話せば長くなりますが
「まずきみたちと別れてから私が何をしたかっていうと、アミーシャから聞いていたベルナルードを探す事。城で働いているという情報は既にあったから、では何をするかとなれば城に行くのが一番手っ取り早い」
そう切り出したルクスに、ベルナドットは信じられない物を見るような目を向けた。
いや、確かにそうなんだけど。
だが城だ。現代日本の観光地として見学できるような城ならいざ知らず、王族がいて、そこで働く者たちがいるという城としての機能が正常に働いている場所に何のコネも伝手もない奴が行ったとして基本は門前払いを食らう。
場合によっては侵入者か賊かと疑われ捕まったって文句は言えないだろうし、そんな状況で城に入ればその時点で首を刎ねられてもおかしくはない。
ましてやプリエール王国はアビリティ至上主義がパルシア王国よりもずっと顕著に出ている国だった。
そこにノーアビリティがのこのこ足を運んでみろ。そいつの人権なんて紙より軽いのは目に見えている。
普通ならその時点でゲームオーバーになってもおかしくはないが、ルクスを普通の枠組みに当てはめるのはよろしくない。現にこうしてベルナルードを捕獲しているわけだし。
ベルナドットだけではなくステラにも似たような視線を向けられて、ルクスはくすりと笑ってみせた。
楽しくて、というよりはまぁそういう反応すると思ってたよ、みたいなやつだ。
「勿論私だって何の策もなく侵入はしないさ。直接城に入ったのは三日後だよ」
「いやそれでも私たちと別れてから三日後には城に入ってたのよね。何そのスピード入城。プリエール王国について三日目なんて普通にそこらのダンジョンで慣らしてたわ」
王都のダンジョンに行ったのがプリエール王国に来て二週間が経った頃。王都パルシアのダンジョンと違い案外サクサク進めてしまったし、向こうのように途中で闘技場があったわけでもないし、そこで決闘を申し込まれたわけでもない。
何か死神っぽい商人から商品ゲットのための戦いに挑もうとしていた探索者たちはいたけれど、ステラたちはそれに参加する事もなくそのまま階層主に戦いを挑み、その後は更に進んで最下層を攻略して出てきた。
規模も大きい、と言われていたわりに、あまり迷う事もなかったしそもそも内部の構造が変わると言われていても財宝を求めているわけではないために、浅い階層から深い階層まで練り歩くわけでもない。
キールの目的でもある世界樹の雫が浅い階層で手に入るとはキールだって思っていないからこそ、次の階層へ行く階段を見つけたらさっさと進んでいたのだ。
だからこそ、王都パルシアのダンジョンを攻略するよりもこちらのダンジョンは少しだけ早く攻略し終えた。
その後は帰って来るなり待ち構えていたルクスにクロムを貸し出して、一日休んだ後で他のダンジョンでちょっと時間を潰そうとして向かった先でキールのかつての仲間と再会。さっさとダンジョン攻略してこれ以上プリエール王国で活動してたら他にも会いたくない奴と遭遇するかもしれない、とかキールも思ったようだしさっさとパルシア王国へと戻ってきたわけだが。
ステラたちのしていた事は、パルシア王国にいた時とそこまで変わっていない。宿を拠点にダンジョンへ行きダンジョンを攻略し、そしてまたダンジョンへ、といった具合だ。
ルクスも一人で色々とやらかしてるんだろうなー、とは思っていたけれど、まさか三日目にして城に入ってるとは思わなかった。
「ちなみに下準備とかして次の日にはベルナルード捕獲してたんだけど」
「はっっっっや!!」
いや、別行動して五日以内にターゲット捕獲してるって、何?
見ればベルナドットも何言ってんだこいつ、みたいな顔をしているし、クロムの表情は疲れからか虚無と化していた。え、じゃあ一体何がどうなってうちの息子こんな疲労困憊してるのかしら……新たな疑問が浮かぶ。
「そもそも下準備して、って三日目に城に入ってその後でしたのよね? で、次の日にはもう捕獲? え、何? ちょっと私理解が追いつかないのだけれど」
「理解が追いつかなくてもそれは流石に私の方でどうにかできる話でもないからなぁ……今更何言ったところで変わるものでもないし、事実を事実として受け入れてくれとしか」
「まぁ、そうよね。そうなのよね。わかってる、わかってるのよ。ただ、なんていうか……そう、一時間とか二時間の長時間系番組で料理スペシャル! とかいう番組見たらその中身が大体全部キュー〇ー三分クッキングだった、みたいな……こう、何とも言えない気持ちになってるだけだから」
「あぁ、あの最初から全部準備してあるやつ。三十分煮込むとか言っておきながら隣の鍋が既にそうなったやつとかいうあれな……」
ベルナドットもげんなりした様子でそれに乗った。
何だろうかこの事後報告感。いや、確かにそうなんだけど、既にルクスからすれば終わった話を説明するわけだしそうなんだけれども……という、こちらのどう表現していいのかわからない微妙な心境はまさに三分クッキングのようであった。
クロムが「三分クッキング……?」と訳が分からないとばかりに首を傾げたが、生憎それに関して説明するつもりはない。ルクスも一瞬何の話だろうか、と思ったようではあったが追求するつもりはなかったのだろう。こほん、とワザとらしい咳をしてから言葉を続けた。
「ところで、これを見てもらえるかな」
言いつつテーブルの上に置いたものは一枚の紙だった。
そこそこの大きさのその紙に描き込まれたものをみて、ステラとベルナドットはほぼ同時に顔を見合わせた。
