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20 叔母との記憶とその背景

「昔実家に行った時」


 行った?

 普通は帰った、というものではないだろうか。


「貴女が西の対で乳母と乳姉妹と暮らしている、って聞いて驚いたのよ。ああ私と同じかって」

「えっ」


 叔母様とは昔、両親の知らぬ間に会ったことがあった。

 そうでなければここですぐに判る訳がない。

 回数は少ない。

 ただ、会った時の印象がともかく強かったのだ。

 やって来たのは大概ちょうど両親と妹が出かけていた時だった。

 その最初の時。

 使用人達が「お嬢様どうなさったのですか突然!」「旦那様方は今外出中で」「ああまたそんな格好で!」と騒ぎ立てていたので、庭園から私達は車回しに駐まった馬車から出てきた女性を見に出てきたのだ。

 それは今まで、窓から見た母の綺麗なドレス姿とはやや異なっていた。

 何より馬車から出てくるひとにしては、とても簡素に感じた。

 帽子といい、上着とスカートといい、およそフリル・レースといったものと無縁の様な。

 色合いも母のそれよりは父のものに似ていた気がする。

 そう、確かかぶっていたのは父の狩り様の帽子ではなかったか。

 私は十歳くらいだったと思う。

 彼女は私に気付くと「やあ」と言って笑顔で近付いてきた。

 そして私の姿を上から下までじっと見ると、笑顔になった。


「うんうん、動きやすい服でいいよ」


 動きやすい服。

 確かにそれはそうだった。

 私とポーレは庭園を常に駆け回っていた。

 図書室では床にべったり座り込んでいた。

 庭師と一緒に土いじりもしていた。

 そういう時に、楽に動ける格好。

 汚しても洗えば済む様な。


「アンジーの服ときたらまあ、ごてごてと! 子供にあんなレースやフリルやリボンつけてどうやって動けって言うの、と思ったわ。まあだから私が来るって言うと、あのひと達逃げ出したのね」

「逃げ出したんですか」

「そう。私は一応行く、といつも宣言していたわよ。だけど行くと必ず居ないんだから。苦手だったんでしょうね。兄――貴女の父親は」

「気まずさ?」

「私達の両親はともかく跡取りの長男ばかり可愛がってね。あんまりその傾向が激しすぎて、私には酷く当たっていたから、私は母方の祖父母のところで育ったの」


 それは初耳だ。

 使用人達の噂話からも拾い上げることができなかった。


「それからずっと放っておかれたんだけど、唐突に結婚話を出してきたのね。今更何よ、ということで、祖父母の後押しもあって帝都に出てきちゃったの。当時の上り調子で常にお針子募集中だったドレスメーカー、サルト・ファタクス師のところにね」

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