32 王妃殿下と王太子殿下 その一
タウンハウスに移動してからアイリスたちは、その屋敷の管理維持をしてくれている使用人たちに挨拶したり予定をすり合わせたり、些末な屋敷の管理など忙しく過ごした。
基本的にはダンヴァーズ公爵邸と同じなので、あまり苦労することはなかったが、その中でレナルドは公爵邸にいた時よりも多く王宮に足を運んでいた。
建国祭も近いのでその関係で、呼び出されているのだろうと思っていたが、レナルドはアイリスにセオドーラ王妃殿下が会いたがっているという話を持ってきた。
もちろんアイリスは呼ばれたからには断れる立場ではないと思うし、どんな話をするにしても、お目通りできるのであればそれは一応喜ばしい事だと思う。
しかしレナルドは、無理に会う必要はないとアイリスに念を押し、断る前提で話をしてきた。
それはきっと革命の件には、アイリスを関わらせるつもりはないといった自分自身の言葉を守ろうとしての事だろうと思ったし、実際に彼がそういうのならば会わないという選択肢もあるのだという事を視野に入れた。
それでもアイリスは、セオドーラに会いに行くことを決めた。
その決断の中には、少しでもお役に立てるならという気持ちもあったが、以前にレナルドが仕えていた王族の人々に会って、少しでもレナルドがアイリスと会う前にはどんな風だったかを知りたいという気持ちもあった。
「こちらでございます」
王宮に仕えている侍女は丁寧な仕草で扉を開いた。
それにレナルドが続き、アイリスは彼の後ろをついていく。
セオドーラに会うからには王宮の応接室に向かって、正式に面談をするのだと思っていたのだが、通された場所は国の中枢であるセオドーラの執務室だった。
本来であればこんな機密情報がたくさんある場所にアイリスのような、いち貴族が足を踏み入れていい場所ではない。
しかしそれにも納得してしまうほどに、王宮の中というのはとても騒然としていた。
あちこちで書類の束を持った事務官の人たちが忙しなく動き回っているし、騎士たちが多く王宮の中に配置されていて、誰もかれもにぎらついた警戒の視線を向けている。
王宮というのはもっと厳粛な雰囲気の漂っている、落ち着いた場所だと思っていたが、そうでななかったらしい。
王族が優雅にこれからの国の事について話をするべく、静かで使用人たちも厳選されたプロフェッショナルばかりだと考えていたが、ぱたぱた、と人の駆け足の音が常に響いているそんな場所だった。
唖然としていつつも、執務室に入っていくレナルドに続く。
執務室の中はとても広く、見渡す限り書類が詰まった棚がぎっしりと置かれていて圧巻だった。
壁紙も窓枠もカーテンも、すべてが最高級で内装は王宮らしくとても高級感あふれる様子だが、中にいる人々は、血の気の引いた顔で眉間にしわを寄せている。
「セオドーラ王妃殿下、ダンヴァーズ公爵閣下ならびに公爵夫人をお連れいたしました」
執務室の中心の一番大きな机で、次から次に書類を片付けている女性に侍女は声をかける。
それが王妃殿下なのだと侍女が呼びかけるまで気がつかないほどに、忙しない空気の中で大勢が仕事をしていて、彼女の雰囲気はまるで仕事がよくできるいち事務官のようだった。
「……」
呼びかけられて彼女はふと顔をあげて、レナルドとアイリスの方へと視線を向ける。
「ああ、来ましたか。全員、今手持ちの仕事を持って下がってください。わたくしは公爵夫妻と話がありますので」
周りにいる使用人たちにそう声をかけて、彼女は立ち上がり、執務室の一角に置いてあるソファーセットの方へと向かう。




