4話 俺の運命
3話、内容一部変更いたしました…!申し訳ありません。
……寝ていらっしゃる。
視線を感じないな、と思ってそっと左のイケメン・桐崎くんを見ると、腕に埋めた顔をこちらに向けながらすぅと寝息を立てていた。
俺はちゃんとシチュボの音声を切ってから、イヤホンを取る。
このイケメンが、寝てる時に涎出ないとかどういう神スキルだよったく。
イライラもしてもなお、やはり顔がいいからか、彼の顔を細かなとこまで見つめる。
あ、おでこにニキビできてる。
ほわっと、どこか気持ちが軽くなったようなそんな感覚が俺をに舞い降りた。こんなイケメンにもやはりニキビはできるのかと、しみじみ思ってしまったのかもしれない。まあ、前髪の長さ的に普段からは見ることはできないのだけれど。
イケメンの弱みを握ったと思うと、謎の背徳感が俺を襲う。………なんか、すごくえっちだ。
そんなことを思うなんて、と俺はハッとして顔をブンブン横に振った。
イケメン、恐るべし。
「んじゃ、入学式向かうぞ〜」
去年の学年主任が皆に伝令のようにクラスを覗いては大声で叫ぶ。
あ、もうそんな時間?
俺は時計をみると、時計はとっくに9時を回っていた。
周りが一斉に廊下へ流れ込む。
教室は、俺と……桐崎だけになっていた。
ちら、と寝ているであろう桐崎の方に顔を向ける。
「……見過ぎ」
寝ていたはずの彼は、体勢を変えることなく気だるそうな顔で俺を見た。
……バレてた?
どうしようもない羞恥心が、俺の頬を赤く染める。
「ご、めん。ほんと、悪い。」
「……別に気してないけどね。
俺の事を興味持つやつなんて山ほどいるから。」
「……?それって、どういう__ 」
「おーい!急げ急げ!!」
「あ、うっす!」
「……ん」
……どういう、意味だろうか。
単にモテるとかだろうか?お金持ちだから媚を売る輩がいるということだろうか?
彼の諦めたような瞳が、どうも俺の脳裏にこびりついた。
これが、BLゲームの主人公の運命というやつで、興味というものをもつのはもしかしたらプログラムの一環かも知れない。………でも、
モヤモヤとした霧を抱えながら、俺は入学式場の体育館へ向かった。
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眠すぎる入学式を終え、クラスに帰ってくれば、クラスにはほぼ確定で決まったグループで『このクラスの担任は新人のイケメンだったね!』とか『C組の担任チョー可愛くね!?』とか『学年主任は変わんねーのな!』という愚痴と期待を込めた何気ない会話が飛び交った。
その中でも、桐崎倭櫻は視線を異様に集めながらもどのグループの輪にも入らなかった。
イケメンの運命だろうか、高嶺の花というのは。
そんな呑気な思考回路は、次の瞬間に切り捨てられることとなる。
「な、お前も"男"が好きなんかよ」
柄の悪い1人の男生徒が、ニヤニヤと気持ち悪く口角を上げながら腰に手を当て上から目線で話しかけた。
……なんだって?
「……別に」
「でもお前のお父さんさぁ、北条様んとこの夫君様と"浮気"したんだっけ?
しかも男同士で?ありえねーだろ。どうせ権力に溺れて手ェ出したんだろ?なぁ!!!」
バンッと桐崎の机を勢いよく叩くと、先ほどの嫌らしい笑みが嘘かのように憎悪を確実に向けた顔で彼を見つめる。
彼は、自身の言葉でさらに怒りを増したのか、桐崎の胸ぐらを掴んだ。
桐崎はやり返さない。
慣れているのか、はい。はい。と流すように言葉を受け流す。
それが、余計気に入らなかったのかもしれない。
吹っ切れたような瞳をした男が、桐崎の胸ぐらを勢いよく後ろに押して離す。
案の定、彼は後ろに大きな音を立てて座り込んだ。
「はっ、汚ぇ。菌が移る。」
毒を吐き捨てれば、柄の悪い男は廊下へでた。
俺は、呆然とただただ立ち尽くす。
助けに、入らなければならなかった。
主人公なら、絶対に彼を助けたのだろう。
痛いほど、突きつけられる現実。
俺は、ゲームの主人公の転生者だが、ゲームの主人公ではない。
推しを目の前にして、俺はこんなにも無力なのか。
そんな自分に嫌気がさしながらも、いてもたってもいられずに俺は桐崎の方へ向かう。
これは単に俺の自己満だけど、許せよ。
「よっ」
「……なに」
俺の肩に桐崎の腕を乗せる。
「保健室いこーぜ。……痛くねえ?歩ける?」
「ちょ、待って本当に行くの?」
「保健室の先生が美人か見にいくの付き合えよ」
入学式寝てて聞いてなかったわ!と告げ口を告げながら彼に笑いかける。
笑いながら彼の背中を軽く叩くと、彼は驚いたような顔をしながら、少し笑ってつぶやいた。
「美人でも白石には無理だよ」
「どこ見てんだイケメンだろ」
あははっと彼が笑う顔は、BLゲームのジャケットにそっくりで無事に尊かった。