1話 新学期の朝
4月1日0時00分
その通知は突如訪れた。
ピコン
俺の今一推しのアプリギャルゲー『花が咲く日まで』通称”花咲く”
お金持ちの学園の中で特待生として歓迎された主人公がお嬢様達と恋に落ちていく、というありきたり設定だが、繊細な描写や世界観、切なくなる過去などいわばアニメのように完成されたストーリーが売りで、それがまたとてもとても良く、何度見ても飽きがこない。
エイプリルフール、去年は確かお嬢様たちが入れ替わっていたんだっけ。
あれもあれで可愛かったから、ぜひもう一度ご所望願おうか……
なんてホクホクと考えながらアプリを開く。
今回のネタはイベ情報が事前に公開されてなかったから、随分混み合っていると予想していたが、案外すんなり入ることができた。
珍しい、どうしてだろうか。
俺はホーム画面からお知らせ、そして公式のイベント掲示板を見る。
「……」
しまった、無言でアプリを閉じてしまった。
「しかし…、うん。なるほどな、そりゃすんなり入れるわけだ。」
多分、皆俺と同じ反応をしたのだろう。
もう一度、掲示板の文字を思い出す。
脳内に浮かんだのは『【期間限定!】4月1日〜4月7日までBLゲーム「薔薇が咲く日まで」を開催!』の文字。
いや名前の変更の仕方うまいかよ!なんてツッコミはさておき、ギャルゲー歴=年齢の俺にとっては結構ドぎつい仕様だ。
しっかし、毎度毎度作画コストはバカ高かったなぁと、攻略対象の男キャラスチルを脳内にインプットする。
断じて!断じて!!そういうわけではないが、まあ、やってみますか
俺はしゃーなしと呟きながらアプリを開く。正直、ワクワクしてるんだけどね。
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「……うわ、眩し」
朝の木漏れ日が、謎に自分の瞼めがけて覆いかぶさってきた。
こんなの、起こしにかかってるだろ。と少し不満をぼやきながら、俺は手を瞼に覆い被させる。
先ほどの光景、これで何度目だろうか。
自己暗示かのように張り巡らされる夢の光景に飽き飽きしながらも、少し肌寒い布団にくるまった。
俺は前世の記憶がある。
ていうか、これは前世云々の話ではなく所謂”転生”だと思う。
だって、
「俺が花咲学園特待生、白石凪なんだもんな」
ははっと苦笑いをしながらアイロンをかけた制服に仁王立ちをかます。
俺は今年で2年生だ。そして、何より”花咲く”の舞台も2年生である。
つーまーりだ!
俺は!!
ここで!!!
美少女お嬢様達とラブラブイチャイチャ青春をすることができる!!!!
ガッツポーズをかますと下から朝食ができたと呼ぶ声が聞こえる。
俺の青春の1ページ、誰に捧げようかな…なんて考えていると階段から転げ落ちそうになって弟に「お兄何やってんのさ…」とドン引かれたのはまた別の話である。