他人事にも程がある
ルクスの話は大体理解できた……と思う。
実際全部を理解できたかと言われると怪しい部分もあるけれど、そもそも別の世界の大昔の話から始まって今に至る、みたいな内容を聞かされてすぐさま全てを理解できるかという話でもあった。
乗っ取った側ではなく本来のベルナルードはどうしたのだろうか、と思って問いかければ、もういないとの事。いくら本来の身体の持ち主とはいえ、創星神に敵対するような神がその身体に入り込んだのであればそりゃ勝ち目はないよなぁ……と思わなくもないのでその事実は聞いたところで驚くものでもなかった。
ダンジョンに関してはまぁ、そういうものなのかー、で済ませる事ができた。
神族大打撃状態で魔物も外に野放しになってりゃあっという間に滅んでしまいかねない。
いや、案外人間しぶといからもしかしたら生き残ってたかもしれないけれど、当時の神々との戦いでボロボロになった状態の世界で生きていけたかどうかまではステラたちに知る由もない。
創星神的に多分駄目だろうなーと思ったからそうした、という可能性もある。
まぁそこら辺に関しては割とどうでもいい。少なくともステラにとってもベルナドットにとっても、クロムやルクスにとっても無関係である事に変わりはない。
だからこそ疑問はすんなりと浮かんだ。
「世界地図は何で? この限りなく中心部分に島があるのはわかったけど、それ知らせるためだけ、ってわけでもないんでしょ?」
この世界の地理もロクにわからない状態で言われたとしても、確かにすぐには思い浮かべられないかもしれない。けれどもとりあえず世界の中心に島があります、と言われればまぁ、周囲に大陸があって、それのどれかがこの国なんだな程度には理解できるとは思う。
ただその場合、恐らくステラが思い浮かべたものとベルナドットの思い浮かべたものは異なるだろうし、世界の中心はともかくとして他の国に関する話が出た時に齟齬が生じる可能性は高い。
恐らくは無いような気もしているが、ルクスの事なので無いと断言できない気もするのが困る。
ともあれ、世界地図というものをルクス自らが作ってしまった時点で、ダンジョンの転移装置とかそういうものがステラたちからすればそこまで必要でもなくなった事は確かだ。
転移装置を使わない以外での移動は、普通であればどこに何があるかも微妙にわからないまま外を移動していくか、はたまたダンジョン管理者となって自分の管理しているダンジョンへの移動をするかだ。
そもそもルクスは最初に繋がっていると言っていた。
この世界がこうなった状況は一応理解できた。
ダンジョンを管理するという名目で、人に力を与えてその実自分が復活するための力を蓄えようとしている神族の存在についてもこうしてこの場に揃えられれば否定できるものでもない。
それ以前にアミーシャの時点でそれに関しては大体把握していたけれど、どうやら一つの大陸に一人の管理者、といった感じでいたのだろう。
一つの大陸だけの管理ではなく各地にダンジョンが散らばっていたのはアミーシャもそうしていたように、不老ゆえ長らく一所に留まれば不審に思われる。それを回避するためなのだろう。仮に他の理由があったとしても、ステラからすればどうでもいい。
「他の、アミーシャ以外の管理者についてはどうなったの? あ、そこのベルナルードは別としても」
「死んだよ」
「死んだの」
あまりにもあっさりと言われて理解するよりも先にオウム返しに言葉を出して頷いてしまった。
えっ、死んだ? とか驚く間もなかった。
「ダンジョンをちょっと破壊寸前に追い込もうとして、慌てて出てきた管理者軽くしめて玉を奪ったんだけど。ついでに魔力流したら所有者がどうこう、とかいうのも一応見てはいたからさ。ちょっと上書きするようにしてみたら、見事なまでの拒絶反応起きちゃってね」
「所有者が他にいるのに無理に上書きしようとしたらそりゃそうなる……のか?」
ベルナドットも何だか釈然としない様子だ。
「上書きしなかったとしても、多分奪われた時点で駄目だったんじゃないかなって思うんだけど。
ベルナルードの中にいる奴はともかくとして、他のはアミーシャが持ってた玉と同じようなものだった。玉にもう一つの魂がくっつくようにしてたから、べりっと引っぺがしたりしたんだけど……どの玉も今はそっちのどんぐりにいる連中に乗っ取られてたみたいで。
で、それ引っぺがした時点で管理者にされてた奴もその衝撃の余波を受けたみたいで」
「ショック死?」
「いや、老衰」
衝撃の余波、と言われたためにショック死だとばかり思っていたのだが、まさかの老衰。思っていた言葉ではなかったせいもあって、ステラの表情はきょとんとした状態から中々元に戻れなかった。
「管理者となっている間は不老なんだよね。でもそうじゃなくなった時点で不老ではなくなる。本来ならそこからゆっくりと年を取っていくはずだったんだろうけれど、今回はほら、穏便な手段で管理者ではなくなってしまったとかいう状態ではないだろう?
