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幕間3 キリューテリャは市場を歩く(前)

 テンダー達が卒業した翌々年のことだ。



 南東辺境領都ランミャン、通称「海の都」。

 ふらふらとその日、辺境伯家へとご機嫌伺いに行く途中、男爵令嬢キリューテリャは侍女と護衛それぞれ一人ずつを連れ、市場を眺めながら歩いていた。


「お約束の時間は大丈夫ですか?」


 侍女は尋ねる。


「大丈夫。それに今日は一姫様に綺麗な布を一つ選んで行くと言ってあるし」


 帝都で使っていたよりは砕けた言葉。

 というよりは、この地方独自の言葉――文法は同じだが、発音や語彙が異なった方言である。

 キリューテリャが学校でやや丁寧過ぎる言葉づかいをしていたのは、この方言を使わないようにしていたためだった。

 郷里に戻ってくれば、無論それにならう。

 ここで侍女なり護衛などが使うのは、またそこにおける微妙な敬意を払った言葉だ。


「一姫様にですか。また何故に」

「お人形遊びの服を作りたいのですって。ねえ、端切れを売っているのはどの辺りかしら」


 一姫。 

 そう、彼女はこの時期、まだ若い辺境伯夫妻の小さな娘の家庭教師をしていた。

 この土地において男爵だ子爵だ、というのは元々あった上下関係に帝都風の名を付けたに過ぎない。

 元々この地域の辺境伯領というのは、一つの王国だった場所だった。

 海を挟んで広い島嶼国家との国境に面していることから、範囲は広い地域を所持しつつも帝国に編入することを選んだという歴史を持っている。

 それだけに他の地域より文化に独自色が強い。

 言葉もそうだが、特に衣食住という基本的なところが帝都のそれとは全く異なっていることが多い。

 市場は全体的に高い天幕で覆われている。

 白い、厚い布地で覆われてようやく強い日差しを防ぐことができる。

 キリューテリヤはここに来るまでには頭から布をばっさりとかぶっていた。

 布自体は陽を通さず風通しが良い。

 そしてその下の身体にはぴったりとした上着と、たっぷりの布を巻いたスカート。

 貴族であれ、この地では基本的にその姿である。

 さもなくば、この高温多湿の地域では保たないのだ。

 なので、キリューテリャが買い求める人形の服にしても、そのスカート部分のための柄の様々な端切れが欲しい、ということになる。

 侍女は自身の記憶で端切れを売っている露店を探す。


「ああ、あそこです。あの鸚鵡を吊している」

「ああ」


 キリューテリャは弾む様な足取りで侍女の示す方向へと進んだ。

 庶民の女性が少しお洒落をする時の材料の布が色とりどりに吊されている。


「最近は染めが多いのね」

「刺繍よりずっと安くできますし、それでいて軽いですから」


 とは言え、正式な場では無論刺繍がふんだんにされたものが良しとされるのがこの地方である。


「あのー、子供の人形遊びに使いたいんですが、端切れ売ってますか?」


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