異世界神話
この世界も昔はダンジョンの外に魔物がいた、という話は前にも聞いた。
その後色々あって今の状態に落ち着いた……いや、落ち着いたというのは言葉の綾ではあるが、まぁ今の状態が当たり前と化した。
元々こちらの世界には神族と対を成すような存在がいなかったのだが、結果としてそれがよろしくなかったらしい、というのもルクスからぼんやり聞いた気がする。
ステラたちの住む世界には神族と対を成すように魔族が存在しているが、こちらの世界にはそういったものは存在していなかった。
神族と対を成す、と言うが、実際の所は完全なる対、というわけでもない。
力の強弱に差がありすぎるので全ての魔族が神族と同等の力を持つ、というわけでもないのだ。
そして神族たちのところには、眷属と呼ぶべき種族がいる。どちらかといえば世間一般だとそっちと対だと思われている節があった。
実在する、と思われているわけではないがとりあえず神話とかそういった伝承の中で高確率で対となっているのは天使と呼ばれるものたちだ。
ステラたちの世界では光翼族と呼ぶ事もあるが。
そして魔族は人々の中では悪魔と呼ばれることもある。
ところがこちらの世界にその魔族は存在していない。
それが結果として面倒な事態を引き起こしたわけだ。
平たく言うと世界のバランスがとても不安定だったのである。
目に見えてわかりやすいものではないが、それでも知らず知らずのうちにじわじわと広まったそれらは、ある日こちらの世界の神を蝕んだ。
それが創星神に弓引く者たちとなった。悪魔の軍勢、なんて言われていたがつまりは神々の戦い。
ステラたちの世界でいうところの、天使が堕天使になったとかそういうのに近い現象である。
その戦いの結果とんでもない被害が出たわけだが、かろうじて世界は崩壊しなかった。
けれども大地は割れ、魔物たちは今まで以上に活性化して暴れだし、それはもうとんでもない事になってしまったのだ。
どうにか創星神が力を振り絞ってその荒れ狂う魔物たちを各地に封じ込めたのが、ダンジョンである。
世界の外側から魔物の姿が消えたのは、この時からだ。
けれども、創星神以外の神々もまたズタボロだったし大体死んだしで生き残った存在は数える程度だった。具体的には各陣営六名が残ったので創星神含めて神と呼べるものは計十三名。
ステラたちの世界と比べると圧倒的少数。多けりゃいいという話でもないが、生き残った数と考えると下手したら絶滅寸前レベルに見えない事もない。
この時点で生き残った神々の内訳は、創星神を除いて六名が創星神側にいたもので、もう半分の六名が敵対した側であった。しかし創星神も力を大体使い切って疲れ果てて休むべく眠りについたらしいし、そうなればそれより力を持たない神々も同じようなものだ。
というか、この時点で神々の肉体は消えて魂だけが残った状態だった。
それでもどうにか復活するべく力を蓄える必要がある。
創星神は眠っている間でも徐々に回復するらしいが、神族は既に魂だけの状態。そんな事をしても回復するどころか消耗する方が大きい。このままではいずれ魂が摩耗して消滅必至。
それ故に、どうにか力を取り込もうと考えた結果目を付けたのがダンジョンであった。
一応魔物を封印していたし、それに関しての管理は任されてはいた。魂だけの存在になった神族でもそれくらいはできると創星神も考えたのだろう。
とはいえ、ダンジョンの中で放置したままの魔物であってもあまりに力をつけすぎるとそれを封印するのは難しくなってくる。
だからこそ、まだ意思の疎通が可能であった人類にダンジョンの中の魔物討伐をさせるように仕向けた。
結果として、ずっと放置しておくよりもダンジョンに人が出入りした方が各々の力の回復は若干とはいえ早まる感じがしたのでそこからダンジョンは魔物を封印するだけの場所ではなく、今の形へと徐々に変化していったわけだ。
その力の回復に便乗しようとして敵対していた神族も魂の欠片となっていた石に強制的に宿り、力を掠め奪い取るという行動にでた……というのが大まかな話である。
つまり、アミーシャが手にしていたあの石と同じようなものが他にもあった、とルクスは言ったのだ。
しかもそのどれもに寄生するように魂が二つ。例外もあったようだが、大体そうであった、と。
「というわけで、こっちがひっぺがした魂」
そう言って見せてきたのは、アミーシャとどんぐりが入っていた簡易檻だ。
その中にはアミーシャとどんぐり、二つのどんぐりが入っていただけのはずだったが、今見るとどんぐりは六つ入っていた。そのうち一つは手がくっついているのでアミーシャだ。
「で、こっちが石」
そう言ってテーブルの上に乗せたのは、確かにアミーシャが持っていたという石と同じものだ。それが六つ、コトンと小さな音を立てて置かれる。
「え、まって全部回収してきたの!?」
