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31 大きすぎる問題はすぐに答えを出してはいけない

「気付かなかったの? 今まで」

「急激に下がったのはここ十年程です」


 ジョージはぐぐっと落ちる折れ線グラフを示した。


「……私の言いたいことはお分かりでしょうか」

「分からないでもない。けどだったらまず私の様な子供に言うのではなく、お父様に言わなくてはならないのでは?」

「進言致しました。すると、何処か良い提携先を探せ、とのこと……」


 成る程。

 領地経営の業績はどんどん落ちている。

 それも特に父の代になってから。

 おそらくはジョージが言ったところで何も聞きはしないのだろう。

 かと言って、たかが女学校一年生の私にまず聞かなくてはならないのか?


「他には聞いた? 例えば叔母様がお世話になっていた家とか、お母様の実家とか。少なくともこの家に娘を嫁がせた家というのは、没落は好まないんじゃないの?」

「ではそれに関してはテンダーお嬢様のご意見ということで宜しいのでしょうか?」

「あー…… そうね」


 私は天井を仰いだ。

 なるほど、その辺りの責任が取れないということだな。

 とは言え、今の私に何かすぐできるという訳でもない。


「お手紙を書くわ。ともかく私はその親戚の方々というのを殆ど知らないのだもの。休みはそう長くないから、ともかく資料をまとめてくれる? 学校に持っていって考えるから。ここじゃあ考えがまとまらないわ。休暇なのに」


 そう言って肩を竦めた。


「では」


 ジョージはそう言うと私に軽く頭を下げた。


「……正直、不安なのですよ」

「だったらとりあえず温かいお茶を呑んで行くといいわ。ミルクたっぷりの!」



「ただいま戻りました」

「うむ。変わりないか」

「はい」

「ではいい。食事にしよう」


 正餐の席、父はそれだけ言って食事を始めた。

 格別な会話がある訳でもないので、私は妹の様子を眺めた。

 成る程、これまたずいぶんと可愛らしく育ったものだ。

 豊かな明るい色の髪に絹の青い細いリボンがよく似合う。

 首筋の甘い白さにこれがまた、リボンより少しだけ深い色のドレス。

 大きめの襟にレースをふんだんにつけ、袖もたっぷりとしたもの。

 確かに両親が連れ回したくなる様な容姿に育ったものだ、と今更の様に思った。

 黙っていれば、話で聞いた様なことなど何処の空、という感じなのだが。

 ただ。

 かちゃかちゃ、と音が耳に届く。

 成る程。

 容姿が綺麗、そしてそれに似合うドレスだからこそ、ちょっとした所作の杜撰さが目立つのか。

 ふと私は、ポーレが言っていたピアノの話を思い出した。

 だいたい合っているのに、時々おかしな調子になるから……

 ……ここに居る間に聴けるだろうか?


 やがて一通りの食事が終わり、食後の茶を口にしつつ、父が再び口を開いた。


「学校の成績は此方にも届いている。優秀な様だな」

「ありがとうございます」

「そのまま落とさぬ様に」

「はい」


 言われずとも、落とす気は無い。

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