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第10話終了

「意識を保つことができるかい?」

 北辰はエンヤの前に来て、屈んで調べると、彼女の呼吸がすでに十分に弱くなっており、目のあまり目立たない輝きもだんだん崩れていくのを見つけた。

 もし腹部が邪魔な魔導剣で刺されていなければ、エンヤはただ大な樹の下に座っていかって、自然に溶け込んだ静かで美しい人形だった。

「勝った?」

「うん、僕たちの勝利だ」

「私が目を閉じたら、目が覚めなくなるんじゃないか?」

「たぶんだろう。何か手伝うことがある?」

「そうだ…」

 エンヤは何かを思い出したようで、一生懸命に北辰を仰ぎ、まだ動ける左手で胸の服を掻き開き、白い肌を露出させた。

「手伝うことが必要なのはこれだ」

「どうすればいいの?」

「鋭い物で切り開いて、中のものを取り出して」

「理由を教えてもらえる?」

「安心してよ。この体はただ私の姿を参考に作られただけだ。魂を宿している石を取り出せば、捨ててもいい」

「私の予想通りだ」

「そうなの…君はいつごろ気づいたの?」

 北辰が自分が自白する前に既に自分の秘密を見破っていたことを知り、エンヤの心の中には少し薄い罪悪感が残った。

「多分最初から気づいていたんだろう」

「そういえば、君はいつも私が人形のようだと言っていたけど、褒め言葉ではなかったんだね」

「それらは本心の言葉よ」

「私の間違いだ。人と付き合うのがあまりにも素直でもよくない」

「今でも間に合うよ」

「そうなの…ありがとう、最初から私の人形の身分を言わなくてくれて」

「目を閉じなさい。ロゴスと合流すればいいんだろう?」

 エンヤに本当の考えを察されないように、北辰は話題を変えるしかない。

 なぜなら、北辰はエンヤにこれが胸の触れ感による誤解だと言えないからだ。

「うん、次の出会いが遅くならないように、残りはお願いするよ」

 エンヤは苦しそうに左手を挙げ、北辰の顔をそっと撫でた。

「ついに、私は母の言葉を理解始めた…」

 言い終わると、エンヤのこの体は元の人形の姿に戻った。

 北辰は短剣で人形の胸を切り開き、中に宵いろの透明な石が心臓の鼓動のようにずっと光っているのを見つけた。

「これが恩雅エンヤの魂の水晶なのか?」

 北辰はこの菱形の石を手の上に載せて観察し、その上から暖かさが放たれている。

 エンヤの人形の遺体を埋葬した後、長く立ち留まることなく、腰で切断されたラントロの上半身のところに行き、彼が間に合わなかった神血武装を拾った。

「これは、聖遺物に改造できるかもしれない」

 聖遺物とは、使用者と族の伝承を失った神血武装を特別な処理を施したものである。

 神血武装の時の一部の戦技と魔術を保留しているが、代わりに成長の可能性を失う、つまり血族を狩ることで力を強めることができない神血武装である。

「哀れなやつだ」

 最後にここに留まる時、北辰はラントロの死体の前で、めったに見せない冷たさ以外の表情、哀憐を表した。

 その後、黒い炎を撒き、死者の体幹を包み込み、激しい燃焼で虚無に帰した。

 ……

「この場所はどういうことなんだ?一体誰が…」

 レヴァンティンはこの白い空間に心の奥からの恐れを感じた。彼の魔剣で振り出した宵いろの炎が、白い空間の隅々に落ちた。

 このようにレヴァンティンの攻撃を放置して、しばらく経ってから、時御の声がこの白い空間の周囲からゆうゆうと響いた。

「おいおい、永遠の命をほぼ持つ血族でも、こんなに魔力を無駄に使うのはダメだよ。ここで使う分だけ失うんだ」

「ほう——」

 レヴァンティンは確かに自分の魔力量が入ってきた時と比べて、すでに少なくなっていることに気づいた。つまり、周囲の環境から魔力を補充できないのだ。

「臆病者、暗い所に隠れてばかりいるのか。もうそろそろ現れろよ」

「臆病者?君はラントロという奴のことを言っているのか。残念ながら、あいつはもう殺された」

「何に?!」

 レヴァンティンは当然これが時御の策略で、わざと自分に隙を見せるようにしているのではないかと疑う。しかし、向こうの自信満々な口調と、自分の一方的な困り具合…

 ラントロの実力について、レヴァンティンは見たことがある。全力戦いすれば、彼ら聖血軍の将軍でも、勝つ自信がある。

「つまらない冗談だ。ラントロは至高の賜福を持っている。血殺師に対して無敵な存在だ」

 レヴァンティンは無理やり冷静な様子をよそおった。彼はラントロがあまりに慎重すぎて北辰の剣で殺されたことを知らない。

「至高の賜福?話してみろ」

 時御は情報を収集できることを聞いて、もう隠れ続けるのが面倒になり、率直にレヴァンティンの前に姿を現した。

