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幕間1 エンジュは雑誌を出す(前)

 テンダーが帝都に出る一年前のことだ。



 エンジュは父親のメンガス子爵兼財団理事長から呼び出しを食らった。

 何だろう、と彼女は考えた。

 女学校を卒業した後も帝立図書館に籠もって夕方まで帰って来なかったり、その時の食事がその図書館の外のベンチでりんごとパンとチーズだけ、ということなどありふれていてわざわざ今更言われることでもない。

 縁談か?

 一瞬彼女は思ったが、すぐに打ち消した。

 自分を政略結婚させるにはおそらく相手に困るだろう。

 何せ本の虫だ。

 そして何と言っても家事に向いていない。

 家事、と言っても無論富裕層貴族であるので、家を取り仕切るという意味である。

 だが残念なことに、この令嬢は人を使うということにさっぱり慣れていないのだ。

 朝起きたら顔を洗う、というなら自分で洗面所に歩いていってしまう。

 特に前日の夜、遅くまで書き物をしていた時など、服のままベッドに突っ伏したままということもある。

 古参メイド達はああまた下のお嬢様が、という程度で、彼女が幾日同じ室内着を身に付け続けるのか、風呂の用意のタイミングは、と次のことを考えるのみだった。

 学内ではさほどに目立たなかった彼女の行動は、家に戻ると悪目立ちした。



「何でそうなってしまったのかしら……」


 そう母は嘆く。


「だけど学校ではそれが良かったのでは?」


と数居る彼女のきょうだい達。


「と言うか、そもそも父上が赤ん坊の頃から図書室に連れていったのがまずかったのでは?」


 まあ色々言われてはいるが、当のエンジュ自身は何処吹く風で我が道を歩いている。

 父子爵は自分自身と何処か似ている娘にあまり強く言えず、むしろ言われるがままに書籍を与えてきてしまった。

 結果、年頃の娘は眼鏡に三つ編み、地味な動きやすい服で何やらいつも書き物をしている婚き遅れになりつつあった。


「だから早く縁談を、と私も言いましたのに!」

「いや、言ったところで興味ありませんと言われるだけだろう」

「貴方はそこが甘いんです! 嗚呼もう、何であの子だけそう育ってしまったのかしら」

「でもお母様、あの子の書いた劇の脚本っていつも面白かったじゃないですか」

「そうそう、送ってくれた学内新聞にしても」


 ねえ、と姉達も楽しげに言い合う。

 彼女達も第一もしくは第二の女学校出身だったから、妹の気持ちはよく解る様だった。


「ねえお母様、私達にはそういう才能は無かったから、あの子が望むなら、伸ばしてあげられないのかしら」

「……別に私も、あの子に無理に結婚させようなんて思ってませんよ。下手にさせたら息が詰まる! って脱走してくるのが目に見えてますからね」

「そこで、だ」


 父子爵は一つの提案を家族に持ちだした。


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