神様、魔王がサボっています
「なぜだ!」
いやいや、なぜだと聞かれても分かりません。ぷかぷかと浮かぶポップコーンのような白い雲とさんさんと輝くお日様が眩しい。
どこまでも続く白い雲の絨毯の上に一つだけ置かれた絢爛豪華な玉座。なにを支えるために建てられたのか分からない無機質な灰色の柱が6本。いや、8本。ここは空に浮かぶ雲の上なのだから天井など無く柱は必要ないのに……。
玉座に座る真っ白なローブをまとった神様の前で跪いて現況を報告するのが毎日の日課だ。ルーティーンともいう。
「なにを一人ぶつくさ言っておるのだ」
「申し訳ございません」
玉座の前に跪いて神様にそう応える。話し相手が他にいないので独り言が増えてしまうのだ。
「しかし、なぜ卿は魔王がサボっていることが分かったのだ」
「はっ。暇つぶしに雲の隙間から下界の様子を眺めていると、どうも様子がおかしいと気付いたので御座います」
魔物と人間が昔のようにドンパチ戦争をしていないのです――。
ドンパッチとは違います。冷や汗が出る、古過ぎて。
「そんなバカな!」
いやいや、神様がバカな! とかおっしゃらないでください。「神である予は全知全能」が口癖のくせに。
「全知全能が聞いて呆れる。言わないけれど」
「ごっそり聞こえとるわい! ワザと言っておるだろう!」
思わず声を張り上げる神様の口から唾が飛んでいる。
「卿はここから下界の様子が見えるのか? 肉眼で」
「ええ。小さくですけれど」
山育ちだから目がいいのですとは言えない。冷や汗が出る、古過ぎて。それに、どちらかというと雲の上だから空育ちだ……ここ数百年。
「そんなにくっきりとは見えませんが、数年前であればあちこちから合戦の音や声が聞こえました。大魔法や火薬の炸裂するのも見えました」
「そうそう、それでこそ魔王なのだ。増え過ぎる人間を滅ぼすことこそ魔王の使命なのだ」
神様がそんなこと言っていいのだろうか。いや、よくない。
「それが、ここ数年はぜんぜん聞こえてこないのです。魔物と人間が仲良く……ではないにしても、お互いの土地を占領しようとせずに平穏を保っているように見えます」
「どうして」
どうしてって……ちょっとは考えてくださいよ。
「そこまでは分かりません。雲の上から肉眼で見るのには限界があります」
せめて遠眼鏡。望遠鏡か双眼鏡かお洒落なオペラグラスが欲しいです。
「では行って見てまいれ。そして魔王がその使命を果たすのを忘れているのであれば、卿が処分してまいれ」
「御意っ! ……はあ?」
え、処分?
「処分って、私に魔王を倒してこいとおっしゃるのですか」
「うん」
うんって……。
「無理ですよ。魔王には無限の魔力があるのでしょ。メジャーを持って宇宙の大きさを測ってこいって言われているようなものですよ」
無限に広がる大宇宙ってやつです。冷や汗が出る。
「卿はその金属製全身鎧のおかげで魔法は一切効かないではないか。無限の魔力など恐れることはない」
たしかに私には魔法は一切効かない。禁呪文とかも。
「さらに、卿はアンデットだから死なない」
「おやめください。私はアンデットではございません」
ゾンビやグールと一緒にしないでください。
「首から上がないのに? プププ」
あ、なんかカチンと来たぞ。
――世の中には人に物事を頼むのがド下手クソな人って、いるよね。
「確かに私は全身金属製鎧で首から上はありませんが、アンデットではございません。精霊なのです」
たぶん。
「どっちでもいいから早く行け。予は神だぞ」
「なんか理不尽だなあ。神様が御自分で魔王を処分してこればよいではありませんか。御自慢の無限の魔力とやらで」
悪者になりたくないだけじゃありませんか。神様が聞いて呆れるぞ。
「ブツブツ言い訳ばかりするでない! 頼まれた仕事くらい、『はいっ!』と言って直ぐに取り掛かるのだ! 最近の新入社員かっ」
バンッと音を立てて玉座の肘置きをたたく。
「申し訳ございません」
そういう神様こそ昔のダメダメ上司かと言いたくなる。パワハラ満載だぞ。コンプラ委員があれば言いつけたいぞ。雲の上だからそんなものないのだけれど。シクシク。
「それで、どうやって下界に下りるのですか」
瞬間移動の魔法で魔王のいる近くの場所へ送り届けてくれるのでしょうか。
「引力」
「……」
まじか……。ひょっとして神様、怒っているのでしょうか。
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