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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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彼にとっての青天の霹靂



「さて、それじゃ行こうか」

「どこに!? ちょっといきなり何言ってるの!? っていうか実の所マトモな説明とか全然してなくない?」


 にこやかに微笑むルクスに反論かましたのはアミーシャである。

 彼女だけはルクスが少し離れた場所によけたために他のどんぐりと一緒にぐしゃあされずに済んだけれど、そういう問題でもない。その気になれば一瞬で自分など殺せる、という相手の手に持たれて気持ち的にはバイブレーションが止まらないが、だからといって大人しくしていたら安全というわけでもないのはたった今目の前で起きた事を見れば一目瞭然だ。


 再び簡易檻の中に入れられたアミーシャ――と言う名のどんぐり人形――ではあったが、もういつ死ぬかもわからないし、というか身体そのものはもう死んでるしで、これは言いたい事は今のうちに言わなければと思っている。


 アミーシャもこの場にいたわけなので、当然今までのルクスたちの会話は聞いていた。

 世界が今に至るまでの話は、人の身であるならば成程、随分と壮大ではある。

 遥か昔、神々の争いがあったとか悪魔の軍勢と戦っただとかの神話はアミーシャも幼い頃、寝る前に母に聞かされた事もあったし、全く知らないわけでもない。

 けれども、それは遠い昔のお伽噺で、まさか本当にあった事だとも思っていなかった。


 それがどうやら本当に事実だったと知ったのは驚きだけれども、そもそもダンジョンの管理者としてダンジョンに手を加えたりできた時点で薄々もしかしたら……くらいには思っていたのだ。


 ルクスの話は何だか壮大すぎて、アミーシャもついていくのがやっとであったけれど。

 確か別行動して合流したから今までの事とこれからの事を話し合うものだとばかり思っていたのだけれど。


 これからどうするのか、なんて一切出てきていない気がする。

 だというのにルクスの態度からもう既にその話はしました、とばかりだ。


 実際クロムは「伯父さん……?」とどこか戸惑っている様子であったし、ベルナドットも「行くってどこにだよ」なんて言っている。

 唯一ステラだけが黙ったままだった。


 彼女の出方でルクスの次にとる行動が変わってくる、とは思うものの、アミーシャはステラがどうするかなんてさっぱりわからなかった。

 時間にして数秒。アミーシャからすればその数秒はとんでもなく長い時間に思えたが、実際はほんの一瞬でしかない。


「…………まぁ、いいわ。全体的に把握したわけじゃないけど、その方が面白そうだものね」


 言って、ステラは席を立った。

 実際ステラもルクスが何を考えてこれから何をするつもりなのかを理解できているわけではない。

 ただ、この世界の神族の魂をほとんど粉砕しておいてこれ以上何もしないなんてあるはずもない。

 というか、今の行動からして大体想像はついた。


「あぁ、長く生きてると存外日々は退屈なものだからね」

 ステラの言葉にそんな風に返しているが、お前は毎日楽しそうだろうと突っ込まなかったのは言えば面倒な事がこちらに降りかかってきそうだ……という本音からだろう。ベルナドットとクロムはそっとルクスから視線をそらしていた。


 ステラの言葉から了承を得たとばかりにルクスは簡易檻を腰に吊り下げて、ついでに縛られたままのベルナルードを抱えあげる。それは米俵を肩に担ぐような気軽さで。

「んぐむぅ!?」

 まさかいきなりそんな荷物のように持たれるとは思っていなかったらしいベルナルードから驚きの声が漏れたが、相変わらず猿轡のせいでマトモな言葉にはならなかった。


 そうしてルクスのつくったこの空間から出て、それぞれ自分たちに与えられた部屋へと戻る。戻った直後にすぐさま部屋を出て、食堂へと向かう。

 キールやモリオン、それ以外の魔術師たちが集まって、一体ルクスは何をしていたんだろうな、なんて話していたところだったらしい。

 情報のすり合わせをして、その後こっちに伝えにくるだろうというのはわかっていたため気になった面々がステラたちが来るまでの間に時間を潰していた、と言えばそれまでなのだが。


 アズリアの呪いの原因を調べてくる、とか言っていた割にそういう話は一切出てこなかったのもあって心配している者も多くいたためにステラたちが来るまで中々この場を離れられなかった、というのもあるかもしれない。

 少なくとも今この魔術師団として残っている魔術師たちは、アズリアに恩を感じている者たちだ。立ち去った者たちもいたけれど、彼らとてアズリアの事は最後まで心配していた。せめて、自分たちが生きている間に助けられるといいんだけど……そう思いながらも果たして本当に助けられるだろうか? と思っていた者たちの集まりだ。収穫の有無はさておきそこだけはせめてきっちり聞いておきたい、というのを考えると中々他の事をするにしても気になって集中できやしないだろうし、だからこそ、食堂から離れる事もなくこの場に留まっている。


 そこにステラたちがやってきたのだから、一同は思わず騒めいた。

 ただ、その視線は一点に注がれている。

 ルクスが肩に担いでいる人物であるのは言うまでもない。


 本来はプリエール城にいるはずの人物。ベルナルード。


 彼を彼だと認識している者がこの場にどれくらいいるのかはステラにはわからなかったけれど、それでも彼らの反応からして何となく察する事はできた。

 知らぬ間に自分たちの拠点に自分たちが招いたわけでもない誰かがいる。縄で縛られているとはいえ、一体誰だ? という反応を示した者は僅かに数える程度で、後は大体ベルナルードの事を知っているのだろう。