 黒髪の少年は片方の手を耳の後にあて、もう一方の手を腰につけ、屈んでレヴァンティンの前に身を寄せた。

「話してみろ」

「チッ、お前野郎…」

 自分よりも傲慢な血殺師に対して、レヴァンティンはもう殺意を隠さないで、宵いろの炎が覆う魔剣を時御の首に向けて落とした。

 宵いろの炎が再びこの白い空間で瞬く。しかし、レヴァンティンが予想していたようながめんは起こらなかった。

 彼の魔剣は、時御から半メートルの空中で、止まった…

「これは…」

 いや、止まっていない。

 他の血族や血殺師ならまったく気づかないかもしれない。でもレイトクは第二真祖から与えられた精血を飲んで、魂も大きく強化されており、普通の血族の感知力はとレヴァンティン比べてならない。

 彼が振り下ろした魔剣は静止していないし、無形の鉄盾に当たったわけでもない。ただこの過程が無限に延ばされただけだ。

「君に見つけられたな」

「どういう意味だ?」

「さすが真祖の血を持つ血族だ」

「ふん、てめえはこれで嫉妬しているのか?」

「そんなことはないでくださいよ。お前のような発言とまったく関係ない弱者は、格好が悪いな」

「?!」

 時御との間に巨大な光が迸り出て、レヴァンティンを飲み込んだ。刹那に、レヴァンティンは海で嵐の目に巻き込まれる小さな船のように、情けなく遠くの白い地面に叩きつけられた。

「ゴホゴホ!」

 赤く、内臓の破片が混じる血がレヴァンティンの口から流れ出た。

 この男は何もしないのに、一撃で私を重傷させることができる。なんと大きな差があることか。まるで次元が違う存在だ…

 忌はレヴァンティンが今最も強く感じている感情で、彼の殺意、悲しみと理性を覆い隠している。目の前の黒髪の人間が、彼に前例のない圧迫感を与えている。

 もう逃げる道はない。レヴァンティンは倒れて地面に横たわり、時御が自分に向かって歩いてくるのを無力に見ている。

 もしかするとこれだけが方法だ…

 レヴァンティンの頭に偏執的な考えが浮かんだ。彼は自分の魔剣を握りしめ、自分の首に刺した。血族を殺す方法は神血武装だけではない。

「甘い考えだ」

「動けない…」

 魔剣は自分の首から二十センチ離れた半空中で止まっている。レヴァンティンは再びこの支配感に満たされている。

「獲物を弄ぶのはこれで終わりにしよう」

 レヴァンティンは傲慢な態度を捨てた。彼は自分が高階血族であるにも関わらず、目の前の血殺師に敵わないことを認めた。

「残念ながら、君に選ぶ権利はない」

 パチ——

 時御は指を鳴らした。白い空間は石が投げ込まれた湖のように色を失った。

 レヴァンティンの目の前の白さを取って代わるのは、もう一つの白い存在で、空から彼に向けて猛って飛びかかってきた。魂が沸き立つような咆哮とともに。

「これは何だ?!」

 岩のような前足がレヴァンティンを簡単に地面に押し倒し、体と魔剣は動けなくなった。

「この血族は君に任せるよ、エンゼル。俺はもう一つのやつを処理しなければならない」

 巨爪で頭だけ押されていないラヴァンティンは、時御が白い巨物の上に向かって挨拶しているのを見た。

 エンゼル?

 この名前を聞いて、レヴァンティンの心は数道の雷を受けたようだ。

 彼が最も直面したくない人間と言えば、恐らくエンゼルだろう、今回の任務の目標の兄である。

 この人は戦場にいるで、彼の数えきれない同族の命を奪った血殺師だ。

「つまり…これが、伝説の竜なの?」

 ラヴァンティンは目を大きく開けた。今までになって、自分を押しつけている巨大な存在の正体を確認した。人間と血族の前から既に存在し、今では絶滅しているはずの古竜。

 一瞬の現実を受け入れられないラヴァンティンは、頭を横に向けた。すると、銀いろのライオンの死体が隅に倒れているのを見た。その隣に立っている男がロゴスだ。

「あそこも失敗したのか…」

 ……

 ついさっき。

「ゴオー」

 空と大地を貫く、巨獣の咆哮声が北辰の上から伝わってきて、彼の進む足を止めた。

「あれは…」

 眩しい太陽光をこらえながら、北辰は二対の翼、四本の鋭い爪を持つ古の存在を見た。荒々しい鱗は山の表面に生える岩のようで、背鰭からは破滅を象徴する赤い雷光が流れている。

 それが率いる二足飛竜たちは、烏群が覆う空を突破し、竜息のき付ける下で、空に黒い斑点の雨が降ってきた。

「援軍なのか…早く速度を上げなければならない」

 北辰は間違いなく、それは千年前に既に絶滅しているはずの古竜の一族だと思う。

 烏群を攻撃した行為をしているけれども、本当に援軍なのか、現場に行って確認しなければ分からない。

「よし、ここで止まってください」

「なん——」

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