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190 打ち上げ会場④友たちの連携と複雑な思い

「うちの姫様が今度第二に進学なさるの。その時にはぜひテンダー嬢に私服をお願いしたい、とおっしゃっていて」

「新たな顧客ありがとう」

「どういたしまして。実際テンダーに言われて気付いたけど、結構各地ではああいう色柄は染めないのよね」

「強い色と柄でないと、貴女のところの日差しに負けてしまうわ」

「そうね、うちだったらやっぱり冬は細かい手仕事になるし」


 リューミンも話に加わってきた。


「確かにあのレースはうちではできないわね」

「私の方ではあんな強い色だったら、自然の中で目立って目立って」

「だからこそ帝都ではどっちもいい感じに組み合わせることができるのよ。それに細かい手仕事と言えば、刺繍だったらキリューテリャのところのものも細かいじゃない」

「ああ、でもそれは模様にだいたい意味があるものってことだし、使う色が北西とは全然違うもの。白一色とか言われたら、私のところの職人が一斉に仕事を馬鹿にされたとか言いそうだわ」

「逆よね。うちだと色を使いすぎるのは形をごまかすためとか言われるもの。でもどっちも上手く使ってくれるし。うちの冬の手仕事が増えるのは本当にありがたいわ。でもほら、柄を機械で作る様になるみたいに、こっちのレースもそのうち機械がとって代わるのかしら」

「まあ、まだそんなことはないさ」


 飲み物を手にしつつ、セレが話に加わってくる。


「機械にしたって、まだ基本は実用一辺倒だ。そっちの繊細な編み方を盛り込むには時間がかかる。プリントにしたところで、何となくぺらっとした感が否めない。結局は地元の職人が作ったものの方が高級感はある」

「そうそう。最近ではほら、先生の方の店のドレスにも北西のレースがつけられることもあるじゃない」

「ヘリテは今もそっちの世界を良く知っているからな。私は絶対ドレスは無理だが」


 セレの言葉にリューミンはくすくすと笑った。


「私も無理ね。ほらもうこんなに腰も。ヘリテは昔と同じくらいに保ってるのが凄いわ。もう二人のお子さんが居るっていうのに」

「そりゃあ、そういう場に出なくちゃならない家の者ですから! あれはあれで、そういう社交界って場所の武装だもの。ああいうドレスそのものは無くなりはしないわね」

「夜会程度は変わるんじゃない?」


 エンジュも口を挟む。


「今回の花嫁衣装のすとん、とした感じ? あれはいいわよね」

「どんな体型でも似合わせることかできる様にね」


 そう言うテンダーに、友人達は黙って頷いた。

 何と言ってもあの時着ていたのは女どころではないのだから。

 正直この友人達はあの場面を見た時、「あー、こう来たか」と顔を見合わせたのだった。

 彼女達は上の予約席から久しぶりの顔合わせに喜びつつ、全ての部を堪能していた。

 双眼鏡で細かいところまで見つつ、自分のところで作られた布、染められた生地、レースといったものの使われ方を確かめては頷いていた。

 だがお茶の時間の部。


「あれ? 前のモデルの子どうしたの?」


 そう言ったのはヘリテージュだった。


「違う?」


 他の皆はすぐには気付かなかった。

 実際ヒドゥンは足取りはともかく、仕草の様なものはミナに寄せていたのだ。

 しかし双眼鏡の力は強かった。


「――あ、あれ、テンダーの彼氏!」

「何ですってえ?」

「双眼鏡貸してっ」


 争奪戦になったのは言うまでもない。


「ちょっと顔見づらいけど」

「あえてそうしているのよねきっと」

「うわ、根性…… 何処をどう見ても少女にしか見えない」


 学生時代以来彼の女装を見たことの無い北西南東組は本気で驚いていた。

 そんな彼女達が更に驚かされたのは、お茶の時間の最後にテンダーが出てきて挨拶したことだった。


「待ってあれスカートじゃない」

「セレが昔履いてたあれの裾の細いやつよね」

「いやそこは素直にズボンと言えばいいんでは」

「でもな、それだと…… あれ、逆転の構図じゃないか?」


 ほら、とセレは手を取る――手を取る! テンダーに驚きつつ、その姿を指した。


「ちょ、待って、テンダー」

「あーーーー、成る程、あれでぎりぎり、って言いたいのねあの子!」

「これじゃあ絶対何が何でももう花嫁衣装なんて着させられないじゃない……」

「え? リューミンそれでも着させたかったの?」

「こっちに久しぶりに来て無理だとは思ったけど、それでも一抹の何とやらはあったから……」

「まあ、あれでよしにしようか」

「そうよね。まあ確かにあの組み合わせの方が合ってるあたり、……ねえ……」


 とか何とか。

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