第15話盾にされた
「俺…俺はロバート・スヴィッチ将軍の息子、レノ・スヴィッチなんだ」
北辰が突然強硬になったので、レノも自分の父の名前が相手を恐れさせるだろうと期待するしかなかった。
残念ながら、スヴィッチという名字に対して、北辰の反応はあまりにも淡い。
それどころか、北辰の目の中から伝わる情報は、レノに対して、彼の父が何の大したことがあるのかと反問しているようだ。
「これだけ?ただこの程度の身分だけで、エンヤさんと友情を結ぶという妄想を抱くようになったのか?」
北辰に支えられているエンヤは、反応が鈍くても、この時になれば気づくだ。
北辰は演技を披露しようとして、エンヤは機がよく北辰の演出に合わせる。彼女の目もそれに伴って冷たくなり、比較的に優しい役を演じる。
「行き過ぎないように」
「分かりました」
「だから、お前は一体何者だ?!」
「本当に大不敬だな。もし学園内で彼女の周りに貴様のような虫ばかりがいるなら、エンゼル将軍も僕の次の暴力を黙認するだろう」
北辰はレノの質問に答えず、自かれの袖のボタンを解く。表情がなく、まるで作りが精巧な自動戦闘人形のようだ。
「エンゼル様?暴力?!お前何のことを言っているんだ?」
「貴様が復讐の対象を見失わないように…時御という名前を聞いたことがあるか?」
北辰はもちろん愚かに自分の名前を告げるようなことはしない。念のため、時御という安い盾は必要だ。
……
メシアス家の邸宅でアフタヌーンティー時間を早めに楽しんでいる時御がくしゃみをした。
「嫌な予感がまたする」
「お前いつになればまじめになれるんだ」
寝間着に着替えたばかりのエンゼルが嫌な顔をして時御の向こうに座る。もしもう少し早く歩いていたら、時御のくしゃみが彼のズボンに当たるかもしれない。
「俺はいつも頼りになるよ」
「これ返しておく。別の刺客の神血武装だけど、今のところ全ての手掛かりが途切れてしまって、もう役に立たない」
エンゼルが投げてきた銀の短剣を受け取る。これは数日前北辰が時御に情報を引き出すために貸した、ラントロが死んで残された、持ち主のない神血武装だ。
「ところで、君と妹の付き合いはどうなっている?」
時御の問題を聞いて、エンゼルはちょうど持ち上げた茶碗を置く。
「君も知っているだろう。最近私は前線と監獄を行き来している。今日になってやっと家に帰れるようになった」
「つまり全然交流がないってことか。このままでは、彼女が家族に大切にされていないと思うかもしれないし、隙をついて入り込む奴が出てきてもおかしくない」
「君はいつも問題を大げさに言う」
「それは分からない。君の妹はちょうど思春期だ」
「君もこの年だろう。他人のことを気にするより、自分のことを気にする方がいい」
「俺はそんなことに興味がないよ」
時御の表情は全く気にしていないようで、お菓子を食べる動作も気楽で、彼の本当の考えが分からない。
「おう?君が興味を持つ対象は、刺客の神血武装を君に渡した人なのか?」
「俺、バレてるのか?」
「疑問点が多すぎて、無視できない」
「いつから?」
「エンヤが目を覚ましてから、彼女と従者の会話からだ」
エンゼルが指している従者は、ロゴスだ。
時御はエンゼルの発言に少しも驚かない。逆に言えば、エンゼルが第三方の存在に気づかない方が問題が深刻だ。
「この先お前はどうする?」
「あの転校生?私はドリームに代わって彼を観察させるよ」
「うんうん、その後は?」
「もしエンヤに近づくのに他の目的がないなら、私はエンヤの決定を尊重するつもりだ」
「ハハ、これだけは安心してくれ。俺は自分の名前を保証にして、絶対に君が心配するようなことは起きない」
「……」
「え、なぜ黙ってるんだ?」
エンゼルはしょうがなく向こうの時御を見て、やはり自分が時間を作って、北辰を直接確認した方がいいと思うことにした。
