非情なる者
来年まで生きたい。
君はそう紙に書いた。
僕はそうだねと頷く。
僕はとても、胸が痛くなった。何故なら彼女の寿命は、あと持って3ヶ月だからだ。
今は7月。
来年がくる前には、亡くなってしまうかもしれない。
だけど僕は、希望があると信じて彼女の治療を続ける。
彼女は喋らない、無口な子だった。
この病院に入院してきて、挨拶しただけでそれ以上は一回も喋ったことはない。
......喋れないのかもしれない。
だが、どっちだって良い。
僕は今日も彼女のいる病室に行く。
いつも通り中に入ろうとドアに手をかけ、開けようとしたが、開けるのを留まった。
中で声が聞こえたからだ。
ご家族かなと思い、挨拶をしようとドアを開けようとするがまた、留まる。
今度は会った時に聞いた彼女の声が聞こえたからだ。
喋れたんだ、と思いつつ聞き耳をたてる。
今来てるのは、多分弟さんと彼氏さんだと思う。
彼氏さん 神楽の余命があと3ヶ月しかない......?神楽はまだ高校3年。人生もまだまだ、これからだっていうのに....!
と悲しみと怒りが混ざったような声で言う。
神楽 良いの。もう、良いの。私は、皆のお陰で楽しい人生を過ごせたから、良いの。
と少し震えた、掠れ声で言う。
泣いているのだろうか。
彼氏さん っーー......神楽......!次そんな弱音吐いたら...!っ......俺の飯食わせるぞ...!
神楽 ...それは、私にとってご褒美だな~
と言いふふふっと笑う。
彼氏さんはヤケになったのか、色々言っていく
彼氏さん ...!じゃ、じゃあ、神楽が食べきれないぐらいのアイスを買ってやる!
と言う。
神楽 それも、ご褒美だな〜
彼氏さん 全部、神楽にとってはご褒美じゃねぇか......
彼氏さんは一気に捲したてたせいかしらないが、息切れを起こしていた。
弟さん 姉さん......絶対大丈夫だよ。絶対、元気に退院出来るから...!退院出来たら、皆で遊びに行ったり、買い物 行ったりしようね......!
と今までのギャグの様な流れを無視して、泣きながら弟が言葉を紡ぎ出す。
神楽 うん...零の作ったご飯また食べたい。お弁当作って、いつものお花がたくさん咲いてる丘でピクニックしたい
神楽の弟さんは零という名前らしい。
彼氏さん 俺がいないじゃねぇか...
彼氏さんが残念そうな、寂しそうな感じで言う
神楽 優翔も行く?
彼氏さんは優翔というらしい。
優翔 ...!行くに決まってんだろ!そもそも、何で俺がいない設定になってるんだよ!
怒りながらも、嬉しそうに言う。
神楽 じゃあ零と私でお弁当作って、いつもの丘行って、帰りがけに優翔のお金でアイス買って、食べながら帰ろう
と言うと、優翔が驚いたように言う。
優翔 ......!?アイスは自分で買えよ!
神楽 あれ?食べきれないくらい買ってくれるんじゃなかったの〜?
ふふっと悪戯っぽく笑い、言う。
優翔 ......分かった!買ってやる!男に二言はねェ!
と強気に言い放つ。
神楽 じゃあ決まりだね。私、頑張るから。
絶対退院して、3人でピクニックする...!
零 うん。絶対だよっ!
ー4ヶ月後ー
神楽 優翔ー!零ー!早く!
と神楽が優翔と零の手を引っ張る。
優翔 ははっ、本当に治っちまうとはな!
嬉しそうに言う。
零 姉さん凄いや!僕も、そんな強い男になる!
優翔 はははっ、お前が?泣き虫の癖に?本当になれるか〜?
とニヤニヤしながら言う。
零 ば、馬鹿にするな〜!
半泣きの状態で、優翔に飛びかかるがヒラリと避けられ、転ぶ。
優翔、神楽 あ
と言い零に走り寄る。
神楽 大丈夫?
と言うと零が神楽に泣き付く。
神楽がジロッと優翔を睨み付ける。
優翔が頷き、しゃがむ。
優翔が頭を掻きながら、
優翔 あー......今のはちょっと俺も言い過ぎた。すまない。だが、姉ちゃんに泣き付いてばっかだと、強い男にはなれないぞ。
と言う。
零がそう言われ、むすっとした表情でゆっくり神楽から離れる。
その様子を見た、優翔が零の頭をくしゃくしゃと撫でる。
零 ...!
神楽 ......じゃあ、ご飯食べる?
と言うと零が嬉しそうな顔をしたため、神楽が微笑みお弁当を開ける。
優翔 おぉ、今日は豪華だな!
零 今日も、でしょう?まぁ、いいや。姉さんと頑張ってたくさん作ったからいっぱい食べてね!
神楽 はい箸。
そう言い、神楽が2人に箸を渡す。
優翔 ん、ありがとう。
零 ありがとう!
3人 いただきます
ー数時間後ー
優翔 少し暗くなってきたから帰るか
と言い立ち上がり、歩き出す。
神楽 そうだね。
弁当箱を風呂敷に包んで、立ち上がる。
零 もうちょっと遊んでたかったなー
少し残念そうにしながらも、零が優翔の後を付いて行く。
オリビアが二人に付いて行く。
優翔 ん、車乗れ
と言い車に乗せる。
優翔 よし。乗ったな。アイス買って、帰るか。
神楽、零 は~い
ー数分後ー
優翔 アイス美味いか?
二人 うん!ありがとう
優翔がはははっと笑う。
優翔 (......?隣のトラック、妙に後ろが揺れてないか......?いや俺の考えすぎか...)
その瞬間、トラックが優翔達の車線に倒れてくる。
優翔 !
グシャッ
ーー事故の速報です。
28日午後、ーー市でトラックの事故があり、
横で走っていたと思われる車が、一時トラックの下敷きになりました。
事故があったのはーー市ーー浜ー丁目の道路の真ん中部分です。午後6時30分過ぎ、近くを通った車から、
「車がトラックの下敷きになっている」
と消防に通報がありました。消防によりますと車には、10代女性と10代男性、20歳の男性が車に乗っていたとのことです。
三人は一時トラックの下敷きとなり、約10分後に救助されましたが、その後ー亡が確認されました。
乗っていた3人の身元は分かっており、
10代女性のーーーーさんはーーーーーー
ガタンッ
座っていた椅子が大きな音を立てて、倒れた。
周りにいた看護婦達から、変な目で見られたがそれは今は心底、どうでも良かった。
それぐらい僕は驚いた。
ニュースで読み上げられた名前に、見覚えがあったからだ。
なんで・・・
そんな言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
退院してすぐに、こんな事ってあるか?
昨日、あんなに嬉しそうに退院したんだぞ。
僕はふらふらと病院の屋上に登り、自販機で買った珈琲をグッと飲み干す。
太陽はほぼ沈んでいて、辺りはオレンジ色に染まっていた。
家やマンションなどの建物の明かりがぽつり、ぽつりと灯りだす。
綺麗だな・・・
そんな美しい景色を見ながら、僕は神はなんて非情なんだと思った。