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125 怪奇俳優の誕生②

 計り倒せばいい、と言われたとしてもさすがになかなかその辺りは難しい。


「普段の採寸は、私の場合は店の専用の部屋に来てもらうんですが、それはまずいですね……」

「何、うち来ればいいじゃない」

「人目があるでしょう?」

「まぁキミはそういうひとだしなあ。じゃ、ウチの劇団の衣装室に来なよ」


 言われてやってきた場所では、他の衣装製作担当も居た。


「あれ、どうしたんスか? 珍しく彼女連れで?」


 男性の衣装師が目を丸くして問いかけた。


「んー、彼女というか婚約者」

「ああ!」

「えっ」

「何と」


 その場のスタッフが皆一斉にテンダーの方を向いた。


「まあまあまあまあまあ、このへんくつな御仁にまた実に」

「あ、いえ、でも今日は、その」

「彼女は普段ドレスを作ってるんだけどな、約束で、俺の上下を作ってもらうことになってるんだ」


 ああ…… と周囲から微妙な声が上がった。


「で、採寸しようと思って」

「あ、はいはいはい! 成る程ここだったら色々揃ってますしね。はいメジャー!」

「そういうことだったらとっとと先輩脱いで下さい!」

「上下ってことはシャツも作るんですよね、剥きましょう剥きましょう」


 え、とメジャーを渡されたテンダーが息をつく間も無く、彼は上半身を露わにし、ズボンの下履きだけになった。

 こうなると妙にテンダーの頭は仕事モードになった。


「では遠慮なく」

「いいよー」


 メジャーとメモを手にテンダーは測りだした。

 きちんとした服を作るには確かにそこまで脱いでくれた方がいい。

 女性のドレスなら、それを着ける段階の状態。

 まあ、男性にそれをしたことはなかったが。

 ちら、と他に目を向ける。

 するとそこにはあっさりと下着姿で採寸をしている女優も居た。


「平気なんですか?」


 小声でテンダーは肩幅から腕の長さ、腕回りを採寸しつつ訊ねた。


「何が?」

「皆の前で」

「劇の途中の早着替えとか凄いよ。それこそ古典劇の場合女の乳が透ける様な衣装もあるしな。そういう時はあいつ等本当に躊躇しないな。俺等も同じ。それこそ必要があれば下着全部着ないで一枚布だけ、ということもあるしな。だから皆恥ずかしいとかの感情は死んでるんじゃないかな」

「そうなんですね」


 ああそうか、とテンダーは納得した。

 ここなら自分の視線が仕事に徹することができるだろうと彼は考えてくれたのだ、と。

 確かにそうなのだ。

 集中すればするほど、自分も頭も目も感覚が「人の肉体」から「個々のラインを持つ物体」へと変化する。


「そもそも恥ずかしいという感情が身体に対してあったら役者なんかやっていない」


 ぼそ、とつぶやいた彼の言葉がテンダーには重かった。

 実際彼のラインは奇妙だった。

 自分の知っている男性――父親だったり、庭師だったり執事だったり――と根本的に骨格が異なっている気がする。

 身長は自分とそう変わらない。靴によっては自分の方が高いこともある。

 確かにこれなら女装に違和感が無いはずだった。

 ただやはり女ではないな、と思うのはそのラインだった。

 背中や脇から腰に至るその膨らみの無さ。

 腰の位置。

 そして足の筋肉の付き方。

 女性ならぴったり付く太ももだがそうではない。やはりそこにはそうさせないものが存在している。

 とは言え、あとは女性のそれよりはシンプルだった。

 何しろ女性の起伏というのは人それぞれであり、気持ちよく一日着続けるためにはそれぞれの可動域に充分な余裕が無くてはいけない。

 むしろ子供服にも近いのではないか、と一瞬思ったが――テンダーも顔に出ない様にはしていた。

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