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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

懸想

作者: 永世七冠

彼が後ろを向いた瞬間彼の頸動脈をきゅいっと締め上げた。

目の前で愛しの彼が倒れている。

その光景にひっそり目尻を下げながら私は包丁を握った。

私はあなたのおかげで十分苦しんだ。私があなたのことを少しくらい苦しめても許されるよね?

そして私は彼の心臓を突き刺した。何度も、何度も。

気がついたら彼は死んでいた。

ああ、やっと死んでくれた。これで私は自由だ。

彼を殺してしまったことに罪悪感などない。だって私は被害者なんだから。

もう二度と私の前に現れるなよ! このクズ野郎!!


***


※以下に出てくる「彼」とは「店員」のこと


あの時以来、私は人を殺すことをやめられない。

人を殺さないと生きられない身体になってしまったのだ。

最初は自分のためだった。

でも今は違う。誰かが私の幸せを奪っていくような気がして仕方がない。

だから殺す。だから殺す。

そうやって殺していくうちに、いつの間にか私の周りには誰もいなくなっていた。

一人ぼっちになったけど後悔なんてしていない。むしろ清々しい気分だ。

これからもずっと一人でいいと思っていた。だけどそんな私にもついに運命の出会いが訪れた。それは突然のことだった。

いつものように仕事終わりにコンビニへ立ち寄りお菓子を買っているとレジの奥から店員さんが出てきた。

店員さんの胸元には研修中の札がついている。

まだ高校生だろうか?幼さが残る顔つきをしている。

身長も高くないし童顔だし正直あまり強そうな感じではない。

だがなぜか私は彼に見入ってしまった。理由はわからない。ただなんというか……とても魅力的な人だった。

だから私はその店員を誘惑した。彼は初心だった。彼は私を愛してくれた。こんな私を受け入れてくれる人がいたんだ。嬉しかった。初めて人に優しくされた。

彼は優しすぎた。もっと酷く扱ってくれてもいいのに。

それからというもの、私は毎日彼を誘惑し続けた。

もちろんお客としてね。

彼のことが好きになりすぎてついやっちゃった。テヘペロ♡ 彼は日に日に疲れた顔をしていった。

無理もないよね。だって私みたいな女に付きまとわれてるんだもん。

でもね、私も必死なんだよ。君を手に入れるために。

ある日のこと、彼が私のためにご飯を作ってくれると言い出した。

これはチャンスだと私は思った。彼との距離が縮まるかもしれないって。

実際作ってくれた料理はとても美味しくて、彼は本当に優しいなって思った。

あーんをしてあげた時はちょっとやりすぎかなとも思ったけど、彼は恥ずかしがりながらも食べてくれた。

その時私は確信した。彼は絶対に私を受け入れると。

だから最後の一押しをした。

キスをしちゃえばこっちのもの。案の定彼は堕ちていった。

ふふっ、チョロいなぁ〜。

やっぱり男はこうでなくちゃ。こうして私は晴れて彼を手に入れた。


***

あれから何日経っただろう?もう数え切れないほどの夜を過ごしてきた。

それでも私たちは幸せだった。今までの人生の中で一番幸せな時間を送っていると思う。

でも最近になって少しだけ不安を感じるようになった。

彼は私を好きだと言ってくれているけれど、私はわかってしまった。彼が向ける私への愛が偽りのものであることに。

本当は他に好きな人がいて、それで私を利用していたんじゃないかと思っている。

だけどそれを直接本人に聞く勇気はない。もし聞いてしまったらきっと…………。

だから今日も知らないふりをする。

私は彼が大好きだから。例え嘘だったとしても構わない。この時間を永遠に続けばいいと思った。

そんなある日彼のコーヒーに少し毒を盛ってみた。彼は少し苦しそうだった。そんな彼の顔は可愛らしかった。ごめんなさい、あなたを苦しめたくはなかったんだけど……。

でもこれでもう大丈夫。


***

今日は朝から雨が降っていた。

彼は今日仕事で遅くなるらしい。私は家で大人しく待っていることにした。

するとしばらくして玄関の鍵を開けると彼は知らない女と立っていた。誰?どうしてここにいるの?なんで?ねぇ、答えてよ!! 女は私を見ると勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

その瞬間理解してしまった。彼女は最初から私を殺すつもりで家に来たということを。そして彼もそれを知っていて招き入れたということも。

私はすぐに包丁を取り出し、彼女に向かって突進した。

しかし、私の攻撃は簡単にかわされてしまい、逆に首を絞められてしまった。苦しい、息ができない。意識が遠のいていく。このままじゃダメだ。どうにかしないと……! 私はありったけの力を振り絞り彼女の腕を引き剥がした。そしてすかさず心臓に包丁を突き刺す。やった、殺せたぞ!!ざまあみろ!! そのまま彼女を地面に叩きつけ、何度も、何度も突き刺し続けた。

気がつくと目の前に血塗れの彼女が倒れていて、その光景に私は震え上がった。ふと前を見ると彼がいた。彼は震えていた。私は彼を独り占めしたいと思った。私の手には包丁があった。

ああ、そうだ。彼も殺せばいいんだ。そしたらずっと一緒だよ。

私は彼に近づき、持っていた包丁で思いっきり胸を刺し殺した。

あはっ!あっはははは!!!ついに手に入れたぞ!! ずっと欲していたものが今ここにある。

やっとだ、やっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっと!!! 私は狂ったように笑い続けた。

ようやく手に入れられた。

もう何も怖くない。

さぁ、一緒に逝こうか。

私は彼を抱き抱え、台所へと向かった。

そして死ねる薬を探した。

あった。これを使えば私は楽に死ねるはず。

これで私たちは永遠に結ばれる。

さぁ、これを飲んで……

私は自分の口に瓶を傾け中身を流し込んだ。

苦い味が口の中に広がる。

次第に視界がぼやけて……き……て……

私は静かに目を閉じた。

ありがとう、私の愛する人。

君のおかげで幸せになれました。

君と一緒に死ねて私は幸せです。

君との思い出は一生忘れません。

だから安心して眠っていてください。

おやすみなさい。

私は彼の胸に顔を埋めた。

彼の鼓動が伝わってくる気がした。

それがとても心地よく感じた。

彼の温もりを感じながらゆっくりと眠りについた。


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