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第13話ロゼッタ

「いっそ学校をやめようか。こうすれば自己紹介もしなくて済む」

 北辰は学園の広場の一本の楓の木の下に来て、芝生に座った。彼は本当にこの決定を真剣に考えている。

 しかも、ラントロにエンヤを刺殺させたやつが学園に潜んでいるかもしれない。その時になったら、自分が想像もできない代価を払って逃れることができるだろうか。

 今のうちにまだ暴露されていないから、早く退学手続きをしよう。教員室に誰もいなければ、このまま消えてしまうこともできる。

 北辰はこの逃亡計画を十分に気にしているので、自分の後ろ、楓の木の反対側のベンチに、青い髪の美少女が座ることに気づかなかった。

「はあ、耳がやっと少し休めるようになった」

 エンヤの声が北辰の後ろから響いてきて、北辰を想像の世界から一気に現実に引き戻した。

 北辰は慎重に後ろのベンチを見た。木の幹があるせいで、エンヤの体の大部分を隠している。

 でも!

 まるで彫刻のように美しい手が画集の上に置かれており、ベンチに掛けられている青い長髪。見える光景はすべて北辰の心に重い石を落とすようなものだった。

 エンヤが実は青い髪だということについて、彼は入学前から時御から知っていた。本来学園内で彼女を避けようと思っていたのに、北辰はここで会うとは思っていなかった。

 まずい、なぜ(また彼女に会ったのか)…

 考える余裕もなく、北辰はもう一度狼狽な姿勢で、幹の隠れる所を利用してこっそりと立ち去ろうとした。

「どこに行くの?北辰さん」

 いつの間にか、エンヤは既に向きを変えて、北辰の逃亡劇を見ているようだ。

「やはり暴露されたか」

 北辰も容姿を変える幻術がエンヤをだますことを期待していなかったが、これほどすぐに認識されるとは意外だった。

「ここに来て私とおしゃべりしよう」

 エンヤが手で自分の隣の空いている場所を叩いて見せるのを見て、北辰は少し前の馬車の中のことを思い出した。

 少し迷った後、北辰はエンヤの隣に座った。

 オレンジ色の楓の葉が舞うベンチの下で、少年と少女。彼らは初めて会った時とは逆に、自己を隠すのは北辰で、本当の自分を見せるのはエンヤだ。

 あるいは、最初の二人こそが本当のお互いだったのかもしれない。

「驚きましたね。血殺師の学校で変装した君を見るなんて」

「君の方こそ、私は炎の城でメシアスという商人を見つけられなかった。仕事も見つけられなかったのでここに来たんです」

「あの時の私は、本当に自分の名字がフレムニアで何を意味しているかを意識していなかった」

「今見ると、悪くない」

「残念ながら、フレムニアに着いたばかりでロゴスと別れてしまった。私はここでいつも人間関係の処理に悩んで、魔術の勉強もできない」

「それで、新しい友達ができたか?」

「最近、ロゼッタという女の子がよく私とおしゃべりしてくれるし、学校を案内してくれることもある」

「なるほど」

 エンヤに見つかった以上、北辰の退学計画はしばらくの間保留されることになる。

 北辰はオレンジ色の楓の葉を見上げて、目が少しぼんやりしたが、心の中では時御を苦しめる方法を計画している。

「君、ここで何をしているの?」

「先の授業の勉強が終わったばかりで、珍しく暇なので、広場の隅で絵画作品を見ようと思っていました」

「新しい趣味ね」

「そして君に出会った」

「そうか…」

「一绪に見る?」

「中の内容は何?」

「ロンギヌス初代王が帝国を建国した物語ですよ」

 北辰はエンヤが絵本の第一页を開くのを見ていた。中の物語は彼がもうよく知っている。

 でも、エンヤはおそらく初めて開くのだろう。少なくとも初めて気に入る人と一绪に…

 彼女の気持はとても良い。少女の足は椅子が高すぎるせいで地面から離れ、軽く半空中で揺れている。

「え…この人が君の命の恩人なの?エンヤちゃん、君の运は本当に悪いわね」

 優しい声が北辰の耳のそばで響き、少女が近づいてくる温度とともに。

 彼女の目は好奇心でいっぱいで、二人の颜がもうすぐ贴り合うほどだ。

「ん?」

 この声に北辰は一瞬驚いた。彼は後ろの女の子の姿を确かめることもなく、ただ絵本の上の黒い王者を凝視している。

 絵本の中の主人公、頭の上に黒い光輪が浮かび、黒い王冠と銀製のマスクをかぶり、ロンギヌス初代王。