アミーシャはステラたちが最初の時点でダンジョンにありもしない隠し部屋を作った事で出向いたわけだけど、他のそれっぽいのなんてベルナルードの話しか出ていなかったはずだ。
確かにプリエール王国に行ってすぐにルクスは城に入り込む事に成功していたようだし、こうしてベルナルードを捕獲している時点で必要な情報は得たのだろう。
けれども、ベルナルードがそれ以外のダンジョン管理者の情報を持っていたとして、残りの石は四つ、管理者の人数も四人と考えるとあまりにも仕事が早すぎる。
「流石に途中で厳しいかなと思ったからクロムを借りたんだ。世界全体の図に関してはその時に情報を集めたし、全体像がわかればあとの移動は容易い。転移装置がなくたって上空から移動する事も可能だし、一度行った場所であれば空間転移は魔術でも可能だ」
「いきなり連れ出されてまずこのダンジョンで暴れてこい、ってロクな説明ないままに言われたオレの苦労を労わってほしい」
「暴れて、って事はやったのは最初のアミーシャの時と同じような?」
「あぁ、ダンジョンが崩壊するレベルでのダメージを与えられると管理者もそれなりに大変みたいだからね。おびき出すにはそれが一番手っ取り早かった」
ルクスは別行動している間にアミーシャから更にダンジョン関連の話を聞きだしていたらしく、ダンジョンに大きな傷がつくようだと修復するのにも力を使うし、放置でどうにかなる程度ならまだしもそうじゃないなら直接赴いて確認する可能性は高いと言われたので素直にそうする事を選択した。
実際にベルナルードを捕獲して得た情報から、各国の城があるダンジョンは管理者が異なるのを把握しているので、適当なダンジョンいくつか壊す寸前までやってみたけどその管理者全部同じでした、というオチにはならない。
だからこそ大陸を越えてその国最大のダンジョンと呼ばれる所へ行き、周囲に探索者がいない事を確認した上で派手に暴れた。
小さなダンジョンであったとしても、アミーシャのように管理する力もあまりない者であれば放置はしないだろうけれど、それなりにできる事が多くなって管理者としての力の回収率が高い者であれば初心者向けダンジョンなどの小さなところは場合によっては見捨てる事もあり得る。
けれど、最大規模のダンジョンが被害に遭えば流石に放置で、なんて悠長な事も言っていられない。
もしそこが崩壊してしまえば、立て直すにはとんでもない量の力を消費する事になってしまうし、他の所に新しく最大規模のダンジョンを作ろうにもやはり力の消耗は激しい。
だからこそ、放置はありえなかった。
ただ魔物との戦いに大技繰り出しました、で済めばいいがそうでなければダンジョン修復に費やされる力は果たしてどれほどか……どうやら他のダンジョンの管理者はアミーシャよりも優秀なのが多かったらしく、だからこそルクスの予想通りにすっ飛んできて、まんまと倒され石を回収されてしまった、というわけだ。
「アミーシャみたいにダンジョンの管理を任されていた人たちだけど……アミーシャもそうだったけど、管理者やってる間は年を取らないみたいだからね。
けど、石の所有権を強制的に奪ったら今まで止まっていた時間が急速に流れ出しでもしたのか皆骨と皮だけになってしまったよ」
「あれはそう何度も見たいもんじゃァねぇなぁ……」
どうやらその時の光景はクロムもバッチリ見てしまったらしく、その表情は暗い。
「ん? 待ってくれ。そういや石は六つあるのにどんぐりも六つしかないし、そのうち一つはアミーシャだろう? さっきの話だと敵対側の神族も六名いたはずだが」
「あぁ、例外があるって言ったろ。まったくベルはせっかちだなぁ。創星神と敵対していた側の残る一名は彼だよ」
そう言ってルクスはそちらに視線を向ける。ルクスにつられるようにしてベルナドットとステラもそちらを見れば……
まぁ、言うまでもなくそこにいたのはベルナルードであったわけだ。
「……え、まって、石に便乗する形で乗っ取ってた他の連中と違って彼だけ既に身体を得ている、って事? 神族として復活した、で合ってる?」
「いや、そう考えるのが普通かもしれないけれど、残念ながら彼はベルナルードの身体を乗っ取ってこうなってるからね。乗っ取ったのが石か人の身体かの違いってだけの話さ」
ちょっと話がとっ散らかるけれど、と言いながらも、丁度注目がベルナルードに向いた事もあってルクスはベルナルードに関する話をする事にしたようだ。
となると、アズリアの話にもなるのだろうか。呪いをかけていた張本人だというし、正直キールも呼んでおくべきだったかしら……? と思いもしたが、今キールをこの場に呼ぶのもそれはそれで話がどんどんややこしくなりそうで。
まぁいいや、キールの事は後回しね、とステラはあっさりと思い浮かべた人物の事は無かったことにした。




