100 婚約解消の話という名の茶番
そしてまた秋が過ぎ冬を越え、春。
*
「テンダー、貴女婚約者を妹に譲りなさい」
春のうららかな陽の中、
朝食時唐突に、母がそう言った。
さあ茶番の始まりだ。
咄嗟に私は父の方を見た。
父は黙って食事をしていた。
「え、でもそもそも私に来た話で、ずっと進んでいて、彼も私とそのつもりでお付き合いしてきて……」
今更の様な台詞。
父はそれに対し。
「それはそうなんだけど、この間アンジーが学校から戻ってきたろう? 帰還パーティの際にやってきたクライド君を見てアンジーがなあ」
以前からもう付き合いというものは散々していた。
ただそれはどのくらいなのか、というものは父と私、父と母、母と私の間ではそれぞれ話し合っていたことになっていたが。
そこへアンジーが。
「だってクライド様って格好いいし、今お家の方で修行なさっている事業の方にも有能ってことでしょう? それにこの間お会いした時に、私、ピピッと来たのよね」
この言葉はまた父に聞かせるものだ。
母と妹はそもそも共にこれまでじわじわと作戦を練ってきたのだから、今更だ。
それに、私と妹の間にはそれはそれで話は既にあった。
「それにほら、お姉様とクライド様の婚約は家同士のものでしょう? 相手が私だって何の問題があるの?」
さあこの茶番はそろそろ終わらせよう。
「わかりました。どうぞその様になさってください。ただしお父様にお願いが」
「何だ?」
「私、叔母様のところへ行かせていただけませんか?」
これについては母と妹が首を傾げた。
「カメリアの元に? 何故また」
父には告げてあるので、これもまた母に聞かせる言葉のためのものだ。
「婚約解消ということでしょう? 婚約者を決めるには歳がやや過ぎてしまってますので、叔母様のところで修行をさせていただきたく」
「あれと同じ様に生きるというのか!」
叔母の生き方については、父は何だかんだ言って認めていない。
私との会話の中で彼女の姿が出てくると、ぶつぶつと罵っていたのだ。
それはきっと無意識であるが故に、父の本心なのだろう。
「いえ、ここで暮らすであろうアンジーとクライド様の邪魔になってはいけないと思っただけです」
「まあそうだろうな、お前の様な不器用者があれの様に大成できることなどあり得ないからな」
私はそれに対して口元だけで笑ってみせた。
それでも叔母を大成した、と父は認めているのだ。
これも無意識だろう。
「まあいい。そうだな、お前が元々の婚約者ということは知られているから、病気になって療養中ということにした方が結婚式への欠席理由としても良いな」
「はい。では」
私は早速立ち上がり、朝食室を出て行く。
背後からアンジーが追いかけてきた。
実にいい笑顔だ。
「ようやくその気になったのね!」
「その気も何も。決められたことでしょう?」
「お姉様のそういうところ、だいっきらい」
「そう。私は貴女のことはどうでもいいわ」
「そういうところよ!」
「貴女は人を嫌いになれる程関心が持てるのね。良かったじゃないの」
意味がわからない! と背後で騒ぎ立てる声がしたが、私はもう振り返らなかった。