 黒曜石のような長い剣を高く掲げ、軍旗を振り回し、英雄たちを集めて周りに集め、足の下は山のように积もった吸血妖精の死体である。

「こぼこぼ…顔が近すぎますよ、ロゼッタさん」

 恩雅は顔を反対侧に向けた。彼女は目の前の光景を許すことができない。

「ロゼッタ?」

 この名前に北辰の考えが現実に戻り、彼は頭を上げて二人の前に来たロゼッタを見た。

 少女の目に白い姿が映る。この時、彼女は真直に北辰を見つめている。

 これは颜立ちがとても端正で秀麗な女の子で、エンヤほどの美しさで驚かせるものはないが、青春期の少女にはない、若い母亲のような優しさを持っている。

「これがおそらく私たちの初対面ですわ。私はフレイム王立学園の生徒會長ロゼッタ・アルビオンです。キミ、今日ここに来た転校生でしょう?」

「こんにちは、僕は北辰です」

 アルビオン、今の学園長と同じ名字である。

 北辰が知っている情報によると、この名字の由来はとても古いが、ロゼッタにはこの名字の特徴がない。

 名前も一绪に、伪りなのか?

 北辰はロゼッタの身元に疑いを抱いた。

「本当に不安を感じさせる名前ですね」

 ロゼッタの話の口調は内容と全く逆で、北辰にとって、笑顔みながら恐いことを言うような感じだ。

「不安?どういう意味?」

「エ——誰が知っているんですか…」

「さっき、僕をエンヤの命の恩人と呼んだんだけど、つまり…」

「これはエンヤの間違いじゃないよ。この子は分かりやすいですね」

「確かに…」

 この点について、北辰とロゼッタは共通の認識を得た。

 しかし、話題の中心人物であるエンヤさんは別の気持ちだ。目の前の二人がなぜ知り合いのように見えるのか。自分は初めて会うのに。

「ロゼッタさん、学園長に会うんじゃなかったでしょうか?なぜここにいらっしゃるん…」

「そうですけど、エンヤさんの感情が活発になったのを感じました。何か嬉しいことがあったんじゃないでしょうかと思いまして、戻ってきましたわ」

「約束しましたよね?あなたが他人と感情の共鳴ができることを他人に言わないようにしましょうと」

 共鳴?

 エンヤのこの言葉が北辰の注意を引き、悪い記憶が深淵から這い上がってき始めた。

 ロゼッタが北辰の妙(な反応を見て、笑顔がだんだん消えていった。

「北辰くん、君の神血武装を見せてくれないか」

「ロゼッタさん、あなたの要求は行き過ぎです。取り消してください」

 北辰の答えを待たないうちに、エンヤは自分の不満を表した。彼女はロゼッタが北辰に対する態度に、なぜか敵意を持っていることに気づいた。

「そうですね、私が急ぎ過ぎました。申し訳ありませんでした。ご二人のラブラブな時間をお邪魔しました。バイバイだね~」

 ロゼッタは余計なことを言わなくなった。彼女が伝えたいこと、北辰なら既に知っている。

 それに、答えは重要ではない。

 エンヤに手を振って告別した後、回り向いて離れるロゼッタはすぐに教學棟の方に消えてなくなった。

「ごめんなさい。ロゼッタさんは君が想像しているような人ではない。今日の彼女は少しおかしい」

 ロゼッタが離れた後、エンヤは北辰に説明した。彼女はロゼッタの態度の変化に理解できない。初めて笑顔が消えるロゼッタさんを見たからだ。

「君は僕のためにロゼッタに怒るべきではないよ。彼女は君がめったにできない友達だろう?そうなら、もっとべきではない」

「ロゼッタさんにあやまるよ。ところで、北辰くんは友達がどんな存在だと思う?」

「え、重い問題だな…」

 この問題について、北辰には確かな答えはない。人それぞれ友達の定義は違う。彼の答えはエンヤを満足させるかもしれない。

 しばらく考えた後、北辰は自分の友達に対する考えを言った。

「友達なら、一緒に座って話したり、一緒に何かを経験したりする。大体そんな感じだ」

「何それ、この答え。こうなると、今の私たちも友達じゃないか」

 エンヤは北辰の困った様子に笑われて、絵本で顔を遮り、北辰に自分の失态を見せないようにした。

「え——僕はエンヤさんの友達になる資格がないのか」

「こうなると君は私のそばにいないよ」

 エンヤは絵本を下ろし、目の輝きには以前の清涼さがなくなり、もっと柔らかいものに取り代わっていた。

「実は、逆の方が正しい」

 この言葉、エンヤは冗談の形ででも言わなかった。ただ黙って心の中に埋め込んでいる。

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