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探したぞ

 魔王城四階の一番大きく豪勢な扉をゆっくり開ける。あちこち探し回ってようやく見つけた玉座の間。雲の上とは違い、建物の中はややこしい。まるで迷路のようだ。

「やっと見つけたぞ」

 思わずガッツポーズをしてしまう。

「予は魔王ぞよ。初めから逃げも隠れもせぬ。貴様は何者だ」

 逃げも隠れもしないが聞いて呆れる。トイレに隠れていたし、しっかり逃げたではないか――。

「私は神様の使いで魔王の様子を見に来たのだ。貴様が本物の魔王であるのなら、なぜこんなところでサボっているのだ。人間の討伐はどうした」

 おおよそ平和ボケし自分の使命を忘れたのであろう。まあ、平和ボケしているのは他にもたくさんいそうだがな。

「サボってなどおらん。そもそも魔王の使命が人間の討伐など聞いたことがないぞよ。誰が決めたのだ」

「我が主、神様だ」

「しらん」

 いや、知らんって……。神様をご存じないの? ――それじゃ話にならないぞ。

「そもそも戦いは何も生まぬ。長い年月を掛けて築いた物を一瞬で無に帰すのが戦争ぞよ」

「そうとも。だかその戦いに勝利してこそ自らの歴史を築けるのだろ」


 私は騎士として戦うために生まれてきたのだ。この腰に下げる白金の剣がその証なのだ。

 お料理に使うために持っているのではないのだ――。生まれつき持っているのだ――。


「浅はかぞよ。戦争を繰り返すより平和を継続することの方が困難なことに気付きもしないとは愚かぞよ」

「なんだと。この期に及んで言い逃れか」

 自分の使命を果たせないことへの。

「最近、みな他人のために汗水垂らして働くのに嫌気がさしてきておるのだ。なにかあれば他人と比較を繰り返し、残虐なニュースや天変地異があっても他人事なのだ」

「……」

 なんの話だ。雲の上から見ているだけの神様への悪口か。それなら……否定できないが……。

「遠くで人と魔物が戦っていても、以前の魔王であれば魔王城で酒を飲み他人事であった。人同士が戦争をしていても魔王としては漁夫の利ラッキーと喜んでおった時代もあったのだ」

「討伐するべき人間同士が自滅するのだから、それはそれでラッキーではないか」

「だから卿もしょせんは騎士なのだ」

「……騎士で十分だ。それ以上になにがあるのだ」

「神にはなれぬ」

「――!」


 見透かされているぞ――! 長年神様に仕え続けていれば、いつかは神様になれるかもって魂胆が――!


「大切なことを忘れてはならない。一度しか言わないからよく聞くのだ」

「……」

 こくりと頷いてしまう。大切な話なら聞きたい。聞いておきたい。


「敵であれ味方であれ、人であれ神であれ、この世に生きとし生けるものすべてが……。

 ――予の物なのだ」

「ちょっと待て。予の物って、なんだ」

 うっかり聞き入るところだった。聞き捨てならないことをサラリと言ったぞ。すべてが予の物って……ジャイヤンかあっ――!

「百歩譲って、それは神様にのみ許される台詞だ」

 魔王が言うセリフではない。魔王が目標にするセリフなのかもしれないが、根拠なく言っちゃ駄目だろう。詐欺だ。

「そもそも貴様が仕えている者を神と信じているようだが、そやつは本物の神なのかどうかすら貴様には分からないであろう」

「なんだと。神様を愚弄する気か?」

 魔王だから……いいっちゃあ、いいのか? いや、それよりも、え、神様は神様だろう。いやな汗が出るぞ。額や脇から。

「我が主は正真正銘の神だ。無限の魔力とか……持ってるし――」

 全知全能だし――。自称だけれど。

「無限の魔力なら予も持っておるぞよ。さらには、予はモテるぞよ」

「――!」

 なんだって。神様よりも魔王の方がモテるのか――! いや落ち着け……考えろ自分。これは巧みな魔王の話術だ。「仲間になれば世界の半分あげる」って詐欺と同じだ。冷や汗が出る、古過ぎて。

 しかし――。

 ひ弱な草食系男子より少し茶髪のヤンキーの方が……モテる!

 普通のおっさんより、ちょいワル親父の方が……モテる!

 電動自転車よりマウンテンバイクの方が……モテる!

 豪華な葬儀場よりも家族葬の方が……モテる!

 教頭先生よりも校長先生の方が……モテる!

 銭形平次よりルパン三世の方が……モテる!


 神様は悪事をしてはいけないのに対し、魔王は悪事をしてもよく、さらには良いことをしてもいい。魔王の方が生き方が自由なのは明白……。ハーレムを作っても批判されない。


 ――魔王の方がモテるではないか――! だったら、タイトルおもくそミスってる――!


