とても困る戦利品
プリエール王国からパルシア王国へ戻るのにそう手間はかからなかった。
短期滞在だとしてもそれなりの税金がかかるらしいとは聞いていたが、そこら辺はダンジョンで得た魔物コインを換金したり適当に必要のないアイテムを売る事であっさりと工面できてしまったからだ。
もっと法外な金額を請求されていたら流石にステラ手持ちの宝石とかを売りさばく事も考えたけれど、流石にそこまでいけば国内で反乱とか起きかねない。一度入ったら二度と出られない国とかアリジゴクのような所、なんて噂が流れたら流石にプリエール王国だって困るだろうし。
とはいえ、駆け出し探索者などはそれなりに大金だろうし、気軽に他国へ行けない人が多いのは言うまでもない。
そこら辺考えると、追放された割によくキール達はパルシア王国へ来る事ができたわね……と思う。
一人二人ならまだしも団体さんでの出国だ。
かかる金額だってかなりのものだったのではないだろうか。
探索者ギルドの方で少しばかりの便宜を図ってもらったとしても、税金全部チャラにはならないだろうし。
あの後国を出る前に探索者ギルドで他にもああいった稼ぐのに適したダンジョンがあるのか? と問えばあの国にはそういったダンジョンが他にもあるらしい。
正直そっちのダンジョン紹介してほしかったけれど、出る魔物が複数種類で徒党を組んで出現するところだとか、動きの素早い種類がたっぷりだとか、そのくせ出てくる数も多いなんて所らしくゾンビなら動きもそんな素早くないから余程の事がない限り対処可能だからね、との事。
まぁ、確かにそう言われるとそういう気がしてくる。
アビリティ至上主義だけが横行しているならともかく、ああいった稼ぐのに適したダンジョンがいくつかあるからあの国の探索者たちはあの国にいるという事か。
他の国のダンジョン事情は知らないが、少なくともパルシア王国のダンジョンでそういった稼ぐのに特化しているようなダンジョンはなかった。
稼ごうと思えば稼げるダンジョンがあって、尚且つアビリティによってはたっぷりと幅を利かせる事だってできるとなれば、さぞ居心地がいいだろう。
アズリアの呪いの原因を探るだとか、他の国のダンジョンを見てくるだとか言って出て行った割にアズリアの呪いに関してはルクスに任せてあるし、そういう意味でキールは無駄足でいい思い出のない国に行っただけだ。
拠点に戻って来て、何しに行ってきたんだ、なんて仲間から突っ込まれていたがまぁルクスが戻ってくればどっちにしろ何かしらの進展があるはずなので少しの間キールは彼らにいじられるのを我慢してもらいたい。
一緒にいったモリオンはプリエール王国での出来事を他の魔術師たちに話していたし、ルクスが早々に別行動した、という話に魔術師たちも「何で?」と首を傾げていたものの。
ちなみにステラの短剣盗難からの探索者片腕焼失事件に関してはドン引き半分、ざまぁ半分といったところであった。
どうも向こうの国でかつて、自分の持ち物を不当に奪われた事のある者が数名いたらしい。
問題は盗んだのではなく無理矢理譲渡したという流れに持っていかれたらしいので、訴えたところで意味がなかったのだとか。
それを聞いて思う。
アビリティ至上主義にしたってあの国法律どうなってんのかしら……と。
次にこちらの国に待機していた魔術師たちが食いついた話題は、かつてのキールの仲間であったアルドについてだろうか。
アルドの事を知っている者が数名やはりいたらしく、当時の姿と今とはかなり異なっている、と聞かされて半信半疑のようだった。
少し留守にしていた間でも、こちらに残った魔術師たちはコツコツとダンジョン探索をしていたらしい。流石に全員が拠点をあけると問題があるので、いくつかのグループに分かれて。
中にはまだ行っていないがとうとう上級者向けダンジョンに行けるようになった、という者まで現れた。
罠を発見できる眼鏡をもういくつか作っておくべきだろうか、とステラが呟けば、せめてもうちょっとあの眼鏡のデザインどうにかなりませんかと懇願された。
それに対してステラが返した言葉は前向きに善処するわ、である。
――さて、そうして数日、戻って来てのんびりと過ごしていたわけだが、その日は唐突にやってきた。
「やぁやぁ皆、元気にしていたかい!?」
なんて言いながらルクスが帰って来たのだ。
隣には泥なのか何なのかよくわからないが薄汚れた状態のクロムもいた。その表情は確実に疲れているのがわかるほどに憔悴している。
