祖父と孫
「奥様ー! もうすぐサミュエル様とナジェンダ様が来られるそうですよー!」
中庭で精霊絡みのすったもんだをしていた私達の所へ、マリーが小走りでやって来た。
「まぁ、もうそんな時間? すぐに準備をするわね」
今日は『旦那様無事救出』の報を受け、おじ様とナジェンダ様がお城へやって来る事になっている。
当初は私と旦那様がおじ様のお邸へ行く予定だったのだが、まさかの私の両親が発見され、おじ様とナジェンダ様も私の両親も、双方が互いに会いたいと言うので予定が変更になったのだ。
私達が両親を連れておじ様の所へ行っても良かったのだが、それは王女殿下に止められた。
今は出来るだけお母さんには王城の外には出ないで欲しいらしい。
うーん、確かにお母さん、目立つもんね……。
あまり出歩いて欲しくないという王女殿下の言い分はもっともだろう。
私達は、急いで準備を整えてサロンでおじ様達の到着を待った。
久しぶりの旧友に会えるとあってお父さんもお母さんも嬉しそうだけど、旦那様だけは久しぶりに見る仏頂面をしている。
何かちょっと懐かしいけど……。
少し心配になって旦那様の顔を覗き込むと、自分が硬い表情になっていた事に気が付いたのか、旦那様が苦笑いしながら私に言った。
「アナのご両親は、お祖父様やお祖母様と旧知の間柄だという事だよな?」
「はい、先日お話しした様に、ほぼ軟禁状態だった私の祖母を辺境伯領から連れ出して下さったのは、旦那様のお祖父様だそうですから」
この辺りの事は、もちろんきちんと飛空挺で旦那様にも伝え済みである。
問題は……まだ私からも伝えていない、『旦那様のお祖父様が私の後見人のおじ様と同一人物だった』という事なんだけど。
つまりそれは、おじ様は私の素性を全て知っておきながら、それを全く旦那様に伝えていなかったという事なのだ。
訳もわからないまま不満の残る婚姻を強いられた旦那様からしてみれば到底納得のいかない話だと思う。
そんな話を私の口から伝えてしまっていいのか判断が付かず、結局何も伝えられていないんだけど、旦那様はちょっと……いやまぁ、大分ニブい人ではあるけれど、決して頭の悪い人ではない。
両親とそれだけの交流がありながら私の事は知らなかったなんて不自然だ、という事に気が付いてしまったのだろう。
「おお、ユージーン! 無事で良かった!」
しばらくして、お城の侍女に案内されたおじ様とナジェンダ様がサロンに入って来た。
まず旦那様を労った二人は、そのまま視線を私の両親へと移す。
お母さんの姿を見たナジェンダ様の目には、みるみる涙が浮かんで来た。私の時もそうだったけど、巫女であるナジェンダ様にとっては、やはり精霊姫の一族というのは特別なのだろう。
「ああ、本当にご無事だったのですね、タチアナ様……! 良かった、良かった……!」
「まぁ、泣かないで? お久しぶりね、ナジェンダ」
お母さんはそう言うと、目に涙をいっぱいに溜めたナジェンダ様をギュッと抱きしめた。
お父さんとおじ様も嬉しそうに手を握り合っている。
素直に再会を喜ぶ四人の姿を見ていると、私も嬉しいのだけれど……。
隣で複雑そうな表情をして立っている旦那様を見ると、少し胸が痛い。
「……旦那様」
やっぱり、こんな風に少しずつ人の気持ちがズレていくのは良くない気がする。
どちらも私が大切に思っている人達なのだから尚更だ。
「旦那様、相手がいる問題を自分一人で解決するのには限界があると思います。すれ違って拗れる前に、きちんと話し合いましょう?」
私が旦那様を見つめてそう言うと、旦那様は少し驚いた様に私を見た後、しっかりと頷いてくれた。
「お祖父様。お祖父様は知っていたのですね? アナの事を。それでアナがハミルトン伯爵家に嫁いで来る事を了承したのですか?」
「……ああ、そうだ」
旦那様が覚悟を決めてそう聞いた事に、おじ様も気が付いたのだろう。
おじ様も真っ直ぐに旦那様の目を見て答えてくれた。
「ならば何故……私には何も話して下さらなかったのですか?」
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