2話 ドキドキ(?)のクラス替え
春の暖かな空気が頬を撫でるなか、俺は期待と興奮をお気持ち程度に鎮めながらワックワクで学校へ足を軽快に進めていた。
「俺、箱推しだったから……」
みんなに迫られちゃったら困るなぁ、えへへ。
口角が自然に上がるのを察知し、俺は勢いよく自身の頬を叩く。
危ない、危ない。俺はいくらギャルゲームの主人公という神スキルが付属していたとしても中身はただの社畜リーマン。どこかで攻略キャラが俺を見て、ルートフラグを折ってしまうことは、断じて。断じて!!!!許されないのだ。
「まあ、そんな簡単にいくとは思わないんですけどね」
一応、ゲームの世界だとしても“人生”には変わりない。
ゲームの選択肢を熟知したと自信を持って言えるほどガチ勢でもなかったので、不安要素は大いにある。
それでも、この胸の高鳴りは治ることを知らない。
「角でぶつかっちゃったりしない…!?」
俺はコーナーを見つければ角をこっそりと覗く。
曲がり角の先には遠くにこちらを見つめ顔を顰めている近所のおばさん達がいた。
不審者でごめんなさい。
俺はそっと制服についている学校のワッペンを手で隠した。
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『私立花咲高等学校』
国内トップのお金持ちが集う名門私立校。勉強やスポーツはもちろんのこと、芸術や医学、政治などまでにも力を入れ、生徒の自主性を第一と豪語する人気な学校だ。
ちなみに俺は特待生としてこの学校に入ったわけだが、だからと言ってお金持ちじゃないというとそれも違う。両親が規模の大きい動物病院の院長と副院長をしており、普通よりは裕福であると自信を持てる。
……ただ、
「え、うそ!見てくださいまし!〇〇〇製薬の北条様ですわ〜!!今年ご入学されるというのは本当なのですね!」
「えぇ!?どこですの!?」
「ああ、もう行って参られました…朝からなんという幸福!!」
「うう、私も謁見したかったですわ…。」
あんな御曹司には負けるって。謁見とか言われちゃってるよ、高校生で謁見なんて言われねぇよ普通。
俺はスタスタと早歩きをしながら彼女らとすれ違う。俺も顔いいはずなんだけど…
「でも、北条様って……」
「私も聞いたことありますの。”あの噂”でしょう?」
「ええ。桐崎様と同じ学校へ入学だなんて…お可哀想に」
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待ちに待った運命の瞬間、クラス替え。
しかしそれは俺にとっては到底運命とは言えないものである。
だって俺ゲームでクラス配置知ってるし。
確か俺は桐谷さくらちゃんと同じクラスの2-Aで……
「あれ、さくらちゃんは…?」
俺の名前はちゃんと2-Aに記載されてあるが、何故かさくらちゃんの名前は見当たらない。
おかしいのが、全てのクラスに『桐谷さくら』という名前が存在しないのだ。
嘘だ、どういうこと。バグ?いや、いやいやいや、そんなこと……
俺はハッとした。最悪の予感がする。俺は恐る恐る名簿に”ある名前”を探す。
”ある名前”はそこに存在し、俺はその場で立ちくらみそうになった。
ああ、どうやら、
ここはBLゲームの世界のようです。