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110 女優とドレスの件で「帝都女性画報」の記事に参加する③

「つまりはご自分の経験から、と」

「殿方にはあまりご理解いただけないでしょうか?」


 そう、記者は男性だった。


「……サイズの合わない靴を無理矢理履かされた様なものでしょうか」

「男性が無理矢理腰を締めるというならば、そうですね、大きすぎるズボンしか借りることができなかった時、とか想像なさってくださいな」


 記者は少し目をつぶって考える。


「ぶかぶかのズボンが落ちない様にする時には、結構ベルトをきつく締めないといけないし、また、そのズボンも身体にぴったりしないから重く、妙に肌にひっかかったりして後で足が重くなりませんか?」

「……よくご存じで」


 テンダーはそれには笑顔で応えただけだった。

 情報源は文通相手のヒドゥン・ウリーだった。

 彼からしてみると、吊るしの服が自分に合った試しは制服の時点から殆ど無かったのだという。


『いやもう、学校の最高学年になっても入学時のズボンが履けるってどうだろうね』


 衣装の話を振った時に彼はそう書いてきた。

 いつも仕方無いので、新入生仕様の服を常に注文していたのだと。

 もっとも彼の場合、それでも腰が緩かったりしたので、その部分をわざわざ自分や周囲の裁縫好きに補正してもらったとか。

 そんな彼がたとえば何かの拍子で皆で川に飛び込んだり雨の中ではしゃいだりした後は大変だったと。


『そりゃまあ、誰の服でもとりあえず腕も足も通るけど、ベルトを一杯に締めて、裾は思いっきり折って、いやもう重かったよなあ』


 そういう話がここで使えるとは、とテンダーは苦笑した。


「まあ、サイズが合わないものに押し込められるというのは、確かに苦しいですね。ですが女性はそれでもその形を求めてきたのでは?」

「さてどうでしょう。実際、各地特有の衣装などではそういうことが無いこともありますね」

「帝都が流行の最先端ですが」

「最先端は常に変わっていますわね」

「ですがそれは、今までのドレスメーカーへの挑戦と言えませんか?」

「さあどうでしょう。別に挑戦した覚えはありませんわ。私はただ、自分がドレスを着て夜会に出た時に、美味しそうな料理をまるで食べられない様なドレスばかりでしたから、自分で作るならちゃんとあの素敵な料理を口にできる様なものにしたいな、と思っただけですのよ」

「そちらの方も」


 記者はポーレに話を振った。


「私は彼女の様な発想はできませんが、作業する上で楽なのはやっぱりありがたいですね。私は特に、おさんどんもしていますから、そういう時には動きやすい服は大歓迎ですし」

「おさんどん……」

「誰もできないんですから、仕方ありませんでしょう? そして料理の作り手としては、ドレスがきついからと残されるのは悲しいものですよ」


 なるほど、と記者は妙に納得した顔になった。



 撮影と取材が終わった後、テンダーとポーレはそのままエンジュと共に彼女の現在暮らしている家――ではなく、ホテルへと向かった。


「この方が楽なのよ」


 エンジュはそう言って、借りている三間続きの部屋へと彼女達を通した。


「父の持っているホテルだし。自宅からだと、職場への移動の時間がかかるでしょう? いっそ職場に住んでしまうことも考えたけど、それはさすがに母に止められてね」


 エンジュはそう言いながら、部屋に取り付けの簡易キッチンに向かう。


「お茶くらいは自分で淹れるわよ」

「まあ確かに。寮でもそうだったわね」


 実際、エンジュは二人の前に、豪奢な部屋には今一つ似合わないすっきりしたカップを置いた。


「真っ白ですっきり」

「そう、真っ白ですっきり。最近はこういうものも結構人気が出てきているのよ」


 そうなのか、とテンダーは思った。


「あら、エンジュのは厚手なのね」


 大きくすとん、とまっすぐなそれに、エンジュはなみなみとコーヒーを注いだ。


「もうすっかりお茶よりこちら党よ」

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