99 帝都にて叔母と打ち合わせ
夏の半分を辺境で過ごした後、私達は帝都へと回った。
アンジーもクライドさんも地元に戻っている今なら、叔母様への話もしやすい。
叔母の工房は、決して大きくはない。
だがそれでも既にある程度の名が知れだしているというとで予約リストはそれなりに埋まっていた。
「作っているのは今まで通りの砂時計型なんだけどね」
そう言いつつ、トルソに掛けてある幾つかの「習作」を叔母に見せてもらった。
砂時計ではないドレス。
すとん、とウエストラインが消えたもの。
「え、これ大丈夫なんですか」
ポーレがさすがにそれには反応した。
「そう、それが普通の反応。私はこれが良いと思っている。それにテンダー、貴女はあちこち見てきたから、今までの形が全てではないことも知ってる。だからね、この先をどうするかなのよ」
「では叔母様、私がこちらに来たならば、する仕事は」
「お針子もして欲しいけど、むしろ『どう広めるか』と『好かれるデザイン』ね。お針子だったり家事だったらポーレにお願いできるけど、貴女には貴女にしかできないことを頼みたいし」
なるほど、と私は思った。
即戦力になる様な裁縫技術ということではない。
むしろ今までの人脈とか、見てきたものを生かす方向。
「ポーレの目から見てどう? どれか着たいと思うドレスはある?」
「この中からですか?」
うーん、とポーレは悩む。
「奥様……」
「奥様はやめて、結婚していないし。そうね、店長が一番いいのかしら。テンダーもポーレも、もしこっちに来るならば、どっちも私の元で働くことになるのだし。テンダーが叔母と呼ぶのはそれはそれでいいのよ。伯爵家とのつながりを感じさせるのも一つの手だし。ポーレは独立した一人として、私を雇い主としてそう呼んでくれればいいわ」
「わかりました店長。では私から一つ」
ポーレは頷くと首を傾げた。
「私の立場だと、まずドレスを着る場が今一つ想像できません。……普通の女性が少しお洒落したい時の服は無いのでしょうか?」
「普通、はどのくらいを指していて?」
「それこそお給料をもらって街に買いに出ることができる、いつもは自分で仕立てているけど、奮発して作ってもらおうと思っているそのへんの人達のものは」
「……ふむ! それは私も思うのだけどね、今は手が足りないということがあってね! だから、貴女達来たら、その辺りも考えて沢山の女の人がもっと楽に楽しく着られる服を考えて動いて欲しいの」
それが目標、と叔母様は片目をつぶってみせた。
「で、決行はいつになるの?」
「元々の結婚予定が二人が卒業してから、ということでしたから、その辺りですか。その頃にはきっちり片をつけます」
期待しているわ、と叔母はにっこりと笑った。