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他人の場所

 


「抜けるような青空」と読んだ瞬間、いやになった。


 授業を聴く。どうにか耳に入れながらも、思考は無関係に拡散していく。しばらく切ってない前髪が視界をさえぎる。

 教科書の例文には「抜けるような青空」。いかにも他人の表現、という感じ。指でなぞると居心地の悪さが伝わってくる。





 身体を温めるように小走りで登校する。思考の内圧が高まる。頭が重い。ため息は白く背後に残る。

 閉じこもりたい。すべてに参加したくない。気づいたら生まれてて、無条件でどこかへ所属しなきゃならないなんて。他人との間に線を引いて、自分を軸にぐるりと円にしたい。


 立ち止まる。呼吸が少し乱れてる。犬が我関せずと通りがかる。このまま止まっていれば、そう思いつつも、焦りが這いあがってくる。せきたてられる。冷風が吹きつける。足をまた進めてしまう。


 連帯したくない。連帯からあぶれたことによる連帯も、したくない。本当にこちらを向くものなんて無いようで、喜ばしくも空しくて、「おはよう」「あ、お、おはよう」


 引き戻された。しばらく喋る機会がなくて、喉が閉じてたのを感じる。クラスメイトは挨拶だけして遠ざかっていく。名前を思いだそうとしても出ない。視界をさえぎっていた前髪は、もう鼻先をくすぐるほど伸びている。



 気分に反して空は晴れている。苛だたしい。雲一つない、抜けるような青空……あ。


 ウ、と吐きだす。みずから手垢をつけてしまった。 手垢?

「手垢のついた表現」も他人の表現だ。手垢がついてるじゃないか。もっと自分の言葉を、自分の言葉、とは?




 言葉。生まれた時には既存で、無条件に参加させられてる。手垢の集合体。手垢で作った城。うなじの産毛が逆立つ。じっとりと汗が出てくる。全身に他者が蠢いてるようで、思わず胸を掻く。それでも、どうにもならない。たまらず、校舎へ駆けだした。







 授業を聞く。ノートに詩を書きながら。



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