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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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協力プレイはキャンセルで



 扉の先は闘技場……ではなかったけれど。

 それでも複数名の探索者たちの姿が見えた。

 途中、ここに来るまでにも何名かの探索者を見かけはしたけれど、正直この国の探索者アビリティ至上主義らしいし、そもそもダンジョンに入る前の一悶着のせいで心証もよろしくないしでわざわざ声をかけようとかは思っていなかった。

 あー、何かいるなー、じゃあ別のルートから進むかー、みたいなノリで相手が魔物に苦戦してようとも助けましょうか? とかそういう感じで入ろうとも思わずサクサクと進んできた。


 パルシア王国のダンジョンであれば、一応声をかけたりするつもりはあったけれど、何というか正直今の今までプリエール王国で遭遇した探索者にあまりいい印象がない。

 まぁなんだ。各自持ちうるアビリティとかで頑張ってくれ。ノーアビは邪魔にならないよう黙って去るぜ! とかいう気分で通り抜けてきた。

 キールやモリオンが一応助けた方がいいんじゃないですか? とか言い出したら一考の余地はあったけれど、元々彼らもこの国で仲間だった者たちから役立たずの烙印を押され追い出されている。


 全部が全部そういう人、というわけでもないだろうけれど、助けた奴がいけ好かない奴だった場合イライラが一瞬で成長して殺意の波動に目覚めないとも限らない。

 精神衛生上の理由につき、向こうからとても丁寧な対応で助けを求められない限り手を出す事はしなくていいね、という意見で一致したのは言うまでもない。


 何だろうここ、ととりあえず足を進めて中に入る。


 見渡せば、いくつかの棚が並んでいる。

 大きな棚はガラスの戸がついていて、それを引かなければ中の物は取れないようになっている。

 食器棚とかそういうやつに似ているな、と思いながらも違うのだというのはすぐに理解した。


「何ここ」

「おいおい随分軽装だな。そんな装備で大丈夫か?」


 思わず呟いたステラに声をかけてきたのは軽薄そうな探索者であった。

 うわー、何か酒場で女侍らせてそーう、とか思うような印象ではあるが、どうも彼の周囲にいる仲間を見る限りそれは単なる印象でしかない。

 寡黙そうな重戦士、糸目でにこにこしているものの何考えてるのかさっぱりわからない魔術師らしき青年、勝気そうな顔立ちの弓を携えた少女。

 どうやら軽薄そうな探索者の仲間であるらしい。

 うーん、なんていうか、ゲームの主人公のライバルみたいなポジションで出てきそうな組み合わせね、とステラは声に出さずにそんな事を思う。軽薄そうな探索者がこれまた剣を背負っているので余計にそう思えた。


「そんな装備っていうけど、ここに来るまで生憎怪我とかしてないから問題ないわ」

「ま、そうみたいだな。ポーションばかすか飲んでここまで来たって感じでもねぇしなぁ……」


 じろじろと見てくるのは正直ちょっといかがなものかしら、と思ったが、まぁその程度なら失礼だなお前、みたいなノリで攻撃する必要もない。いきなりベタベタ身体に触ってくるようなら痴漢! とか叫んで目潰しかますか股間のゴールデンボールを蹴飛ばすかのどちらかなのだが。


「むしろポーションばかすか飲んでたのあんたじゃない」


 弓使いらしき少女に言われ、軽薄そうな探索者は「ばっ、おま……っ」と言葉になりきらない何かを叫ぶ。

「全く、治癒魔術も無限に使えるわけじゃないんですよ。気を付けて下さいね」

 とは、糸目の魔術師らしき青年の言葉だ。


「それで、ここ何? 今日初めてここに来たからわかんないのよね」

「初めてでここまで来たのかよ……思った以上にすげぇな」

「お世辞は結構よ。見たとこ何かお店みたいな雰囲気あるけど……」


 先程は一瞬食器棚みたいだな、とも思ったがよくよく見れば学校の、理科室とかにある薬の瓶を並べてあるようなのに似ている。

 並んでいるのが薬瓶だけではないのであくまでも似ているだけではある。


 棚が並んでいるだけかと思いきや、離れた場所にはテーブルや椅子が置かれているし休憩できそうなスペースもあった。開けた場所があるのでそこで寝袋に入って寝ている者もよく見ればいる。


「まぁ、店、と言えば店だな」

「でも、ダンジョンの中なんだから、普通のお店じゃないって事よね」

「そうだな。まぁ、見れば大体わかると思うんだが、棚の中にあるのが商品で、欲しい物があるならまずそこの番号を店主に伝える。で、そこで支払い」

「それだけ聞くと普通のお店ね」

「あぁ、ただ、支払い額がシャレにならない。ポーションだとか町で売ってるような商品でもここ相場の百倍するんだ」

「ひゃっ……!?」


 驚きの声を上げたのはモリオンだった。


「そもそもそんな大金持ち運んでここまでくる人いる?」

「あぁ、だよなそう思うよな? だが、何とも準備のいい事にここ、換金できんだよ、魔物コイン」

「うわぁ、準備万端じゃない」


「さらにそっちに休憩スペースがあるだろ。そこで寝泊り可能。だもんだから、ちょっと頑張ったら買えない事もない、っていう商品はいくつかある。更に食事も一応金出せば出てこないわけでもない。味はともかくといったところだがな」

「食事代もとんでも価格なのかしら?」

「いや、そっちは割と良心的だ。まぁ、大金払ってロクな食事が出なかったらそれはそれで、って話だろ」

「……それもそうね」


「って事は、ここにいる探索者は全員商品購入のためにここに?」


 ベルナドットの問いかけに、しかし男は首を振った。

「いんや、そりゃあ、安い商品は頑張れば払えなくもない。けど、馬鹿らしいだろ。ポーションをここで一つ買うくらいなら素直に街に戻って買えば百個買えるんだぜ?