「さらには、長いスピーチより短いスピーチの方がモテるぞよ」

「うるさい!」

 ちょっと黙って。頭の中の整理が追い付かないから。首から上は無いのだが。

「もはや戦う必要などあるまい。戦わずとも勝敗は決しておる。予の勝ち」

「黙れ! 貴様を倒さないと……」


 魔王を倒さないと……お家に帰れないのだ――とは言えない。神様が迎えに来てくれるとは到底思わない。神のくせに自己中だから。


「貴様の相手など、予がする必要がないぞよ。そろそろ、魔王軍最強の騎士が戻って来るぞよ」

「き、きさま、時間稼ぎだったのか!」

 長いスピーチは、仲間が戻ってくるまでの時間稼ぎだったのか。どおりで、話しに何の脈略もないわけだ。

 くそう、完全に魔王のペースに乗せられたではないか――。


「魔王様、なにやら魔王城内で色んな噂が飛び交っていますよ。デュラハンにそっくりな輩がいるだとか、色違いとか……んんっ」

 緊迫感の無い声と共に全身金属製鎧の騎士が大扉から入ってきた。大きな大剣を腰の鞘にぶら下げている。

 一目で分かる。こいつが魔王軍最強の剣士か――。

「初めてまともに戦える相手が現れたな」

「ま、ま、魔王様! これはいったいどういうことですか。また怪しい禁呪文でも完成したのですか」

 なにを言っている。禁呪文の訳がないだろう。

「初めて家族以外に首から上が無い全身金属製鎧を見ました! ――声から察するに、女子! 女子用鎧で胸小さめ!」

 失礼だぞ。どこに驚いているのだ。

「さっさと剣を抜け!」

 敵襲なのだぞ。絶体絶命のピンチなのだぞ。ペラペラお喋りをしにきたのではないのだぞ。

「落ち着くのだデュラハン。興奮するでない、このちっぱい好きめ」


 ゆっくりと剣を抜く。この世で切れぬ物はない白金の剣だ。

 ……胸小さめとか、チッパイってのにカチンときたぞ!

 ――触れてはいけないところにカチンときたぞ――!


「名前を聞いていいですか」

 はあ?

「名前だと、グヌヌヌヌ」

 馴れ馴れしい奴め。

「最期に覚えておくがいい。私の名は、メスデュラハンだ」


「「――メスデュラハン! とって付けたような名前!」」

 いちいち腹立つわあ。人の名前を「とって付けたような名前」とはなんだ!

「どこかで聞いた名ぞよ」

「どこかって、前回でしょ。おやめください」

「……」

 意味が分からないことをゴチャゴチャ言わないで欲しいぞ。それでなくても一人称がごちゃごちゃになりそうで怖いというのに……。

「そんなことより魔王様、今までアーザス」

 背を向けて魔王に深々と礼をしている。敵襲にまだ気付いていないのだろうか。隙だらけだ。

「デュラハン! 油断するな! こいつ……メスデュラハンは敵なのだぞ」

「またまたあ、御冗談を。独身を貫きとうしてきたこの私めのために、こんな素晴らしい相手を見つけてきてくれたんですね。感激っス。魔王様にこれまで仕えてきて良かったッス。性格はともかく、喜んで頂戴いたします。これからも私めの忠誠心は絶対に変わることはございません」

 涙を流している。首から上は無いくせに。

 剣を抜いた敵を前にして構えも取らぬとは、騎士の風上にも置けぬ。同じデュラハン族の恥さらしめ――。

「まずはお前から死ね!」

「あぶない、デュラハン!」

「――!」

 ――ザクッ――! ぼたタタター。メスデュラハンの白金の剣がデュラハンの胸を一突きすると、段ボールをカッターナイフで刺すかのように、金属鎧が簡単に貫かれた。


「ギャー! ブベベベベベ!」

「デュラハーン!」

「隙だらけだな。なにが魔王軍最強の剣士だ、たわいもない」

 一撃で魔王軍最強と呼ばれたデュラハンは大きな金属音を立ててその場に仰向けに倒れた。

 胸に穴を開けられて……。玉座の間の床にゆっくり血が広がっていく。


「ま、魔王様、すみません。今すぐ、床を、綺麗に掃除しま……」

 魔王が必死に駆け寄る。この期に及んでもまだ魔王も隙だらけなのに虫唾が走る。

「喋るでない、デュラハン! デュラハン! 今すぐ回復魔法で助けてやるぞ」

 デュラハン族に魔法が効かないことは分かっているだろうに。白金の剣を大きく振り、血を振りはらった。次は魔王だ。少しは楽しませてもらえなければせっかく魔王城まで苦労して来た意味がない。

「ま、魔王様……大好き。ガクッ」

「デュラハーン!」

「……」

 ――なんなのだ、この両手が震える忌々しい感覚は。


読んでいただきありがとうございます!


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