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146 再び北西辺境領へ③~到着と再会

「テンダー久しぶり! そして皆様ようこそ! そして…… ああ、これが貴女の甥っ子姪っ子ちゃん達ね! ああ、貴女が乳母のナリーシャさんね。私はここの領主の娘の一人でテンダーの友人のリューミンです。もし良かったら、向こうの馬車に、年の近い子供達も居ますので……」


 まくしたてる友に、どれだけ楽しみにされていたのかテンダーは驚いた。

 そう、この時リューミンは以前テンダー達がやってきた時同様の幌馬車で最寄りの駅まで迎えに来ていた。

 「お母様」達と子供達も一緒に。


「リューミン唐突は駄目だって」

「あら、でもこれから一緒に暮らして行くひとでしょう? できるだけ早く慣れて欲しいわ」

「テンダー様、私は大丈夫です。覚悟はしてきましたから」


 ナリーシャはぐっと拳を握った。


「あら頼もしい! お母様方! そちらに新しい方を先にお任せ致しますね!」


 さあさあ、とテスとシフォンを連れたナリーシャは先に馬車の中へと連れて行かれる。


「貴女方もね」


 そう言って、他の四人にもリューミンは笑顔を向ける。 


「先だってはどうも」

「ヒドゥンさんもお久しぶりです。色々テンダーがお世話になっています」

「や、楽しいことが多いですよ」

「でしょうね」


 くすくす、と二人して笑い合う。テンダーは軽く口を曲げた。


「ではこちらでもあまり体験したことが無いことを楽しんでくださいな」

「そうですね~確かに何というか、空気が今まで行った場所と違いますしな」


 そんな二人の笑顔の会話を聞きつつ、ポーレは軽くテンダーをこづき、小声で囁く。


「……何か含みのある応酬ですね」

「え、そうなの?」

「お二人も実にいい笑顔じゃないですか」

「笑顔じゃ悪いの?」

「どう見ても牽制しあってるでしょう」

「牽制? リューミンはとっくの昔に人妻で母になってるというのに?」

「そこじゃありません。テンダー様を挟んでのそれですよ」

「私の?!」

 驚き呆れ、テンダーの声が大きくなってしまった。

「なに?」

「どうしたの?」


 二人が揃ってテンダーの方を向く。

 いいえ別に、とばたばたと手を振るしかできない。


「ともかく家の方では皆お客と新しい方々を待っているのよ。テンダー、話は夜じっくりしましょうね。ヒドゥンさんには帝都の演劇事情を聞きたい人が沢山いるし、ファン先生にはうちの医者達が、あと化粧のプロが来ると聞いてうちの女達がもう皆たいへん! ポーレさんと本の話をしたいという人も居るしね」


 そしてまたにっこりと強烈な笑顔を向けてきた。


「だから言ったでしょう」


 そうポーレはつぶやいた。



 歓迎の宴は夜になってから「箱」館で行われる、とのことだった。

 時期的にそこに住んでいる者は殆ど居なかったが、祭りや宴の際には使われるのだと。


「ほぉ、話には聞いてたけど面白い建物だな」

「でしょう? 冬になるとここに皆住み込むんですよ。前に来た時、いつも賑やかでした」

「そうなの! あと、帝都の皆がこっちの冬の内職として回してくれるもの! 冬でなくとも、季節外れの嵐とか来て閉じ込められる時には皆ここで作業したりするのよ」


 ほら、と作業部屋にリューミンは案内した。

 細かい飾り編みや刺繍の見本が壁に貼られ、ガラス扉のついた棚には材料がきちんと整理されている。


「それでねテンダー、若い子の中には、そっちで働きたいのも居るのよ。あ、あと役者になりたい、と言ってる子もね」

「ほぉ」


 ヒドゥンはそれを聞いてにやりと笑った。


「そら面白いなあ。会わせる気まんまんなんだろ?」

「無論! 私はここの人々の仕事についても色々考える立場にあるし」


 そう言うリューミンは、確かに辺境伯の娘らしかった。

 人妻になったとしても、まずは伯の娘なのだ。

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