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13 辺境伯と話してみた

 辺境伯の屋敷は、正直私の想像を超えていた。

 屋敷というよりは、「箱」だった。


「普段は全部使っている訳ではない」


 ローダンテ辺境伯は娘の一人の同級生に過ぎない私達にも、真摯に説明してくれた。


「夏は皆それぞれの地で暮らす。だがここの冬は厳しい。そこで昔から要塞生活をする習慣がある」


 「箱」は中庭を持つ大きな正方形の三階建て。

 見た目は実に無骨な建物だ。

 冬の間、辺境領の中でも特に居住が難しい地域の者を集め、生活と仕事をさせているのだという。


「昔はただの石造りのものだったのだが、最近は建物全体に暖気を行き渡らせたり、たまに出る陽の光を、風を受けることなく浴びることができる様な広場を設けたり」

「凄いです!」


 セレは純粋に感動していた。


「いや、だがそれでも元の暮らしが良い、という者も居たんだよ。だがそこは若い世代に説得してもらった。ご老人達は本当に強い。固い雪の中で生きていく術を本当に良く知っている。それも悪くはない。が、やはり、時代は動いているからね」

「一所に集めた方がやはり良いのですか?」


 私は尋ねた。


「家族単位で部屋を用意し、食事も共同で当番制になる。まあ君等の寮に近い感じかな」

「家族」


 つい私の口からその言葉がついて出た。


「皆、固まって居られるのでしょうか」

「大概はね」


 伯は私の頭をその大きな手で撫でた。


「テンダー、君はどうやら実の親やきょうだいを家族にできなかったらしいね」

「正直、今、リューミンの『家族』に目を白黒させてる状態です」

「だがこれもまた、帝都近郊からすると、とんでもない家族の形だ、と言われるだろう」

「そういうものなのですか?」


 辺境伯には現在正妻に加え、三人の妻扱いの女性が居る。

 リューミン達きょうだいはそれらの女性を皆「母」と呼び、彼女達もまた彼等を自分の子供として扱った。


「帝都近郊の貴族でも正妻以外に妾を持つ者は居る。だがここではそうではない。男子は何かと危険を伴う作業が多いことや、有事で死ぬこともある。男女比が帝都近郊や、他の地域とは異なる。そこで、この地では有力な者は女の保護も兼ねて妻を沢山娶り、公平に接する」

「公平に」

「それが出来ない者は複数の妻を持ってはならない。そういう不文律の掟が存在する。こういう形態を我々は家族と呼ぶが、あまりその事実が外には出ない。何故だと思う?」

「やはり、……驚くからでしょうか」

「そう。それに近年帝都近郊で広がっている考え方とも反してはいる」


 時々ぱっと火のように燃えさかっては、いつの間にか鎮まっていく思想というものが帝都にはあるらしい。

 地方は帝都の情報から新しい考え方を仕入れ、それに熱狂的にかぶれた者が帝都へ向かう。

 そしてみっちり仕込まれて地方にまた帰り、広げていくということが増えているらしい。


「まあ、女の服くらいならそれもいいがね」


 はは、と伯は笑った。


「ともかく家族が家族であるためには、公平さが必要だと私は思う。――だが、君のところにはそれが全く無い様だね」


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