あ、これはさぞルクスに無茶振りされたな、とステラは理解したものの拠点にいる魔術師たちにそこまでわかるはずもない。一体何事かと驚く魔術師たちを手で制して、ルクスはまずステラたちと情報のすり合わせをしたいと言い出した。
そうなれば、行く先はわかりきっている。
各自の部屋から行けるルクスの作った魔王城に似せた一室だ。
とりあえずキールに断りの言葉を告げてからステラたちは各自に割り当てられた個室へと移動する。そうしてそこからルクスの作った異空間へと移動したわけだが――
そこには既に先客がいた。
部屋の中央。普段はそこでお茶を飲んだりしていたテーブルがあるが、その隣に彼はいた。
猿轡を噛まされ縄でぐるぐる巻きに縛られているため彼が自力でここにやってきたわけではないというのは明白ではあるものの、じゃあなんでいるんだという疑問は残る。
「あ、先にこいつだけここに転送させておいたんだよね」
とはいえ犯人はわかっているのでステラがルクスを見れば、ルクスもあっさりと白状した。
猿轡のせいでマトモな言葉は喋れずに「うー」とか「ふー」とか「ぐぅう」とか呻き声に近い音しか出ない挙句、縄でぐるぐる巻きに縛られていて自力で動くのは無理だろうというくらいの徹底っぷり。
「それで、どちら様なのかしら。この人」
その疑問は当然のものだった。むしろそれを聞かないと話が先に進まないだろうとすら思ったので、ステラはさっさと本題に入るべくその疑問を口にする。
正直ちょっとだけルクスの手の平の上にいるような感覚がして、問いかけるのを一瞬躊躇ったのは仕方のない事だった。
「あぁ、彼がベルナルード。プリエール王国で実権を握ってた人だよ」
「うわぁ、下手したら国際問題になるやつじゃないかそれ……」
「ははは問題ないない」
一瞬で死んだ魚の目のようになったベルナドットにルクスは片手をぶんぶん振りながら答える。
いや、国で実権握ってたって……それ結構な地位にいる人ですよね……?
それをこんな状態で拉致しておいて問題ないと言い切れるルクスも大概である。
ステラはいやでももうこうなっちゃってるわけだしなぁ、と思ってそのベルナルードとやらを観察した。
確かに髪の色と目の色は以前アミーシャが言っていた通りではあるし、人間だった頃のベルナドットの髪の色と似てない事もない。今はもう毛先の色が変わっているので見分けがつかないなんてわけでもないが。
けれども、それだけだった。
別に顔立ちまで似ているかと問われればそうでもないなというのがステラの感想である。
それなりに整った顔立ちではあるけれど、何というかベルナドットとは似ていない。同じ点をあげるなら、それは目が二つであるだとか鼻が一つだとか鼻の穴は二つだとか唇があるだとか、そういう人として当たり前の部分くらいでそれ以外でと言われると正直返答に困る。
ぱっと見ベルナドットはお人好しそうに見えない事もないけれど、ベルナルードはどちらかといえばそういった付け込みやすそうと思われるような雰囲気は一切ない。
雰囲気だとかのイメージで言うならベルナドットと顔立ちは同じだったけれど闇落ちしたベルナドットとか言われてた事もあるクロノの右腕的存在でもあるレェテの方が近いように思う。
「実権握ってた、って言い方からして王族ではない、のよね?」
「そうだね。王族ではないかな。王族はちゃんといたよ。まぁ、彼の事信じ切って色々とお仕事任せてる感じではあったけれど」
その言い方からしてルクスはちゃっかり城に入り込んでいたらしい。
まぁ、そうでなければ城で実権握ってそこで働いてるベルナルードを捕獲したりするのも難しいだろうし、ましてや王族の確認などできるはずも……いや、魔術使えばできるんじゃないかな、とは思うけれどもこの場合どちらでもたいして違いはないだろう。
「どうして彼を捕まえて連れてきちゃったのか、っていうのは当然説明されるでしょうけれど……もしかしてクロムを駆り出したのって、それ?」
自分で言っててしかしステラはあれ? と首を傾げた。
ルクスは一人貸してほしいといってクロムを連れていった。
けれども確かあの時はベルナドットかクロムのどちらか、という風に言っていたはずだ。
一応お目付け役とかこのチームのリーダーでもあるベルナドットを連れていかれるよりは、クロムの方がいいだろうと思ったからクロムを送り出したわけだけれども。
仮に、ベルナルードを捕獲するためだけに人手が欲しかったとして、ではクロムかベルナドットのどちらか、なんて言い方をするだろうか?