「地図?」
「だよな? ん? いやでもこれ……世界地図か?」
「御明察」
「ちょっと待って、お城にあったの? これ」
「いいや?」
それがこの世界の地図であるという事はすぐさまルクスも頷いたが、出所に関しては違うらしい。あっさりと否定された。
「私が描いたのさ」
「……え、何、まさかベルナルード捕獲した後から? そもそもその人捕獲したって言っておいてずっと縛ってるし猿轡噛ませたままだしてっきり何かこう、本人から直接情報吐かせるとかそういうアレかと思ってたけど、もしかして違った? 単なる趣味の悪いインテリア扱い?」
むしろどうして連れてきた。
見て見て捕まえたよー、が許されるのは幼い子とかあとは飼ってる猫くらいではないだろうか。いやまぁ、捕まえたよー、の捕まえたもの次第ではその後それを見せられた側が悲鳴を上げる事にもなり得るが。
「話すと色々長くなるんだよ。とりあえず、アズリアに呪いをかけていた張本人がこちら」
ピッと指差した先を見れば、そこにいるのは言わずもがなベルナルードだ。
「あっさりと犯人割れたわね……まぁ、手っ取り早くはあるけれど」
どうして、だとか何で、という疑問は確かにあるがそれに関してステラたちが口にだしたところでわかりようがない。
プリエール王国の城で働いていたベルナルードと、かつて城勤めをしていたアズリア。共通点がないわけではないが、そこで何があったかなんていうのはステラたちからすれば何も知らないのだ。今ここでそんな疑問を口にして、その上でベルナルードが基本的な情報全部知ってる事前提であれこれ暴露したとして、まず間違いなく話についていけない。
「それで、その世界地図は何でまた?」
この世界、ダンジョンが出来たら転移装置なんかもどこからともなく発生しているし、探索者ギルドにもダンジョン関係の機械が何か普通にあるけれど。
正直謎が多すぎるのだ。
ダンジョンが新しくできていた事に関して知るのは、転移装置で行き先が表示された時。
そこに行ってみてまだ町や村ができていない状態であれば、新しいダンジョンだとわかるしついでにそっちに移住して、なんて人も出るのかもしれない。
けれどもでは、探索者ギルドにあるギルドカードを読み取る機械だとか、魔物コインを換金するやつだとか、あれはどうなんだろうとなるわけだ。
この世界の住人はそういうものと認識して最早疑問にすら思っていないようではあるが、まず誰かが作ったわけでもないそんなものがある、という時点でちょっとおかしいと思うだろうに。
「ここがパルシア、こっちがプリエール。他の国は……まぁ名前はどうでもいいか。どのみち今関係ないしね」
ルクスが指をすっと差した部分を見る。
パルシア王国がある大陸と、プリエール王国がある大陸はそう離れていない。海を挟んですぐ近くである、というのは知っていた。
それは単純にパルシア王国にある巨大な山が、薄っすらとではあるがプリエール王国の一部から確認できていたからだ。
海を挟んで東西に分かれている、と言われていたもののこうして世界地図とやらを見れば二つの大陸はどちらも東側に位置している。
実際の西側には大きな大陸が広がっていた。
ついでに北の方にも大陸はあるが、そちらはあまり大きなものではない。
そして南側には大きな大陸が一つと、それよりも小さな大陸が一つ。小さい方は少し西側の大陸に近い位置に存在している。
ルクスの話を聞くに、どうやらその大陸それぞれが一つの国であるというのは理解できた。この大陸の一つ一つに人が暮らす場所があって、そしてそれはつまりダンジョンの数でもあるわけだ。
「で、ここ注目してほしいんだけど」
とん、と地図に指を押し付けるようにしてルクスが示したのは、世界の中心と思われる場所だった。
見ればここにも大きくはないが大陸がある。大陸、というよりは島、と呼ぶ方が適切かもしれない。
「とりあえず私の次の目的地はここなんだけど」
「待てルクス。話についていけてない。色々とすっ飛ばしてやしないか!?」
そもそもプリエール王国で城に忍び込んでベルナルードを捕獲してきて、そこら辺に関しての話だったと思うのだが。
いきなり飛躍し過ぎた話にベルナドットも流石に待ったをかけた。
「別にすっ飛ばした覚えはないんだけど……」
困ったように眉を下げて言うルクスに、ステラは一応話は繋がってるわけね、と念を押した。
「それは勿論。困った事に全部繋がってるみたいだよ」
「その全部、ってどこから」
「どこ、って……ほとんど最初から」
何でそんな当たり前の事を聞くんだろう、みたいな顔をされたが、その時点でステラはイヤでも察してしまった。
「つまり、私たちが勇者召喚に巻き込まれてしまったのも、アズリアが呪いをかけられたのも、むしろそんなちっぽけな事だけじゃなくて、もっとずっと大昔の――それこそこの世界の神が力を失いつつあって回復させるために眠りについてるとかいうあたりも含まれてるって事?」
「いや流石にそれは壮大すぎやしないか……?」
ベルナドットが流石にそこまではないだろ、と言うようにツッコミはしたものの。
「そう。そこから全部」
などとルクスに言われ、嘘だろ……? みたいに目を見開いた。
「だからこそ、話せば長くなるんだけれども」
そんな風に言うルクスの言葉は、嘘だとかハッタリだとかそういったものですらなく。
ただただ本当の事なんだと理解するまでにややしばらくの時間がかかるのだった。




