まさかの証人と違和感のある書状
「国際裁判?」
旦那様とクリスティーナが不思議そうに首を傾げる。
無理もない、他国とあまり交流を持たないフェアランブルは、つまり他国の人間と揉める事自体も少ないわけで。
フェアランブルでは『国際裁判なんて聞いた事もない』という人間が殆どだと思う。
驚くべき事に高等学舎ですら習わなかったのだ。
「国際社会に取り残されがちなフェアランブルですが、アウストブルクの友好国として流石に国際連盟には加盟してますからね。国際裁判からは逃げられません。手前勝手なフェアランブルの裁判よりもよほど信頼がおけますし、何より大きな違いがあります」
そう、その違いこそが私達の圧倒的な武器になる。
「国際裁判では、精霊の証言も歴とした証拠になるのです」
「はっ!?」
「おお、それは心強いな!」
旦那様とクリスティーナの反応の違いが面白い。
まぁ、残念ながら我が国で一般的な反応はクリスティーナの方だろうけどね……。
なにせ、『精霊が見えると言うだけで医者を呼ばれかねない』でお馴染みの精霊後進国フェアランブルだ。
裁判の証人として精霊さんを連れてきたヨ!
何て言おうものなら、頭がおかしくなったと思われて即刻退廷ものだろう。
しかし残念。国際社会ではむしろそちらの方がよほど常識知らずなのである。
「でも、精霊は普通の人間には見えない上に、どこにでも飛んで行けるんでしょう? そんなのもう、精霊の証言なんて集めていたら収拾がつかない事になっちゃわないの?」
クリスティーナが納得いかなそうに声を上げる。確かに精霊が見えない側からしたら、目に見えない相手に見られていて証言までされるというのは中々に理不尽に感じるかもしれない。
「そんなこともないわね。そもそも、精霊に証言して貰える人間がそういないのよ。精霊って本来は気まぐれなものだし、わざわざ人間の為にそこまでしてくれないわ。わたしが知っている限りでも、実際裁判で精霊が証言した事なんて数える程しかないわね」
私の代わりに王女殿下がそう答えてくれた。
そう、精霊は誰の頼みでも簡単に聞いてくれるという訳ではないのだ。
『僕たちはもちろんするけどね!』
『『『ぼくたちもー!!』』』
フォスがエヘン! と胸を張ってそう言うと、どこで聞いていたのか旦那様がフェアランブルから連れて来た精霊たちがドドドドッと部屋に雪崩れ込んできた。
『ぼくたち、全部見てたよ』
『ユージーン閉じ込められてた!!』
『女と男はおっぱらったー!』
『ユージーンはねー、ずっとツマダーツマダーって言ってたの』
おお、十分過ぎる程の証人。
やはり旦那様は潔白ですね!!
……ていうか、ツマダーツマダーって何??
「相変わらず精霊からの好かれっぷりが凄いわね。私としても、アナの国際裁判の案には賛成よ。もし本当に訴えるなら手続きの用意を進めるけれど、それでいいのかしら?」
王女殿下にそう尋ねられ旦那様の方を向くと、旦那様も覚悟を決めた顔で頷いてくれた。
「はい、私からもお願いいたします。この際裁判でしっかり白黒付けた方が良いでしょう。これから先、間違ってもアナや他のハミルトン伯爵家の人間に手を出そうなんて気を起こさない様に、引導を渡しておきたいのです」
「分かったわ。国際裁判ともなれば色々な手回しも必要になるし、しっかり準備しないとね」
何とも頼もしい王女殿下に感謝しながら、私はもう一つ確認しなければいけない事があったのを思い出す。
「そういえば王女殿下、先程の使者が持ってきた書状の事なのですが、なんだかおかしな魔力を感じたのです」
「そうね、私も違和感を感じたわ。仕掛けがある様には見えなかったのだけど……」
やはり王女殿下も違和感は感じたんだ。
魔の森にあった監視塔から感じた不思議な魔力の様な物は、精霊に関する物だった。
という事は、もしかするとこの書状も?
そう思った私は書状を手に持って色々な角度から見てみるけれど、正直何もわからない。
試しにペンダントを近付けてみたり、精霊トリオに少しだけ魔力を流して貰ったりもしてみたけど、何の反応もなかった。
「ナジェンダお祖母様に見て貰ってはどうだ?」
私が書状相手に四苦八苦していると、旦那様がそう言った。
「辺境伯の現当主は、ナジェンダお祖母様の姪にあたる方だ。何か気が付く事があるかもしれない」
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