに、寧々さんは手を振るので私も手を振り、一人来た道を戻る。道中、あの店で見たウサギ耳の親子はどうしているのだろうか。そのことばかり考えて一人ぼんやりと歩いていると、脇道の人気がなく狭い場所で、ちょうど私が考えていた人物たちを見つけた。

 私は辺りを見渡して人がいないか確認すると、ウサギ耳の親子に声をかける。

「あの、何かお困りですか?」

 ウサギ耳の母親は子供を後ろに隠して「何用でしょう?」と脅えた目でこちらを見ている。

「先ほどカフェにいらしてましたよね? もしよろしければ――」

「そうやって私たちを騙すつもりなのでしょう⁉」

 ウサギ耳の母親は、差し出した私の手を強く払った。

痛い。手がじんわりと赤くなっていく。ウサギ耳の母親はしまったと鼻をヒクヒク震わせながら私を見ている。ウサギ耳の母親が目に涙を浮かべながら恐る恐る地面に手をつこうとしたので、私は「やめてください!」と慌ててウサギ耳の母親の手を取る。

「……どうして?」

「え?」

  私の手の中にあるウサギ耳の母親の手は細かく震えていた。

「どうして止めるのですか……? 私たちは亜種なんですよ?」

「亜種だからと言って、差別する理由にはなりません」

 ウサギ耳の母親は突然泣き出してしまった。

私はどうしたらよいのか分からず、あわあわしていると後ろに隠れていたウサギ耳の少女が母親の背中に隠れながら私に問いかけてきた。

「お姉ちゃんは悪い人じゃないの?」

「悪い人?」

 亜種を差別する人達のことを指しているのだろうか。

ウサギ耳の少女は耳だけ見せて私に話しかける。

「ママをいじめる悪い人みたいに、お姉ちゃんはこれからママをいじめることしないの?」

「そんな酷い事私はしないわ! 私とあなた達は同じ人だから」

 亜種だから、人と姿形が違うからと言って差別する理由にはならない。

これは私の本心だ。

 ウサギ耳の母親は涙を浮かべながら私に「ありがとう」と言った。

 ふわりと風がそよぎ、鈴の音が聞こえた。

「……何かと思い来てみれば……なるほど、そういうことか」

 下駄をカラコロと鳴らして誰かがこちらにやってくる。

ウサギ耳の親子は私の後ろにいる人を見て、安心したように嬉しそうな顔をしている。

 私の視界が少し暗くなった。後ろウサギ耳の親子が見ている人物が私のすぐ後ろに立っているのだと気がつく。

「君はこの人達を「人間」と見てくれるのだね」

 優しい声だが重い圧を感じる。私は後ろを振り返ることも言葉を放つことも出来ず、ただ、目の前に見える大きな人影にコクリと頷いた。

大和(やまと)様、この方はとても良い人です……! だからーー」

「ええ。わかっていますとも。それよりも、こんな所にいれば人間に見つかってしまいます。はやく、家へ帰りましょう」

「は、はい……!」

 ウサギ耳の親子は立ち上がり、私の後ろに立っている人の所へと向かう。

「そうだ。ここで起きた事は誰にも話さぬようお願いします」

 後ろにいる人は私の耳元でささやくと、長い髪をなびかせチリンと鈴の音を鳴らして消えてしまった。

今先程、私の後ろに立っていた人はきっと聖職者(せいしょくしゃ)の者だろう。

聖職者とはこの国で貴族よりも権威が高く、高貴な存在だ。一般人はおろか、貴族の位を持つ者でも簡単に顔を見ることはできない。私の後ろに立たれた時、ただならぬ気配を感じ取った。本能的に、後ろを振り返ってはならないと分かってしまった。

 突然の出来事に私は呆然とその場に暫く座り込んでいた。

高揚していた気持ちが段々とおさまり、私は立ち上がるとフワフワした足取りでお屋敷に戻る。

「あ、おかえり(ひかる)姉様……? 何かあった?」

 お屋敷に戻ると、妹の(あかね)が出迎えてくれたが、気分は上の空で私は返事をすることが出来なかった。

私は自室へ戻ると、『聖職者と派閥』というタイトルがついた本を本棚から取り出し、あるページを探した。

「あった……!」

 聖職者の派閥に関して詳しく記述されているページだ。

この本には、「聖職者は神の化身とされており、この国の最も尊き御方である天皇一族とも引けを取らぬ存在。超越した存在であるため、不思議な妖術を使うことができる。聖職者は主に三つの派閥に別れている。人を一番だととらえる「人道派(じんどうは)」、人も亜種も同じ存在だととらえる「中道派(ちゅうどうは)」、亜種こそが真の人ととらえる「亜道派(あどうは)」があり、その中でも「亜道派」は数が少ない。本来、聖職者は中立な立場を取らなければならないが、ある聖職者が亜種と交わったことによりこのように派閥ができてしまったとされている。」

 途中、本のページが黒塗りされていて聖職者の容姿に関わる部分や、名前、聖職者の規模数などはわからなかった。

「あの人は……やはり聖職者だったのかしら?」

 開いたページに書かれている文字を指でなぞる。

「光姉様!」

 突然、茜が私の部屋へ入って来た。

「茜、部屋に入る時は一声かけてとーー」

「大変なの! 西園寺(さいおんじ)家が……西園寺幸助(さいおんじ こうすけ)さんがここへ来たの!」

「えっ⁉」

 私は思わず本を落とした。

「突然家に押しかけて来て、光姉様に会いたいって……! 今、客室に父様が幸助さんを通してお話しているけど」

 茜は私がこのお屋敷にいないと嘘をついて追い払おうかと提案してきたが、どの道一週間後に会うのが早まっただけだと、私は幸助様に会うと茜に告げる。

「わ、わかった……幸助さんにそう伝えて置くね…光姉様無理だけはしちゃ駄目だからね」

「うん。わかってる」

 茜はためらいながらも私の部屋を去り、幸助様の所へ向かう。

私は幸助様に会うため、お出かけ用の着物に着替え身なりを整えてから、顔の知らない婚約者に会うため、幸助様のいる客室へと向かう。

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