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144 再び北西辺境領へ①~久々の列車旅

 程無く、テンダーは甥・姪、ポーレとナリーシャ、そして北西辺境領は未だ行ったことが無いという三人と共に懐かしい地への列車に乗っていた。

 一等・二等個室を幾つか取っての久々の長旅である。


「テンダー様まで二等にすることは」

「さすがに今は二等で充分よ! 子供達は一等の方が安全でしょう?」


 一等に乗ったのはナリーシャと甥姪の三人だった。

 あとは男性二人、女性三人でそれぞれ部屋を分けていた。


「いいんですかテンダーさん、ヒドゥンさんと同じでなくて」

「別に構わないわよ。それにそんな風に分けたら結局三部屋取ることになってしまうじゃない」

「あ、別に私はファン先生と一緒でもいいですよ」

「いや、そうしたらポーレはどうするのって」


 あ、そうか、とタンダはあははは、と笑った。


「すみませんね、普段割と男女関係無い生活をしているんで」

「いいえそれはそれで凄いと思うわ。ねえ」

「そうですよ。テンダー様じゃ絶対無理ですって。まず警戒して夜寝付けませんよ」


 テンダーは黙って苦笑した。全くもってポーレは正しい。

 大陸横断列車で西へ。

 そして途中で北へ向かう支線へと乗り換える。

 やはり途中の駅毎の物売りだの、車中のお茶だの、テンダーは懐かしくも楽しい気分になる。

 そしてやはり個室の中では暇なので、窓越しに買ったお菓子と、持ち込んだ茶を淹れてのお喋りがはずむ。


「それにしても、北西辺境区には行ったことが無いってのは意外ですね」


 ポーレは訊ねた。


「うーん、まあ北西の場合、支線以外の手段で荷物が載せづらいってのがありますねえ」

「荷物?」

「大道具とか」


 ああ、二人は頷いた。


「北東辺境区の場合は、木材や炭鉱からの資源の運び出しのために鉄道の整備がきっちりしているんですね。そこに行くまでの馬車道にしても、常に道路は広く整備されていて大きな荷物を運ぶのに苦ではないんですよ。それに向こうは割と雪が少ないということがありましてね」

「雪! ああ……」


 北西の雪のことをテンダーは思い出す。

 ともかく深い。

 それだけにまず鉄道にしても雪をかき分けて行くことに全精力を注いでいる様に感じられた。

 テンダーに色々説明していた伯も、リューミンの結婚式の際に訪れた際には鉄道の馬力をもっと上げられないかと言っていた記憶があった。


「だからどうしても費用の問題もあって、横断鉄道沿いの都市に行くか、そうでないところに行くには演目を変える必要があったんですねえ。まああとはタイミングとか受け容れられやすい演目とか色々条件があるし」

「そんなに違うものですか?」


 ポーレは訊ねた。

 最近では女史との交流でいっそう物語だの文学の分野に詳しくなりつつあった彼女としては、その辺りも気になった。


「まずやっぱり全く違う神話ベースのものだと受け容れられにくいんですよね。じゃあ最近の事件を元にしたメロドラマだのと言っても、文化が違うとまたこれも難しいわけで。南西とか南東とかだと、その辺りが割と柔軟なんだけど、草原の地とか北の地だとちょっと難しいものもあるんですよねえ」

「たとえば?」

「ヒドゥンさんが女役では出られない地域もありましたもの」


 それにはテンダーもポーレも驚いた。


「え、何で」

「地域によっては異性の格好を『してはいけない』という風習が根強く残っているところもありますからねえ。そういうことをするのは恥だとか色々。でもま、それはそれで仕方ないんですよ」

「どうして?」


 テンダーはややむっとする。


「そこでは男の筋肉や闘争心とか力が、生きていくのに必要で一番だとされるからでしょうねえ。それはもう仕方ないんですね。だからそういう時にはヒドゥンさんは裏方やってましたよ。別に縫い物とかするのは問題ではない様でしたので」

「そういう苦労もあるのね」

「南西や南東は、割とその辺りが緩かったので、色々できましたねえ。向こうは筋骨隆々であることがもの凄く必要、という訳ではないし、海の向こうの国々の文化とも接しているので、変わったもの好きということもあるんですね」


 なるほど、と二人は納得した。

 普段ではあまりじっくり話さない、別方面に詳しい相手との話はやっぱり楽しいな、とテンダーは思った。

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