すれ違い
マッシーナ族の人たちに王都に来るよう手紙を出したセオドア。交渉は上手くいくのか。
「久しぶりに王冠被るな。」
「確かに、セオドア様がこのようなしっかりとした
お召し物を着るのは久しぶりにございますな。」
執事が言うように、私は普段いわゆる王様らしい
服を着ない。いつもは、庶民とほとんど変わらない服を着ている。
「やっぱり、慣れないな。」
貴族の着る服は襟の部分が長い。それゆえに
首がちょっと合わないのだ。そして仕立て直すほど
でもないので、たまにしか着ない。あと単純に
正装は着るのが面倒くさい。
執事は護衛兼ファッションチェックのために
居てもらっている。普段着ない服なのでおかしな
部分がないか確認してもらうのだ。
今日は、今まで交渉をしてきたマッシーナ族の
族長に会う日だ。いつもは息子達の遊び場と化している玉座の間も、厳かな雰囲気を醸し出して…
(あ…天井の梁にボールが挟まってる)
バレんやろ…いけるいける
「マッシーナ族、族長のスヴィトです。」
「ようこそ、王都へ。知っていると思うが、我が
この世の5代目の王、セオドアである。」
…シーン……
なんだこの沈黙は、ちょっとかっこつけすぎたか?
スヴィトさんも、なんというかソワソワしてるし。
あ…用件があるのはこっちだから黙りこくってるのは
こっちになるのか。
「…あ〜、わざわざ呼び出してすまなかったな。
王都に来てもらったのには理由がある。
今この世界、特に王都はとてつもない不作が続いておる。我々でも対策に四苦八苦していてな、このままでは大飢饉が起こる。そこで、そなたらに協力してほしいのだが…」
「喜んでお引き受けいたします。ですが、
その前に…」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
「は?」
思わず声に出てしまった。
「我々は何度も王自ら我々の住む土地まで来ていただいたにもかかわらず、王だと知りませんでした!」
…つまりは、こちらは本気であることを伝えるために我が交渉の場に立っていたのに、マッシーナ族の皆さんにはただの使いの者に見えていたということか。
そんな馬鹿な。
「よいよい、我も少しみすぼらしい格好でいたからな。気づかないのも、まぁ…わからんでもないわ。
そんなことより、そなたらは協力してくれるのだな?」
「もちろんでございます。」
あっさりと交渉が成立した。というか、そんなに我の服装はおかしかったのか。今度ロイヤーくん
(法務部長)にでも服の相談をしようかな。
あとから聞いた話によると、昔、マッシーナ族が
差別されていた時代に、差別から逃れるために僻地で
村を作ったそうだが、それ以降、外、主に王都の情報は入ってこなくなったそうだ。だから、私の顔はおろか王が変わったことすら知らなかったのだ。
「ところで、スヴィト殿。さっそくだが部屋を移動しようか。細かい今後の予定を決めようじゃないか。」
〜会議室にて〜
「さて、スヴィト殿は[ウォードの箱]というものを知っているか?」
「知りませんね。ムードロ、知っているか?」
「存じ上げません。」
「そうか、少し説明をしよう。」
数十年前…ある港町にナサニエル・ウォードという男がいた。その男は庭いじりが好きでよく旅先で綺麗な草花を見つけては家に持ち帰っていた。しかし、港町に住んでいる関係上、上手く育たなかったり、船で移動しようものなら家に着くころには枯れていたりしていた。あるとき、旅先で綺麗な野花を見つけたことがあった。ウォードは家に持ち帰るべく、土ごと瓶に入れて持った。帰りも船だったので期待はしていなかったのもあって、家に帰るとその花のことは忘れていた。しかし、数日後に思い出して花を見てみると、花は枯れないどころか、新しいつぼみまでつけていた。瓶の蓋は堅く閉じていた。
つまりは、一定の条件下において植物は密閉されていても育つのだ。理屈としては日光さえ当たれば水分は循環し、手入れする必要も無いということだ。
「そこで、我々は巨大な[ウォードの箱]を作ることにしたんだよ。そして、願わくば安定した食料供給ができないかと狙っているのだよ。」
「それは凄いですね。しかし、実現できるのでしょうか?」
「場所や物資はこちらで用意する。しかし、いざ作るとなると、どんなに努力しても、魔法の力を使っても、我々の技術では無理なのだよ。」
「そこで、私たちの技術を使うと?」
「そうだ、君たちの技術力があれば実現と我々は考えている。」
「わかりました。やりましょう!では、私たちは一度村に戻り、準備を始めさせます。」
「わかった、もし王都についてわからないことがあれば都営図書館を使うといい。だいたいのことは分かるはずだ。」
「ありがとうございます。また機会があれば私たちの村に来てください。見せたいものがあるんです。」
見せたいもの、というものが少し気になったが、
話はここで終わった。
「ふぅ〜、終わった〜〜。」
思わずが漏れる。
「お疲れ様でした。あなた。」
妻が声をかけてくれた。これだけで疲れが吹き飛ぶようだ。
「ああ、上手くいったよ。……そういえば、玉座の間の天井の梁にボールが挟まっていたんだよ。取って欲しいんだが、魔法得意だったろ?取ってくれないか?」
「…どうしてあそこにボールが挟まるのかしらね…」
彼女は不思議そうにしながら、ボールを取ってくれた。
セオドア(主人公)、妻子持ちなんですね…王様だからそりゃそうか。
次回はマッシーナ族の村へ訪問すると思います。