……
「時御?お前こいつが…」
レノ・スヴィッチは時御に会ったことはないが、同じ貴族である同級生や講師の中で聞いたことがある。
東方の古い大陸から来た、性格が変な天才血殺師で、黒い髪を持ち、慎重な考えもせずに勝手に暴力を使う平民の学生だ。
何のためか、フレムニアの未来の領主であるエンゼル・メシアス、学園有史以来最も偉大な天才の一人で、古龍と共にいる血殺師とも知り合っている。
この関係のおかげで、多くの裏で時御を嫌う貴族たちでさえ、貴族放逐法を起こして彼を退学させる勇気もなく、学園での彼の多くの度を越えた行為を我慢しなければならない。
「そうだ、俺が…」
「フン!時御、エンゼル様の庇護があるからといって勝手に振る舞うな。エンゼル様もお前が彼の妹に対して無礼な行為をすることを許さないだろう」
レノ・スヴィッチは北辰の話を遮り、袖を振りながら北辰のそばを素早く通り過ぎ、足を止めるつもりはない。
すぐに、レノ・スヴィッチはしょげ面をして逃げて行った。
しかし北辰は本来、自分が時御の親友で、何か不満があるなら時御に行って解決しろと言おうと思っていた。
でもレノ・スヴィッチは北辰の意思を完全に誤解して、思いきって彼を時御本人と認めた。
「時御本人と間違えられるなんて思ってもなかったな。でもフレムニアでなら説明できるだろう」
エンヤは北辰のちらりと見せる無奈な表情をこっそり見て、知らないうちに面白がって相手をからかうような目で見た。
フレムニアは帝国の西南方に位置し、ほとんど血族の活動エリアと接している。東方の大陸から来る冒険者がここに来る代价は大きすぎる。
つまり、フレムニアでは、街で武器の鍛造が上手いドワーフや、人間と血族の混血種を見かける方が、東方人に出会う可能性よりも高い。
「ところで、あのレノというやつは何者だ?ロバート・スヴィッチ将軍の息子…ロバートはとても偉大なのか?」
「学園の三年生で、彼の血殺師の位階は中級三段だそうだ。スヴィッチはフレムニアで有名な血殺師の家系で、ロバート・スヴィッチは家主だ」
「ハ…よくそんなことを知っているな」
「レノ・スヴィッチは私が転校してきた初日からうるさく付き纏うようになったが、彼のおかげで、うるさいハエがそれほど多くない」
「そんなやつと付き合わなければならないのは大変だな」
「うん、私のために、他の人も授業をうまく受けられなくなった」
「だから君は授業中、広場の隅で絵本を読むのか?」
「先生の許可を得ている。条件は期末の全てのテストで優秀な評価を取ることだ」
「自信がある?」
「フンフン、私は天才だからな」
エンヤは自分の青い長髪を撫でながら、口角が少し上がり、才女としての自信と落ち着きをたくさん持ち、先ほどのような落ち込んだ様子はもうないように見える。
「羨ましいな。残念ながら僕には才能がない」
「腐食の死鳥を倒し、かつての准王庭血殺師を打ち破る。君は何の基準で自分に才能がないという結論を出したのか?」
「戦いの経験と血殺師としての才能は通じない」
「そうだな。戦うで私はほとんど何の助けもしなかった」
「ばかなことを言うな。君の置換魔術がなければ、僕はもうラントロと一緒になって死んでいた」
前の戦闘を思い出すと、エンヤはあの時の自分の果断さに感嘆し、彼女の実戦経験はゼロから信じられないほど成長した。
近接格闘の戦技に困るエンヤは、遠距離を主とする魔術の分野での発揮はきっと非常に目立つだろう。
つまり、敵が近くでエンヤを迅速に倒すことができなかったなら、彼女はほとんど無敵の存在になる。
「ところで、あの時君はどうやってそれを行ったのか?」
「何のこと?」
「魔物に殺される画面、私さえも騙したなんて」
北辰が魔物に飲み込まれるように見える偽装を見て悲しんだことを思うと、エンヤの耳は北の地に住む時よりも赤くなる。