 何故彼がここに……!? と明らかに困惑していた者が大半であった。


 キールは目を見開いて、声に出さないがかすかに動いた唇は「どうして」と言っているように見えた。


「やぁキール。随分のんびりしていたようだけど、ここにいる全員言いくるめるのは成功したかい?」

 ベルナルードを抱えたままのルクスがそう言えば、周囲にいた魔術師たちの騒めきは一層大きくなった。

 何を言っているんだ? という反応を示した者は数名。キールもそちらであれば良かったが実際はその言葉に動揺するかのように肩が跳ねた。大きな動きではなかったけれど、そのわずかな動きを見てしまった魔術師たちの目に疑惑の色が浮かぶ。


「な、にを言って……いえ、あの、それ以前にそちらは」

「見ればわかるだろう? ベルナルード。プリエール城で実質実権を握っていた人物だ。あぁ、それともまさかここに連れてくるだなんて思ってなかったって事かな?

 流石私、常に人の予想の斜め上をいってるね☆」


「ねぇベルくん、ちょっと今のルクス漁船か何かのポスターとかになりそうな感じじゃない?」

「今そういう話してないから。あんたが余計な事を言うと余計ややこしくなる」


 こそっと小声で話しかけたステラであったが、ベルナドットはどうやら相手をするつもりはないらしい。まぁ、今の時点でベルナドットもこれからルクスが何をやらかすかなんてわかってないのでその状況で更にステラの戯言に耳を貸せるか……という話なのだろう。


 とはいえ、キールに向けてとても爽やかな笑みを浮かべてみせたルクスは本当に……抱えているのがベルナルードではなくカジキマグロとかなら間違いなく漁業組合のポスターになっていてもおかしくないくらいの雰囲気があったのだが、生憎その感想に同意してくれる相手はいなかった。


「アズリアの呪いに関して調べる、って言葉からして、本当に私が調べるだけで済むとでも?」

「えっ、あ、あの、それじゃもしかして……」

「彼が元凶である事は調べがついている」


 モリオンの問いかけにルクスはきっぱりと言い切った。どよめく周囲の視線はほぼルクスが抱えているベルナルードへと向けられている。


「ちょいちょいちょい、ってぇことは何か? そいつをどうにかすればアズリアさんは元に戻るって事か?」

「どうだろうね? 殺せば治る場合と、殺したところで何の意味もない場合がある。呪いに関しては適切な解呪をしなければ呪いをかけた張本人をどうにかしたところで意味がない、なんてものもあるからね」


 アゲートの言葉にしかしルクスはあっさりとした態度でありながらも頭を振った。

 ベルナルードがただの魔術師であったのであれば、もしかしたら殺せば自動的に解呪できたかもしれない。けれど、ベルナルードの中身を考えればそんな単純なものでもないのだろう。


 ちなみにルクスは呪いの種類がどうであろうとどうでもいいと思っている。解呪できないわけではないので。ただ、魔術師たちが解呪する方向性で話を進めるのであれば、下手な事をしでかせばアズリアが助からない確率の方が圧倒的に高いからこそあえてそう言って、早まろうとした者を牽制しただけに過ぎない。


 本人がいるなら手っ取り早く呪いの解除方法を吐かせるか……なんて考えが浮かんでいるだろう者たちを横目にして視線を移動させつつあったルクスだが、ベラクルスを見て移動させていた視線も止まる。


「なぁキール? もしかしてとは思うんだけどな? お前、呪いかけたのベルナルードだって知ってたな……?」


 ベルナルードから情報を吐かせようとするにしても、下手な言い方では相手だってだんまりを決め込むだろう。どうやって吐かせる? とか小声で相談していた者たちの声が、ベラクルスの言葉でしんと水を打ったように静まり返った。

 キールの首筋にベラクルスが突き付けた杖がある。これがナイフだとかの刃物であればまだしも、杖、という時点であまり危険性はないように見える。

 しかしこの場でベラクルスが何らかの魔術を杖から発動させれば、至近距離にいるキールが巻き込まれないはずもない。

 以前のベラクルスであれば魔術を発動させるのに詠唱をしていたからその隙にキールが逃げ出す事だって可能だったかもしれないが、ここ最近の間に彼もまた随分と魔術の腕が上がって詠唱をほぼ短縮させて発動させることができるようになっている。

 むしろ下手な動きを見せれば危ういのは言うまでもなくわかる事だった。


 ベラクルスの言葉にきゅっとキールの口元が引き結ばれた。


 その、ほんのわずかな仕草で。

 キールの表情を見てしまった者たちはベラクルスの言葉が正しいのだと理解してしまった。

 キールの表情が見える位置にいなかった者たちも、他の魔術師たちの反応から察したのだろう。

 静まり返っていたはずの室内は、またもどよめきに見舞われた。


 一歩間違えれば次の瞬間には争うだろう状況下。

 けれどもルクスはそんな中でも変わらずに、笑みを浮かべたままだった。

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