42 家族間の手紙
「我が娘テンダー
先日、アンジーから手紙が来た。
お前は自校の寮の門の前でわざわざ来た妹を追い返したというではないか!
お前は帝都という知り合いも居ない心細い場所で、普段関わりが少ないとはいえ血の繋がった妹が頼ってきているのにその態度は一体何様のつもりだ?
できる限り早く、妹に謝罪をするように。
父より」
「久しくご無沙汰しております、お父様。
先日の件ですが、確かにアンジーは寮の正門までやってきました。
しかし彼女の言い分は寮則に反しておりましたので、その旨言い聞かせ、学校の規則に準じて第四へ送還させただけのことです。
寮監の先生と警備の方が同伴してくださったことにより、証言もあります。
帝都の女学校の寮というものは、貴族令嬢が中心、時には皇族の方までいらっしゃる場所。
警備をおろそかにしてはならない場所です。
それを知らなかったというならば、生徒としての立場を分かっていないということでしょう。
私は姉である以上に、寮の一員として全女学校共通の規則は守るべき、守らなかったらどうなるか、ということを示したにすぎません。
お父様はご自分が寮生活の折には規則というものがございませんでしたか?
あなたの娘 テンダー」
「親愛なるお母様!
お父様からお聞きになったでしょう?
お姉様が酷いの!
確かに私、寮則をやぶったらしいわ。
おかげで部屋で謹慎一週間! 反省文の例文の書き取り三十頁!
でも聞いていなかったのですもの!
聞いていないことを守るのは無理ですわよね!
でもお姉様は聞いていないはずはない、聞かなかった私が悪いっておっしゃるのよ!
それに、あの時は友達を連れていったのに、私をわざわざ友達の前で怒るなんて…… 私の顔を潰す気なんだわ。
お姉様のことあまり知らなかったからつい行ってしまったけれど、結構意地悪だったのね。
どうしましょう。今年は合同祭がお姉様の第一と組むのですって。
しかもお姉様は自治会幹部の中に入っているから、きっと私のことをあの男装の麗人様にも悪く吹き込んでいるに違いないわ。
お母様何とかおっしゃって!
私に悪気なんかなかったって!
愛するお母様のアンジーより」
「テンダーへ。
アンジーから手紙が来ました。
何故貴女は悪気も無い妹の気持ちを踏みにじる様なことをするのです。
あの子の笑顔を曇らせる様なことをしたら、どうなるか分かっていますか?
それに貴女は第一に居るからとずいぶんと驕り高ぶっている様ですが、頭が良いからと言って、それで妹に勝ったつもりでいるのではないでしょうね。
いいえどう見ても貴女の方が負けています。
女は見た目が全てです。
私は貴女を産んだ時、何って醜い子! と思いましたよ。
実際今でもそう思っています。
わざわざあんなことをアンジーにする辺り、貴女の意地悪さが顔にきっとにじみ出ているのでしょう。
アンジーも貴女のことは地味だと言っていましたが、地味だけじゃありませんね。とっても野暮ったい。
貴女にはその制服が確かに一番似合っているのでしょう。
いいですか、何よりも見た目が大事なのです。
貴女はその一点だけでもアンジーに敵うことはないのです。
ちゃんとその辺りをわきまえておきなさい。
母」