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美味い飯

遭難してしまったセオドア。少女に連れられどこに行くのか。

 少女に連れられ、兵を歩かせていく。念の為、少女のそばに数人の兵を歩かせ、我は少し離れた所からついていく。見た目は少女だが、世の中それだけで危険かを判断できるほど単純ではない。

「なんだか、あなたたち物騒ね。そんなに警戒しちゃってさ。あの貴族がそんなに大切なのかしら。」

兵は答えない。代わりに、少女をキッと睨む。

「セオドア、あの子供の背格好。見たことないか?」

 なんだろう、たしかに見覚えのあるような気がするが、どこの民族か、わからない。

「着いたわ。ここよ。」

 そこは峡谷にひっそりと佇む、小さな村。そしてそこには、少女と同じ民族であろう者らが生活していた。

「お嬢さん、俺たちはこの人数が泊まれる宿があると嬉しいんだが、紹介してくれんかね?」

 ジャズが聞くと少女は快く了承してくれた。宿屋というより民泊だが、それでも野宿よりかは何倍もいい。

 しかし、この村の住民は感じが悪い。笑顔ひとつ無いどころか、睨まれているような気すらする。とても歓迎されているとは思えない。

我とジャズ、その他2人の兵が同じ家に泊まらせて貰うことになった。他の家に泊まる者も、気を許しすぎないように注意しておいた。

「夕食ができております。」

やっぱり感じの悪い家主に言われて、席に着く。

 机の上に並べられたのはソーセージやパンなどの素朴だが確実に美味しそうな料理たち。

「いただこう。」

 ソーセージは味付けはされていないように感じるが、肉の味がしっかりしていて美味しい。ソーセージの油を感じたところでパンを口に運ぶと、ギトギト感が少しリセットされて飽きない。

「この飲み物はなんでしょう。」

 うちの兵が聞くと家主は少し発酵させた乳と答えた。発酵が気になるが、食わず嫌いは良くない。思いきってのどに流し込むと、なんともなれない味がした。酸っぱくてしょっぱい。失礼だが合わない。そう思いながらソーセージを食べると、なんと!今までの油っぽさがパンを食べたとき以上に無くなり、始めと同じように肉を感じることができるではないか!

「これは…美味えなぁ…。」

 鎧の隙間から食べるジャズも思わず声を漏らす、最高の食事だった。

 翌日、外が明るくなってきたころに目を覚ますと、すでにジャズたちが起きていた。

「あいつらは、朝の運動に行かせたよ。なに、俺がいるからセオドアは守れるし、あいつらも自分の命くらい守れるさ。」

 どうやら連れてきた兵は皆、既に起きて体を動かしているらしい。

「お前はもうこの村を信用したのか?」

「まぁ、この人たちに見覚えがあるだけだ。」

 ジャズが何か意味ありげなことを言うと、ふといい匂いがしてきたことに気づく。

「朝食がそろそろできるかな。昨日の夕食も美味しかったし、期待してしまうな。」

「そうだな、お前みたいな王族はあんまり食わんタイプの飯かもしれんな。」

「なんだ、お前はああいう食事は食べ飽きてる感じか?」

「いや、美味かったよ。」

 なんとなく、まっすぐにジャズが人を褒めるのも珍しいと思った。


「朝食でございます。」

 相変わらず、感じの悪い家主が朝食を並べてくれた。ハムやサラダ、玉子にパンと、これまたサッパリしながらも美味しそうな料理が出てきた。家主こそ怖い顔をしているが、案外歓迎してくれているのかもしてない。

「こんなしっかりとした料理を作っていただいて、ありがとうございます。」

「我も、礼を言う。」

 兵が感謝を伝えたので我もそれに乗っかる。家主は無反応だったが、少し表情が緩んだ気がした。

 それにしても、こんな日もあまり届かないような場所で農業ができるものなのだろうか。もし貴重なパンなのであれば、我々はここの人たちにかなりの負担をさせているのではないだろうか。そんなことを考えながら、我々は朝食を済ませた。


「ここの族長が面会の準備ができたと申しております。参りましょう。」

 昨日、少女に連れられここに来たが、寝泊まりできる場所を確保してくれたのは他ならない少女だ。我々は何もしてないどころか、挨拶すらできていない。

「セオドア、そろそろここの人たちが何族かわかったか?」

「まだピンとこないな。」

「おいおい、王様ともあろう人がわからない、じゃいけねぇだろう。まぁ世の中には何十何百という族がある。なかでもここは、あまり目立つ方じゃないしな。」

「結局なんなのだ。これから族長に会うのに、流石に失礼になってしまう。教えておくれよ。」

「相変わらず、腰が低いな。王様なんだからもっとドッシリと構えて欲しいんだがな。」

「教えておくれよ。」

「…クリフ族だ。」

 聞いたことがあるような、ないような。記録書で見たんだったか。

「まぁあれだ、族長様と話してるうちに解るさ。」

 ジャズはすぐに教えずこうやって濁すことがある。考えさせたいのだろうが、彼のことだからただ面倒くさいだけなのかもわからない。

 ひと回り大きな家に案内されると、死んでるんじゃないかと疑う程に生気の無い老人が机の向こうに座っていた。

「ようこそおいでくださいました。久しぶりの来客で、ワタクシも嬉しい限りにございます。」

「いやいや、我々も困っていたところを助けていただき、なんとお礼を言ったらよいか。」

「…その声、やはりカイザー様でございますか?」

 カイザー?なぜ我の一族名を知っている。

「失礼だが、何処かで会いましたかな。」

「なんとお忘れか!昔、あなた様と共に世界を駆け巡ったではありませんか!」

 ふと、この前読んだ記録書の内容が頭に浮かぶ。そうだ、クリフ族は初代が世界を相手に戦っていたとき、割と初めの方から我々カイザー族と共に戦っていた一族だ。

「あなた様は昔から意地悪でしたなぁ。」

 族長のじいさんがしみじみと言う。

「いや、我は確かに姓をカイザーと言うが、なぜわかったのだ。」

「ですから、ワタクシですよ。ハールーンです。それにしても、若いですなぁ昔のままだ。」

 ハールーン。これも記録書に書いてあった。初代の従者の一人だ。それも驚きだが、彼はモウロクしたのか、我を初代と間違えているようだ。

「すまないが、コイツはセオドアだ。カエサルじゃねえよ。」

 ジャズが口を挟む。

「それは失礼、雰囲気が彼と似ていたもので。年で目があまり見えないのですよ。あーそうなると、あなた様は一族の方でしょうか?」

「我はひ孫だ。もう五代目になる。」

 じいさんは時の流れは早いと呟く。

「あぁ、なんのことかわからんでしょう。ワタクシはハールーン=クリフ。世間様が言う、いわゆる長命種[クリフ族]の族長でございます。」

酸っぱくてしょっぱい飲み物はトルコのアイランを参考にしています。

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