 安い商品にそうまでして払うやつはまずいない。

 けど、ダンジョンの中でもあまり出てこないようなレアな物もここにはいくつか存在してるんだよな」


「つまり狙いはそれ。でもお高いんでしょう?」

「そうだな。到底手が出せる値段じゃねぇ」

「じゃ、何でいるの?」


 その疑問はもっともではあった。

 買えないのがわかっていていつまでもここにいるとか、時間の無駄ではなかろうか。それとも店主が交渉にある程度応じてくれるとかそういうのがあるのか。

 いや、普通の店ならともかく、ここはダンジョンの中だ。

 ふと思い立ってステラは店主がいるだろう場所を探して周囲を見回す。



「……あれが店主?」

「そうだ。中々イカれてるだろ?」


 男の言う事に素直に頷く。


 ステラが視線を向けてから少し遅れてベルナドットやクロム、キールとモリオンもまた店主とやらを認識したのだろう。

 それぞれが「うわぁ」となんともドン引いた声を出していた。


 店主の外見を一言で表すのであれば。


 死神、といったところだろうか。


 真っ黒なローブはややボロボロだが、その黒さは見ているだけで何だか不吉な気配しかしない。禍々しさすら感じられるローブを纏う本人は、見た目的にどう見ても骸骨だった。

 ぽっかりと開いた眼窩には仄かな光がついている。あれ、目なんだろうなぁ、とわかったものの、あまりにもあまりな典型的すぎる死神像。

 ローブの袖から覗く腕も骨だし、ここが店の中ではなく普通のダンジョンであるなら確実に魔物と認識して既に戦う準備をしているところだ。


「あれと、商談しようとはならないわね……」

「まぁ、値引き交渉とかは応じたって聞いた事ないな」

「じゃあ尚更なんで皆ここにいるのよ……」

「店主の近くにいるあいつ、見えるよな?」

「あいつ?」


 言われるまま店主の近くへ視線を移す。

 店主を見た時点で他の部分まで見ようという気がなかったが、改めて見ると店主のすぐ近く、足下に寝そべるようにして巨大な獣がいるのが見えた。


「店の用心棒兼ペットだ」

「ペット用心棒にしてんじゃないわよ」

 番犬とかならまだしも用心棒って言われるとそれはそれでどうなんだろうという気しかしない。


 巨大、といっても普通の犬の何倍の大きさですか? みたいな感じだ。

 首が三つついていなければ、わー、おっきなわんちゃん! で済んだだろう。


「あれと戦って勝てれば商品一つ本来の値段、つまり百倍も吹っかけられない価格で売ってくれるって話だ」

「買ったら一つタダでもってけ、ではないのね。でも、百倍の値段が一倍の値段であればまぁ、手が出せる気はしてくるわね……」


 値引き交渉に応じる気はないが、アレに勝てばガッツリ値引いた状態で売ってくれるという事か。

 つまり、ここにいる連中はそれを狙っているのだろう。

 お高い商品であっても百倍でなければどうにかなる、気がしないでもない。

 とはいえ、勝てなければ意味がないようだが。


「勝てるの?」

「あー、まぁ、難しいところだな。とはいえ、こっちが負けても死ぬ事はない。有難い事にな。ただ、負けたら向こうにある転移装置で強制的にダンジョンの外に送り出されるから、またチャレンジするにはここまで来ないといけないわけだ」


「なんでここだけ殺さないで親切に送り出してるのかしら……」


 ステラの脳裏にそれなんて不思議のダンジョン? という言葉が浮かんだがそれも仕方のない事だろう。


 他の場所では魔物にやられれば死ぬし、死んだら死体はそのままにしておけばダンジョンに取り込まれるしで生きて帰れないのがデフォ、みたいなのにここはそうではない、となれば何でよ、と思うのも無理はない。


「さぁなぁ、そこまでは知らないけど。で、普通に戦っても勝てないのが大半だから、ある程度数を集めて一斉にやろうって話になっててな。どうする? あんたらは乗るかい?」


 あっ、別に一つのチームだけで挑まなきゃならないとかそういうルールでもないのね、と思ったがそれも恐らくは向こうがほぼ勝ちを得られると踏んでいるからだろう。

 必ず向こうが負けるような状況であれば、そんなルールになるはずもない。


 ステラは一通り商品棚を見て、キールを見た。

 ここに彼が探している世界樹の雫は存在していない。

 あったらまぁ、チャレンジしようとキールも言ったかもしれないがそもそも定価だとしても世界樹の雫っておいくらするんだろうな? とも思う。

 まぁ少なくとも今のキールとモリオンの財布の中身を合わせた程度では購入できないだろう。


「生憎だけど、今の私たちに必要な物はなさそうだから、やめておくわ」

「そうかい」


 特に引き留められる事もなく、そのままステラたちは何事もなかったかのように扉から出る。


 ダンジョンの外に送り返される、という事はとりあえずそこの転移装置を使って帰る事も可能ではあるのだろうけれど、別に今帰る必要もない。素直に隣の階層主がいる部屋へと向かった。



「……もしかしてこの手の国にある最大級のダンジョンって何かしらこういうのがある、って感じなのかしら?」


 パルシア王国のダンジョンには闘技場。

 プリエール王国のダンジョンには死神らしき者が経営している店。


 となれば他の国のダンジョンにもこういうものがあってもおかしくはないが……


「まぁ、わざわざ確かめよう、ってならないわよね」


 多分あっても何らかの形でこちらの力を試されるとかそういうやつなんだろうな、と雑に納得した。

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