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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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86/232

間に合ってます



 途中の階層主がちょっと身体の大きなゾンビで、ついでに倒すまでは配下らしきゾンビが延々湧き続けていたわけだが。

 最下層のボスも似たようなものらしい。

 はー、成程ね、そりゃギルド職員もお勧めするわ。

 悪臭とかそういうの気にしなければ出てくる敵全部ゾンビで、対処法変わらないし。

 数が多いとはいえ、それをどうにかできる実力がある探索者からすれば魔物コインザックザクだし。

 アイテムとかそういうのはあまり期待できないけれど、純粋にお金稼ごうと思えばここは確かに穴場というか、お勧めされるのも理解はできる。


 強さも他のダンジョンのゾンビと大差ないし、階層主と最下層のボスに関してはちょっと強いかもしれないが、それにしたって他の上級者向けダンジョンの階層主とかボスに比べれば……と思ってしまう。


 そもそも普通に出てくるのも階層主もボスも全部同じ対処法でどうにかなるというのはある意味で楽ではある。他のダンジョンであれば出てくる魔物にも色々な種類があったり、階層主やボスに至っては戦う前に事前に準備が必要な相手も存在する。


 ゲームで例えると、通常の敵は炎属性の攻撃が弱点の奴ばかりだからそういう装備で突入するけど、ボスだけは雷属性が弱点なので事前に装備を変更しないといけない、みたいな感じか。

 装備変更とかそもそもこの世界の探索者そんなにしないけど、それでも投擲武器だとかを使う場合すぐさま取り出せるように、だとか、ちょっとした下準備がないわけではない。


 けれどもここのダンジョンは出てくる敵全部同じ対処法で問題なし。数が多いのでそこに関して気を付けるべきではあるものの、それ以外に気を付けるべき点というのはあまりない。



 アルドを引き連れて先へ進んで、そう時間のかからないうちに最下層、ボスが待ち構えている扉の前までやってきた。

 途中のゾンビはベルナドットが地図を見ながらナビゲートし、ステラがウォーターガンで撃破。驚くほどにサクサクと退治して進んでいった。

 それこそ、今までの苦労なんだったの? と思う者もいるだろうくらいあっさりと。


「とりあえずボス戦ね」

 扉の前で一度立ち止まり、一同の様子を見る。


 ダンジョンの中、という事もあってボスとこれから戦う前に一応ポーション飲んでおくわ、とかいう事をする者も中にはいるわけだが、ステラたちに至っては無傷でやってきたのでその必要もなさそうだ。

 アルドも見たところ怪我をしている様子はない。とはいえ、ポーションくらいは持ってるだろうから、仮に怪我をしていても放置していただろう。

 ゾンビに取り囲まれて仲間を失って、危うく死ぬところだったアルドだけが若干疲れているようではあったが、まぁこの程度の疲労なら許容範囲内だろう。それ以前に最初からステラは戦力に数えていない。ここに来るまでのゾンビは全部ウォーターガンで一掃したために、アルドが剣を手に活躍する場面は一切なかった。


「じゃ、いつまでもここで突っ立ってまたゾンビ出てくるのも面倒だし、サクッと片付けるわよ」

 そう言えばベルナドットが扉を開けた。ステラはウォーターガンを構えたまま中に入る。



 ボスが待ち構えているフロアは、何とも静かなものだった。

 何もいないのではないか? と思えるくらいに静かで、ステラたちが中に入って進む時の靴音くらいしかしていない。

 全員が入って、少し進んだあたりで扉が勝手に音をたてて閉じた。


 その音が合図だったのか、途端室内に白い霧が出てくる。

 完全に視界を覆いつくされたわけではないが、薄っすら白くなったな、と思える程度のそれ。

 そこから更に数秒にも満たないだろううちに、黒い影が出現した。


「はいバキュンバキューン」

 とてもやる気のない声でステラがウォーターガンから聖水を発射する。

 聖水がかかったあたりから溶けるように消えていく影。

 霧の中から更にいくつかの影が出てくるが、それらも大体ステラが見つけ次第聖水で浄化していく。とはいえ、霧によって若干視界が悪くなったからか、ステラだけで対処は難しかったらしい。


「仕方ないか……」

 そうぼやいて、ベルナドットも今まで散々休んだわけだしな、なんて言いつつ矢を放つ。


 影がハッキリとその姿を見せる前に倒されていく。


「セイントアロー」

「ファイアーボール」


 キールとモリオンが背後から出現した黒い影めがけて術を放った。



 本来なら、この影が徐々に形作ってゾンビになって探索者たちに襲い掛かるのだが、影の時点でサクサク倒されていくせいで、ゾンビの姿を見られる前に消えていく。

 いくつかの配下だっただろうゾンビを倒したあたりで、一際大きな影が出てきた。これがこのダンジョン最下層を守るボスであるのは言うまでもない。


 本来ならば。


 大量に湧き出るゾンビに囲まれないよう立ち回りそれらを倒しながらもボスが出た時点で更に警戒しつつボスを倒さなければならない。ボスが倒れるまでは延々と配下が湧き続けるからだ。