そのせいで今まで止まっていた時間が急速に動き出したんだよね」
なんて事無いように言っているけれど、実際そんな光景を目の前で見たらと考えると中々にシャレにならない。
管理者に選ばれた者の年齢にもよるが、恐らくはそう年老いた者を選んだりはしていないのだろう。大体アミーシャと同じくらいか、それよりも上、とはいっても探索者として活動できる程度には見た目若く見られる程度、を想定していたとしてもだ。
それがあっという間に年をとって、髪の色が抜けていって、皺が増えて、だけで済めばいいがルクスのこの言い分からして更にそれより先に進んでしまったのだろう。
即ち、年老いただけではなく、そのまま死に、最終的に骨と皮だけのミイラのように。もっと進んで風化した可能性もある。
目の当たりにしたのが普通の人間であったなら恐怖で悲鳴の一つや二つは上がってそうな展開だ。
血飛沫上がるスプラッタな恐怖展開ではないが、いずれは自分もそうなるかもしれない、と思わせる死に方ではある。とはいえそれを見ていたのはルクスと、あとはクロムくらいだろうからそういった精神的ダメージは全く負っていなかったが。
しかしその話を聞く限り、アミーシャはかなりギリギリの部分にいたのだなと思う。
あの時闘技場から逃げ出して、それを追ったルクスがアミーシャの魂を引っこ抜いてどんぐりにINせず先にアミーシャの持ち物などを奪うような真似をしていたら、きっとアミーシャも他の管理者のように死んでいた可能性はある。
いや、どのみちもう身体そのものは死んでるんだけれども。
「そういえば随分と静かね。アミーシャ含めてどんぐりも玉も」
「……いやぁ、それは流石に騒げないだろ。こんな事しでかした元凶がいて、挙句その仲間もいて、その状況で自分たちはロクに身動きとれないどんぐりと玉。
いい加減馬鹿じゃないならわかるだろ、下手な事言えば死ぬって」
クロムの言葉にそれもそうねと頷く。
アミーシャを利用していた奴は最初あれこれ喚いていたけれど、そういった前例もあるし喚いたところで意味がないと他のどんぐりに突っ込まれた魂は早々に理解するしかなかったのだろう。
そしてアミーシャが静かなのは、自分と同じ境遇であるにも関わらずその相手が人間ではなく神に該当する相手と知っての事だろうか。いくら見た目が同じであっても中身が自分とは違う種族であると思えばフレンドリーに親睦を深める、というのも少しばかり躊躇う状況ではある。
フレンドリーに接して大丈夫そうなら異種族だろうと話しかけたかもしれない。しかしそいつらは基本的に人間を利用する側である、と思えばその上でフレンドリーに接しよう、とまでアミーシャは思わなかった。恐らくはそういったところか。
「……それでルクス。貴方、これから何しでかすつもり?」
ステラがそう問えば、ルクスは簡易檻の中からどんぐりを取り出した。全て取り出した挙句、アミーシャだけは別の位置に置かれる。
それ以外のどんぐりは玉のすぐ近くに並べられた。
六つの玉と五つのどんぐり。
これだけみるととてもガラクタっぽい。それこそ、まだ年端も行かぬ子がそこらで見つけて集めてきた、と言われても誰も疑わないだろう。
一応この世界に残っている神の魂のはずなのに。
ステラは何となく嫌な予感がし始めていた。
最初こうしてルクスが戻ってきたばかりの頃はまず何があったのか聞く前ですらあったわけだし、それがいきなり世界の成り立ちというか、なるべくしてなってしまった話というべきかを聞かされたという事で、随分長い前置きだなとすら思っていた。
ステラはルクスではないけれど、ルクスが何を考えているかなんて何もかもお見通しというわけでもないけれどそれでも。
自分がルクスであったとして、ではどうしてこんな真似をしたか、を考えると何となく想像できる部分もある。
ルクスに問いかけつつもステラの視線は玉とどんぐりに向けられている。
ステラの想像が合っていたとしても、間違っていたとしても。
どっちにしてもロクな事じゃない。
「何、ってそんなの聞く必要あったかな? もう気付いてるんだろう?」
明確な言葉を発さぬまま、ルクスは玉とどんぐりが置かれている場所へ手をかざした。
直接触れる事もなく、ただ上に手をかざしただけだ。
それは玉かどんぐりのどれか一つをこれから手に取るようにも見えたし、単純にその場を通り過ぎてその先にある何かに手を伸ばしているようにも見える。
何の気なしにとった行動のようだったからこそ、どんぐりも玉も何の反応も示さなかった。
しかしそれは、どんぐりに突っ込まれてしまった魂にも、玉となってしまった神族にとっても最悪の結果となる。
ごしゃ。
そんな音と同時にテーブルの上に並べられていた玉とどんぐりが同時に押しつぶされた。ルクスの腕が直接潰したわけではない。けれどもルクスの魔術である事は確かだ。
何の抵抗をする間もないままに、玉は粉々に、どんぐりは無惨にぐしゃぐしゃに潰れてしまっている。
ステラとしては何となくあーやっぱりなー、という感想しか抱けなかったしベルナドットは何してんだ? と思ったもののまだ状況を完全に理解していなかった。クロムは恐らく既にこれから何をするつもりなのかわかっていたのだろう。あーあ、と言い出しそうな顔をしていたがそれだけだ。
身動きを完全に封じられていたベルナルードは目を見開き、咄嗟に何かを言おうとしたが猿轡によってマトモな言葉が出る事もない。
「あ、あ、あ、か、かかかかか仮にも神様って話だったでしょお!? 何いきなり粉砕しちゃってんのー!? 何考えてんのよう!?」
そんなルクスの行動に声を上げたのは。
先程まで借りてきた猫どころか完全に自分無機物ですけど何か? と沈黙を守っていたはずのアミーシャであった。
この時ばかりは最も常識的な反応を示したのはアミーシャであると言えよう。
本来ならベルナドットが突っ込むべきだったのかもしれないが、いかんせんこの世界の神族とはそう関わったわけでもないし、いくらこの世界の神だと言われても見た目は玉とどんぐりだ。愛着があるわけでもないし、完全にどうでもいい事柄だとしか思っていなかった。
それ故にアミーシャの叫びを聞いて、あぁ、そうなんだよな、こいつらこの世界の神族なんだったな、とワンテンポどころかスリーテンポぐらい遅れてからその事実を認識した程だ。
本来のツッコミが完全に役割を放棄しているとか怠慢じゃないかしら、なんてステラが軽口を叩く暇もなかった。




