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135 妹、再び帝都来襲⑥

「まあ、そんなことがあったんですか……」


 翌日の夜、慌てて馬車を飛ばしてゲオルグとフィリアがやってきた。


「電報を列車の方に送って下さいましたので、支払いの方は先に済ませておきました」


 ゲオルグは困った様な顔で笑った。


「で、今その元凶様は何処に?」

「さすがにこうなると、ここには置けないし。仕方ないから、俳優に会わせるから、とここから連れ出してホテルの方へと移動させたわ」


 ポーレは久しぶりに会う母親との会話がこれだ、ということに何やら悲しくなった。


「若様の服は明日調達してきますよ。フィリアさんはこちらに泊まりますよね、俺は宿取ってますんで、明日子供服の吊るしをとりあえず買ってまた来ますわ」


 じゃ、とゲオルグはポーレやそもそもの工房の主であるカメリアに頭を下げた。


「カメリアお嬢様、お久しぶりでございます。テンダー様とうちの娘が本当にお世話になって」

「あまり会ったことは無かったけど。でもポーレには本当に感謝しているのよ! ずっとここに居て欲しいわ…… テンダーは独立して欲しくない……」

「テンダーさんにとっては何ですが、もしポーレさんが居なくなったら私達の食事は!」

「またあの日々が!」


 一体何なんだ、とフィリアは娘をまじまじと見つめたが、後でね、と苦笑するばかりだった。


「ところで母さん、坊ちゃんの腕に幾つもつねった痕があったんだけど」

「ああ…… まあねえ。止めようとしても、何かあの方、そういうことだけは手が早くいらして。……でも場所を変えてみると、確かにこれはまずいね」


 母親に置いていかれた子供は、ほっとした表情でゲオルグやフィリアを見ていた。

 少年にも分かっているのだ。

 母親より彼等使用人の方がまだまともな神経の持ち主だと。



 前日。


「何で私だけ移動なのよ!」

「私も居るでしょ。それに貴女あそこに居たらうちの食料食べ尽くしてしまうじゃない。あの子だってまだ服調達していないのだから、動かせないわ」

「あの子のことはどうでもいいわ、それに何、食料ならまた買えばいいじゃない。いくら食べても食べたいんだもの、仕方ないでしょ!」

「一体今貴女どれだけ食べてるのよ」

「え? 別に、普通だけど?」

「普通の人が、椅子引きずってまで子供の食べているもの奪おうとするもんですか!」


 二人がホテルをわざわざ取って移動したのはこれが一番の理由だった。

 慌てて探したのでなかなかいい場所が無い。

 仕方無し、テンダーはエンジュに電報で連絡して傘下のホテルを用意してもらった。

 出迎えたエンジュはさすがに学生時代の記憶にある少女とはまるで違ってしまった姿に唖然とした。

 エンジュはすぐに悟った。

 これは隔離の意味もあるのだと。

 そこで空いている部屋の中でも上の中くらいのものを用意させた。

 どの位滞在するにせよ、ある程度籠もらせておける様な部屋が良い、と判断したのだ。


「まだ私にできることはある?」

「忙しい編集長には悪いんだけど、ヒドゥンさんに連絡を願えないかしら」


 内部をまじまじと見物している妹には聞こえない様にテンダーは友に頼んだ。


「何で彼を?」

「おかしな願いを持っている様だから、潰してもらおうかと。あと、彼はちょっとした伝手があるから……」

「ふうん、考えがあるのね。分かった。で、食事を沢山用意しておくのね」

「どのくらいが普通になっているのか、見極めておきたいし」

「分かったわ」


 部屋専用の係の者を寄越す、とエンジュは約束した。


「お姉様、食事は出るの?! 私もう耐えられないわ!」

「レストランは満席だということだから、食事は運んでくれると言ったわ。貴女今のうちにそこにあるメニューを見て選んでおきなさい」

「え? さすが帝都、今じゃ料理の写真もついているなんて!」


 やがてやってきた係の者に、アンジーはまずこれ、そしてその後にこれとこれと……

 テンダーは容赦なく注文する妹の姿に唖然とした。


「追加はどうすればいいのかしら?」

「館内には専用の電話がありますので」


 電信に次ぐ新しい通信手段としての電話は、まだ建物内での実験段階にあった。

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