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87 ドレスにお金がかかる理由

「そんなにドレスにお金がかかっているんですか?」


 ポーレが尋ねてきたので、私も大きく頷いた。


「ジョージが出してくれたこの家の収支関係でね。お父様はあの二人に対してはどうしても飾り立ての費用を惜しみたくないらしくて」


 あれから更に聞いた。

 父にとっては、母が美しい姿で自分の側に居てくれるだけでありがたいのだ、と。

 いやはや恋は盲目だ、としかこの時の私には思えなかった。

 二人への支出を私程度に抑えれば、伯爵家の体面を保ちつつ、資産ががた減りすることもないだろうに。


「昔から思ってきたのですが、何故そんなに貴婦人達のドレスの値段は高いんです?」


 フィリアが困った顔で聞いてきた。


「そりゃあ母さん、まず布が違うじゃない! 私達のこのお仕着せは綿や麻。それでもまだ良い方よ。お仕着せと言っても伯爵家にお仕えするという形なんだから」

「ああ、そう言えばそうだったねえ。いかんねえ。私もずっとこのお屋敷で働かせてもらっているから、つい布の値段とから疎くなってしまって」

「何と言っても絹はね……」


 ともかくドレスと言えば絹だ。

 レースにしても、機械編みではなく職人の手編み。

 無論その方が確実に質は良いのだが……


「奥様はともかく、アンジー様はレースの手編みと機械編みの差が分かっていらっしゃるんですか?」

「ポーレはどう?」

「手編みの方にそうそう縁が無いですから」


 使用人達は近郊の店にちょっとしたものを買い出しに出ることがあるのだという。

 品は限られるけれど、それでも自身の給料に似合った何かしらを、交代の休日に買い出しに行くのだとか。


「店に行っても、やっぱりお財布と相談すると、使いたい量だけ買おうとすると機械編みですねえ」

「お前何処に付けてるんだい?」

「下着」

「おやまあ! 色気づいてしまって!」

「何言ってるの母さん、下着のレースは誰のためでもないわよ。自分が浮き浮きするからつけるの!」

「自分が浮き浮き?」


 ちょっと意味が解らなかった。


「ほら、私達はこのメイド服自体をどうこうすることはできないじゃないですか。私服はそうそう着て行く場所も無いし。でも時々こう、綺麗なものがあると付けてみると、意味もなく楽しくなるんですよ。母さんも昔そういうことなかった?」

「そうだねえ。確かにちょっとした飾りがあると楽しいね」


 成る程、とその時大きく頷いた。

 可愛い小物は好きだ。

 ただ身につけて楽しくなる感覚は私には解らない。


「絹ものでまあ手が出るのはリボンくらいですねえ」


 それもこんな細いの、とポーレは幅を示した。

 ふむ、と思った私はその晩、手紙を書いた。

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