降臨
「はあ。しょせん剣は魔力に敵わない……か。使えない奴め」
突然玉座の間が真っ白な光のベールに包まれたかと思うと、次の瞬間、大扉がバーンと音を立てて開き、逆光と後光と共に真っ白のローブをまとった人影が現れた。
同時にメスデュラハンを閉じ込めていた禁呪文の鉄格子も吊り天井も砂のように砕け散る――。
「き、貴様は何者だ」
「名乗らずとも……この流れで分かるであろう」
「か、か、神!」
「さよう。予が神だ。皆が『オーマイゴッド』と呼ぶ絶対の神なのだ」
――!
「控えい控えい。うぬら、頭が高いぞ」
「……」
神様とはいえこの状況で敵に頭を下げる奴などいるだろうか……。大扉の外では青色の物体が大勢驚きの面持ちで覗き見している。
「いいや、お前は神などではない。偽物だ! 無限の魔力を手にしただけのペテン師だぞよ」
「ペテン師だと! 本物の神ではないのか」
どういうことだ。話が違うぞ。タイトルと違うぞ!
「――違う! いきなり何を言い出すのだ魔王よ。トチ狂いよってからに。ツバ飛ぶわ」
神様は青筋を立ててお怒りになっている。
でもそれって、自分で認めているのではないだろうか……。
「クッククック。まあよかろう。お前達が何と言おうが、予は絶対の神なのだ。無限の魔力を持つ神なのだ」
神の両手から光がほとばしり、玉座の間がムッと熱気で包まれる。体感温度が5℃は上がった。真夏の炎天下よりは過ごしやすいくらいだ。
「無限の魔力と無限の魔力で勝負するのであれば、予の方が有利ぞよ」
魔王も両手を上げて力を溜める。見えないけれど、たぶん魔力が溜まっているのだと思う。魔法が使えないので、魔力とかが溜まるとかが見ていてもぜんぜんよく分かんない。
「見栄を張るな魔王よ。なにを根拠に有利だとほざくのか」
「予には仲間がたくさんおる。しかし、貴様にはメスデュラハンしかおらぬ。さらには戦意喪失しもぬけの殻」
――!
「もぬけの殻ではございません。まだ戦えます神様」
また禁呪文をかけられるのは勘弁してほしいが。
「「助太刀いたします、魔王様!」」
魔王軍四天王が魔王の前に立ち並ぶ。いや、横一列だ。皆、危険予知ができている。
「3人になっても魔王軍四天王は四天王だ。俺は巨漢のサイクロプトロール!」
筋肉隆々で体重は100キロ以上あり身長も2mを少し超えている。胸には七つの引っ掻き傷があり飼い猫に引っ掛かれたそうだが真相は分かっていない。本当は野良猫に引っ掛かれたらしい……。登場が少なく忘れ去られているときがしばしばある。
「わたしは妖惑のサッキュバスよ」
胸元が大きく開いた露出度多めの黒いドレス。日焼けを知らない美しく白い肌。細く長い足と踏まれたくなるようなヒール。クネンクネンと黒猫のようなモフモフ尻尾。背中には玩具のような小さな黒い羽が生えているので、その気になれば飛べるらしい。
「そして俺が、聡明のソーサラモナーだ」
汚いローブを着た不潔の魔法使い。短めの木の杖でペン回しの練習をしている。使える魔法は数多く、『みなポックリ!』『蘇ってテヘペロ』『うっふんクス森ピクピク!』『顔中あんこだらけ!』『タマネギの皮なし!』『ハクソ!』『お稲荷さんの皮!』『生のトントロ!』『三時のあなた!』『瞬間移動』などがある。禁呪文は、『年を取ってもカッチカチ』『偵察魔法ドロドローン』『腹の中アニサキスでお腹一杯』『魔法ド忘れ昨日の夕食ド忘れと同じ』などなど。
「グヌヌヌヌ、なぜこの場において自己紹介などするのか!」
文字数稼ぎか――! 神様の怒りがさらに魔力へ注がれる。神様なのだから、魔力ではなく神力とでもいうのだろうか。しらんけど。
「メイド土産よ」
「――!」
メイドがくれるお土産――メイド土産? 言っている意味が分からないぞ。漢字で書かなければ分からないぞ――。勘違いしている人、たぶん大勢いるぞ――。
さらにはたくさんのスライムも魔王の後ろに横一列に並んでいる。みんな目が怒って赤く血走っている。
「デュラハンの敵、絶対に許さないぞ!」
「生きて魔王城の外には出られないと思うがいい!」
「魔王様、早くやっつけちゃって」
さらに魔王妃は……いつからいたのだ。最初から玉座の横に座っていたかもしれない。
無限の魔力と無限の魔力がぶつかり合い光の炸裂が始った。室内で花火のスターマインに火を付けたような迫力だ。音がうるさ過ぎて思わず耳を塞ぐ。首から上は無いのだが。
光の球を両手で次々と投げあう神様と魔王の姿は……二人ドッジボールのようだ。周りの四天王の攻撃は……効いているのかどうか怪しい。力の差が大き過ぎる。二人共強力なバリアーで守られているはずだが。
「はあ、はあ、はあ、まさか、予をここまで苦しめるとは」
神様は何発か魔王の魔力球を顔に受け左側の鼻の穴から血が流れている。白いローブに点々と鼻血が付着している。
「神様、頑張れ」
応援するくらいしか思いつかない。助けようとして光のぶつかる中に入れば、一瞬にして身体が溶けて消え去ってしまうだろう。
「はあ、はあ、仕方がない、予の真の姿を見せてやる。はああああ――」
「な、なんだと! 真の姿だと」
「へ、変身するのか。ラスボスのように」
脇腹から腕が4本生え、筋肉が隆々になり表情が人から化け物へと変わる。長く尖った角と長く尖った耳と長く尖った鼻がニョキニョキと生える。
「真の姿を現したな。やはり、神などではなかった」
「ええ! 神ではないのか!」
「なんだ、偽物かよ。興醒めじゃないか」
「微妙にブサイクね」
「……」
だ、騙されていた――。数百年間も。ガクッ。
イケメンだと思っていたのに――怪物だったなんて。シクシク。
「お嬢さん。男は外見に惑わされてはならない」
「うるさい! 放っといてくれ」
今はそっとしておいてくれ。ごめん、喋ると泣きそうだ。
「グアーハッハッハ、コレナラドウダア」
これまでの数倍。いや、厳密には3倍の攻撃を神が繰り広げると、魔王は回避できずに体や顔に数発の魔力球をくらい後ろに吹き飛んだ。
「グホッ。ゴッホ、ゴッホ。これは……マズイぞよ」
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