 けれども出た端から消滅するゾンビ。周囲を取り囲まれないように警戒するはずの探索者たちは、しかし今回全くそういう部分に警戒する必要もなく出てきたボスと戦う事になるわけだが。


 周囲に警戒しなくてよい、というのであればそれはもうこのダンジョンの最奥を守るボスという存在は――

 正直ちょっと大きな的、というだけの話でしかなかった。


 出てきたばかりでまだ黒い影状態だったボスは、あっさりと倒されて消滅していく。

 本来ならば倒しきった時点で探索者たちもかなりの疲労感に見舞われているだろうはずなのだが、ステラもベルナドットもまだまだ全然余裕ですけど? という態度を崩さないし、キールとモリオンも余力は普通に残っている。


 そしてそんな一同と、何かをする間もないままに消えていくダンジョンのボスを、アルドはただ呆然と眺めていた。


 ボスを倒した後に宝箱が出現したが、その中身はさっさとステラが回収したのでアルドは何を入手したのかまではわからなかった。けれども、ステラたちと一緒にここまでくる間、一度も何も活躍していないアルドが何かを言える立場であるはずもない。

 もっと言ってしまえばボスが待ち構えているこのフロアでアルドは一体たりともゾンビを倒していないのだ。

 その状況で魔物コインを回収するのもどうかと思えたし、ましてや宝箱の中身を聞くのも躊躇われた。

 ただ気になるから、という意味に思われればいいけれど「え? 何もしないくせに分け前寄越せとか言い出す感じ?」とか言われたら流石にキツイ。

 普段ならもっと堂々と自分の意見も押し出せただろうけれど、相手は自分を助けた相手。

 ついでにちょっと普段アルドの周囲にいないタイプの美少女に冷ややかな目を向けられたら流石に心が折れそうな気もした。


 一応アルドにも人並みの心はある。


 アルドを知る人物がいたら「そうか?」と言われそうではあるが、あるにはあるのだ。


 魔物コインの回収も終わり、ステラたちはさっさと隣にある安全地帯――転移装置が置かれているフロアへと向かう。

 もう階層主を倒したのでここに少しくらい長く居ても問題はないだろうけれど、それでもゾンビが大量に発生するような空間だ。そう長居したいものでもない。アルドもまた置いていかれないように、と少し慌てて後をついていった。



「これでこのダンジョンともおさらばってやつね。いや、ホント、気軽にちょっとした時間つぶしくらいのノリで来たけどひっどい目に遭ったわ」

 鞄の中にウォーターガンをしまい込んだステラの呟きに、ほんとそれな、と返すベルナドット。

 キールとモリオンもようやく帰れると思うと色々なものから解放されたかのように、ぐっと両手を上げて伸びをしていた。

 まさか二人同時にそうするとは思っていなかったのもあって、それを見ていたステラが思わず笑う。


「あ、そういえばステラ様、この回収した魔物コインどうします?」

「あぁそれ? そっちで換金していいわよ。私必要ないわ。ベルくんは?」

「俺も別にいいかな。必要な物は大体どうにでもなるしな」


 言いながら口元につけていたマスクを外す。

 ボスも倒してあとは帰るだけだし、この安全地帯は特に腐臭とかそういうものもしないので、ダンジョンを出る前に外してしまっても問題はなさそうだと判断した結果だった。


 それを見て、アルドもまた顔の下半分を覆うようにしていた布を外す。

 最初にダンジョンに入った直後に感じた嫌なにおいはここではしない。布を覆っていたせいで感じていた息苦しさからも解放される。


 ここにきてようやく、本当にようやくアルドはマトモに息ができた気がしていた。


 そして、そんな解放感だとかがあったからなのだろうか、よりにもよってアルドはステラに声をかけてしまったのである。


「なぁ、これも何かの縁だ。オレをあんたらのチームに入れてはくれないか?」


 ――と。


 このダンジョンから戻ってもアルドは一人。再びダンジョンへ行くのに流石に一人は厳しいし、そうなれば他に仲間が必要になってくる。

 かつて、卑しい豚と呼ばれていた頃と比べて今はそれなりに外見もマシな見た目にはなっているとはいえ、それでもアルドの名を知る者は多い。またしばらく仲間を探すのに時間をとられるくらいなら、彼らの仲間に入れてもらおうと考えてしまったのだ。


 先程、ゾンビを倒すのにキールとモリオンが放った魔術。

 当時は発動するまでに時間がかかっていたようだが、今はそういったこともなかった。

 今ならキールもそこまでの役立たずではないのだろう。

 オレなら、自分ならもっと貢献できる。


 そんな風に考えているのもあった。

 役に立てる、見た所向こうは遠距離ばかりで近接戦闘できそうなのがいない。

 それなら、剣術に関しては文句なしの実力を発揮できる自分の申し出を断らないはずもない――などと、アルドは頭の中で自分に都合の良いように考えてしまっていた。


 だからこそ。


「お断りするわ」


 あっさりと即答されたことに、アルドは一瞬理解が遅れてしまっていた。

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