……いや、ルクスなら言うかも。
本来ならそんな言い方はしないだろうと断言できそうなものであっても相手がルクスなのでその可能性が無いと断じるのはあまりにも早計かつ浅慮な気しかしない。
もしかしたら異世界でのベルくんのそっくりさんポジションかもしれないし、とかいうとてもくだらない理由で駆り出さないとも限らない。
これを直接口に出すと、大体周囲の人がイヤそうな顔をするので言葉にする事は滅多にないけれど、ステラは割と早い段階で自分とルクスは考え方が似ている部分がそれなりにあるな、と思っている。
かつて、まだ人間であった頃の、ステラが魔王の生贄と言われていて次期魔王を決める戦いに巻き込まれた時にルクスにも当然巻き込まれた事がある。
ステラを餌にクロノを魔王に仕立て上げようとしていたルクスは、しかしあの時ステラとは交渉決裂していた。とはいえそれもお互いの考え方だとか今後の未来設計だとかそういったあれこれが絡み合った結果であって、その後は何だかんだルクスの思い通りの展開になってしまったわけだけど。
味方に回ったルクスとは、そこそこに話が合うのだ。
何というか、やりたい事があってそれをやるためにはまず何をどうするべきか、誰に話を通すべきか、あとついでに誰を巻き込めばいいか、なんていうのを考えたとして。
ステラとルクスの考え方はかなりの確率で一致していたのだ。
ステラはかつてこうのたまった事がある。
「もし私が男に生まれていたのなら、ルクスみたいになってたかもしれないわね」
ちなみにその発言はどことなく表情を青ざめさせたクロノによってそっと首を横に振られた挙句撤回を求められた。クロノは兄を鬱陶しいと思っているけれど、ステラの事は最愛の存在だと公言している。そんなステラが性別変わったらあの兄になる、とか考えたら流石にちょっとどうかと思ったしそんなもの認めたくもなかったのだろう。
まぁ、もし本当にステラの性別が変わって男になったとしても、ルクスほどクロノに向かって愛情表現をする事もないだろうからルクスそのものになるとは思っていないけれど。
そんな、割と考え方が似通っているなと思えるルクスがベルナルード捕獲の為にベルナドットを面白半分で連れていかないなんてあるはずがない。
そう思ってしまうとどちらか一人貸してほしい、という言葉はあまりおかしなものではなかったように思える。しかし何かが引っかかる。
確かに面白半分でそうする事もあるかもしれないが、それにしてはクロムの焦燥っぷりというか疲労困憊具合というかが凄い。
ルクスに手足のごとく使われたとしても、あのクロムがそこまでぐったりする? ベルナルードという人物一人捕まえるのに?
「いや、殺して死体持ってくるのと生け捕りにするのとでは難易度が段チ……」
「おい物騒な思考口から駄々洩れてるぞ」
「あらやだごめんあそばせ」
ベルナドットに突っ込まれて即座に心のこもっていない謝罪の言葉が出る。
そんなやりとりに、ルクスはまるで微笑ましい物を見るような眼差しを向けた。
「あぁ、二人のそんなやりとり見てると帰って来たなって思えるよ。残念ながら彼を捕獲するために人を借りたわけじゃない」
実家のような安心感……とか言い出しかねないルクスではあったが、彼一人くらいなら私一人で余裕で確保できるからね、と言い切った。でしょうね、とステラはすぐさま返す。
何かが引っかかる、と思ったのはまさにその部分だ。
その引っかかりはルクスが今あっさりと人を借りたのはそういう事ではないとのたまったので、じゃあさっさと説明して頂戴、とばかりに話の先を促す。
どちらにしてもこの後、キールには話をしなければならないのだ。
ルクスが別行動をして、その上で何をしでかしていたのか、というのは。
まぁ、流石にキールもここにベルナルードがいるとは思っていないだろうけれども。
(彼の存在どうするつもりなのかしら……まぁ、それも含めてこれから話すんでしょうけど)
プリエール王国に滞在していた期間はそう長いものではない。
けれども、ルクスはその期間ほぼ単独行動だったわけで。
ステラたちのようにこっちの大陸のダンジョンってどんな感じなのかしらねー、なんてほんのり観光気分も混じった気楽なものではなかっただろう、とは思う。
思うのだけれど、相手がルクスなので物見遊山くらいの気持ちでしでかした可能性は否定できなかった。




