39 シルヴィアの作戦 その二
この革命騒動は元々コルラード国王陛下の改革が発端で起きた問題だ。
コルラード国王陛下は非常に先進的な人であり、他国の政治から学べる部分を多く学び国を豊かにするために非常に意欲的に動いた。
そのうちの政策の一つが、明確ではない国家予算の使用用途を少なくすること。
その中で必要なものは、どんな風に必要かということを明確にするために受け取り手に対して資料を請求したし、それに納得できなければそれを理由に次々と予算の配分を打ち切った。
その容赦のなさによって本当に必要であった、クランプトンなどの領地の維持費を削ってしまった。
それにより、十年前から管理するための魔法の使い手である彼らの暮らしが段々と厳しくなり、今の状況になった、クランプトン伯爵家の問題はその最たるものだ。
慣れない事業に手を出しだまされ家を乗っ取られ、管理していた森に悪影響まで出ている。
しかしそうだと説明しても、では責任の所在はどうなるのかという話になってくる。
だからこそこの話、気が付いている人間がいても誰も手を出さないし、助言をしない。
誰が悪いか明確ではないのだ。
シルヴィアはナタリアの手を引いてホールの中に入る。それから多くの貴族たちから注目を集めて遠巻きにされているダンヴァーズ公爵を見つけ大股で近寄って行った。
それからしゃんと背筋を伸ばして、高らかな声で言った。
「ダンヴァーズ公爵閣下、お久しぶりですわ。あなたに大切なお話が有って今日は参りましたのよ」
「……グッドフェロー伯爵令嬢……久しぶり。元気そうで何より。だけど……その子は……」
壁に寄りかかって一人グラスを傾けていたダンヴァーズ公爵もとい、レナルドは驚いた様子でシルヴィアの後ろにいるナタリアの事を見つめていた。
レナルドと、シルヴィアは同じ時期に見習いの騎士と、魔法学校の学生として面識があった。
両方、王家に仕えるために騎士と魔法使いを目指していたために、結婚相手として丁度いいとお互いに思っていた時期もあった。
しかしシルヴィアの両親であるグッドフェロー伯爵家は、今から王家に仕えるのはリスクが高すぎると判断してシルヴィアにその道をあきらめさせた。
なので結局同じ職場で働くことはなかったが、お互いに顔を知っている関係性だった。
しかし、そんなシルヴィアが声を掛けてきたことよりも、レナルドは後ろにいるナタリアの方に視線をやっている。
それを丁度いいとばかりに彼女を引き寄せ、シルヴィアは周りで様子を窺っている貴族たちにも聞こえるようにわざと声を大きくして言う。
「この方は、クランプトン伯爵であり、わたくしの心の友ですわ。そしてこの暗雲立ち込めるフェリティマ王国に光を取り戻す人物ですの。お話聞いていただけますか?」
ナタリアはシルヴィアが言ったようにきちんと毅然としていて、様になっている。
その背伸びしているけれど何も物事を理解していない様子が、これまた彼女の可愛いポイントなのだが、そういうことは置いておいて、シルヴィアはレナルドがどう出るかということに注目していた。
彼が興味を示してくれればいいが、もし、アイリスがナタリアの事を見切っていて、彼にも協力をしないように助言をしていたら厄介だ。
ナタリアがアイリスにした行為はとても簡単に許されることではない。
見たところひとりの様子だったが、レナルドはすぐに顔を青くさせて、駆けだした。
「話はもちろん聞きたい、でもそんなことより。アイリスは君に会いに行くと言って、別れたんだ。三十分は前の事になる」
早口にそれだけ言って、すぐに彼女がナタリアに会うために誰の元へと向かったのかわかった。
答えはアルフィーのところだろう。
「それは一大事ですわ。ディラック侯爵家はクランプトン伯爵家の稀有な魔法を狙っていますもの。
きっと彼らが、アイリス様をおびき寄せたに違いありません。
彼らはクランプトン伯爵家が苦しい中で必死に森の管理を続けようとしたのにもかかわらず、彼らをだまし国に魔獣を溢れかえらせる事態に陥れた悪党です。
アイリス様の緑の魔法を使って、その事実を隠蔽しようとしているはずですわ。
すぐに探し出さなくてはなりませんわッ」
シルヴィアは、レナルドがシルヴィアの言葉を最後まで聞かず、去っていくのを見ながらも平然とディラック侯爵家の悪評を周りに聞こえるようにいう。
もちろんその言葉を聞いた、周りの貴族たちはどよめき、しかしたしかに尋常ではない速度でクランプトン伯爵領の森が死に絶えていっているという話をヒソヒソとしだす。
「クランプトン伯爵、わたくしたちも行きましょう。稀有な魔法を持つ、森の管理者であるあなたのお姉さまを救うために」
「……」
……頷きなさいナタリア。
シルヴィアはまったく状況が分かっていないナタリアに念を込めてそう睨みつけた。
すると彼女は余計なことを言わずに機械のようにぎくしゃくした動きで深く頷いた。
「そしてディラック侯爵家の人間に問い詰めるのですわ。自分たちが贅沢をするために魔獣の被害が出ていることを知っていながら、どんな気持ちだったのか。
国が足並みをそろえて大きく前進しようとしているときに足を引っ張り、前向きに努力している前クランプトン伯爵夫妻を陥れた意味を問いただすのです! いきますわよ!」
さらにまくしたてると、ナタリアはまた深く頷いた。
彼女の手を引いてシルヴィアが歩き出すと、その場にいた貴族たちは一歩また一歩と歩き出しシルヴィアたちの後ろをついてくる。
その様子にシルヴィアは心の中でほくそ笑んだ。
こんな事態に興味を示さない人間などいない。
今日、革命騒動にまでなった国の大きな問題に何か変化が起きる。それがどんな変化になるのか誰にも今の時点では予測できないし、予測できないからこそその答えを誰しもが知りたいと思ってしまう。
それになにより情報は武器だ。
いち早く知っていれば、誰よりも早く立ち回ることができる。
そう望むであろう人間の意識を利用して、多くの証人を作りこの騒動の本当の悪役を多くの人に認めさせることが出来ればシルヴィアの勝ちだ。
「うふふっ」
シルヴィアは小さく微笑んで、高揚する気分を抑えながら、レナルドが消えていった方へと向かうのだった。




