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104 私の着たいもの、着せたいもの②

「セパレートスタイルね。すごく昔はあったけどね」


 叔母はそう言う。

 テンダーも前世紀の絵で見たことがある。

 パーツの分かれ方が上下だけでなく、前後でずらす類。

 繊細な、あまりにも繊細でありながら何やらコースが決まっているかのような。


「そうですね。でもそれは貴婦人のドレスで、街の人々とは違うんじゃないかと思うんですよ」

「街の人々」

「ええ。上流階級の皆さまのは叔母様とかアルカラさんとかが考えれば良いと思うんですよ。だから私は、上流でない人々が、少しお金ができたときの服と言うものを考えたいなと思うんです」

「つまりそれが街の人々のためのものと」

「街でもあるし、まだ独立していない女学生とか、仕事を持つ若い子とか。あと、動きやすい方がいいなと思っているとか… いろいろですね。例えば今の私たちのように」


 叔母は頷いた。

 実際、彼女達の作業着はかなり男性のものに寄せていることがある。

 裁断、縫製、そんな作業にしても袖が引っかかるのは邪魔だし危険だ。

 ばたばた動く際に裾が絡まるのも困る。

 ミシン掛けには裾を上げてしまった方が安全だ。

 だがそれを工房の周囲に広げようとは思ってなかった。

 彼女にしてみれば、服飾工房と言うのはあくまで「ドレス」メーカーなのだ。

 街の人々のそれを考えることではなかった。

 だが確かに近年、…少なくとも彼女が少女の頃に比べれば、街の人々の服の好みも様変わりしている。

 テンダーはそちらを考えても良いのかもしれない。

 ただ自分がそれをするのは今の立場もあるし難しいだろう、と叔母は思う。

 師匠に譲ってもらったような今の立場。

 それを守りながら新しい何かを生み出していきたいとは、無論思う。

 だが彼女は市井の人々のために作ろうと考えられなかった。


「どうしてそちらの方を作ろうと思ったの?」

「そちらの方が人が多いし」

「人が多い」

「貴婦人の数はそんなに多くないです。ですが女性はたくさん居ます。みんな少しでもおしゃれをしようとしている。セレがやっていたのも彼女なりのおしゃれですよね」

「確かに似合っていたわね」

「似合うものを自分で選べるだけあれば非常に楽しいですよね。服で楽しく毎日を過ごせるようであればいいと思うんです」

「それだけ?」

「と、言いますと?」

「動きやすいってこと自体が今の貴婦人向きじゃないでしょうそもそも」


 テンダーは少し考え込む。

 働く人のため、とも考えてはいない。

 あくまでも、着やすく、着る人が自分自身で楽しめるような服だったらいいなと思う。

 そしてできればお手頃な価格で。

 このお手頃価格についてはあまり叔母には言えなかった。

 というのも、この工房で扱っているのはあくまで良い素材ばかりだ。

 無論それを扱えること自体、素晴らしいことではある。

 材料を取り寄せるルートを叔母は受け継いでもいる。

 裏返せば、一般では簡単に手に入らないもので出来ているのが工房のドレスだ。

 それを使うこと自体は構わない。

 素晴らしいと思う。

 テンダー自身、その素材を使ったドレスも何度も身につけている。

 だが同じようなデザインで素材が少し変わって、ややシンプルになるだけなら。

 ちょっとの贅沢で楽しい明るい日々が送れるんじゃないだろうか。

 そして何と言ってもコルセットだ。

 テンダーは、正直コルセットは好きではない。

 学生時代、ほとんどそれに影響されなかったことが大きい。

 地元に戻ってからあちこちを回る時のあの格好の窮屈さ!

 仕事で回っているのに、仕事どころでは無い気分の悪さを感じたことも多々あった。

 あと、辺境の衣服だ。

 北西の友人も南東の友人も、その地域に合った服を着ているときにコルセットの必要は無い。

 それでいて美しい。

 だとしたら、それは必須ではない。


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