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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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闘技場はないけれど



「よし、それじゃちょっと余計な時間くっちゃったけど、行きましょうか」


 露店を開いていたはずのそこは、既に周囲に誰もいない。

 いや、いるにはいるけれど遠巻きにこちらの様子を窺っている状態だ。

 いるのは短剣を盗み、危うく自分の命までもがなくなるところだったと悟ってへたり込んだ男が一人。


 けれどもステラはもう既にそんな男に目も向けず、ダンジョンへ行こうとある意味で場違いな明るい声で言ってのけた。



「えぇと……いいのか?」


 クロムがどこか戸惑ったように小声で問いかける。

「何が? あぁ、アレ? 別にいいわよ。だってもう、あんなんじゃ探索者やってけないんじゃない? 一体どんなご立派なアビリティがあるか知らないけど、人の短剣盗むようなら獲物もそういうやつでしょ? 利き腕使えなくても関係ないアビリティでダンジョン探索問題なくいける、っていうならそれはそれで勝手にどうぞって話だし。

 もしそうじゃなかったら、彼の仲間はどうするのかしら? 片腕なくしたお荷物連れてダンジョンに? そこまでする価値が彼にあるかしらね。それこそ、そこらで見かける仲間内の揉め事みたいになって、捨てられる可能性のが高いでしょ。

 なくした腕を元に戻せる秘薬狙いでダンジョンにトライするのもありだと思うけど……見つけるよりも先に命落とすのが先、って気もするわね。

 とりあえず、彼がこの先生きようと死のうとどうでもいいのよ。私に迷惑さえかけなければ」


 小声で問いかけたクロムではあったが、ステラは普通の声量で返答する。


 クロムの実際の質問の意図は少しずれていたが、まぁ概ねステラの言葉で察する。

 あぁ、放置でいいんだな、と。


 クロムとしてはこのまま生かしておくのか? という意味ではあったが、確かに腕一本失って今まで通りにいけるかとなればそういうわけにもいかないだろうし、なら、それはそれでいいのだろう。そういう事にしておく。


 別にステラとて自分に迷惑をかけてくる相手の全てを酷い目に遭わせようというつもりはないのだ。

 ある程度筋が通っていて、礼儀とか弁えてるならいきなり身体の一部を欠損させるような真似だってしない。


 今回の件は、ステラたちの見た目からそこまで強そうな探索者に見えなかったというのもあるのだろうとは思っている。クロムとベルナドットはまぁ、それなりに見えるだろうけれどステラとキール、それからモリオンに関しては強そうに見えないのは重々承知の上だ。

 その中で見た目で明らかに高価そうな短剣を持ってるステラが今回はたまたま狙われたに過ぎない。

 正直キールが身に着けてるクソダサ眼鏡とか、指につけてるリングとかもそれなりに価値はあるけれど、流石にクソダサ眼鏡の価値を見出せる目利きはいなかったらしい。ついでに指に嵌めてるリングを本人に気付かれないように両方抜き取るなんて真似ができるほどの盗賊的スキルの持ち主も。


 クロムが何を言ったかまでは周囲も聞こえなかったようではあるが、ステラの返事はしっかり聞こえたためクロムが何を言ったかなんてのは割とどうでもよくなってしまった。

 むしろ重要なのはステラの返答だ。

 短剣を盗み、片腕を文字通り失ってしまった男からすれば不運以外のなにものでもないが、最後の言葉だけはきっちりと理解するしかない。


 つまり、いらん喧嘩売って来るなら全力で買うぞ、という意味だ。


 見た目だけなら虫も殺さないような儚さすらある少女のくせに中々に苛烈だな……なんて一連の出来事を見ていた探索者たちは思う他ない。


 実際は少女なんていう年齢ですらないのだが、そんな事実を知る者は少なくともこの場にいるこの世界の住人は知る由もなかった。むしろ知っていたらまず間違いなく絡みに行くなんて命知らずな真似、するはずがなかったのだが。


 何が恐ろしいって、今回の一件、少女のアビリティとかそういうものが一切関与していない事だ。

 彼女が持っていた短剣は一目で良い物だとわかる物だった。だからこそ、目を付けた者もいたわけだが……


 パルシア王国の探索者は大体知っている。あの短剣が発見された経緯を。

 けれども国が異なるここで幸運なルーキーと呼ばれていたステラたちの事を知る者はほとんどいないと言ってもいい。

 パルシア王国のダンジョンで幸運なルーキーと遭遇した者たちは基本的に危害を加えようだとか、目ぼしいアイテム強奪しようなんて考えたりはしていなかったから何も問題がなかったけれど。

 幸運なルーキーなんて呼ばれているとも知らない彼らは、ロクな防具もないくせに何かいい武器だけ手にして調子に乗っている雑魚探索者、とでも思ったのだろう。

 見た目だけで、自分たちより格下だと判断してしまった。

 彼女らのアビリティが何か、とかそういう事を調べるよりも前に。


 まぁ、実際ステラたちはノーアビリティなのでそれを事前に知っていたらなおの事格下認定は強固なものになっていただろうけれど……


 今回の一件、アビリティが絡んだりしていないというのに一人の男の腕が骨も残さず燃えたという事になる。

 彼女らがノーアビリティだと知らない周囲で見ていた者たちはそこでふと思った。


 もし、あの軽装っぷりがアビリティによるものだとしたら……と。


 もう一度言うがステラたちに関してはノーアビリティである。だからこそ、そんな考えは単なる妄想にすぎない。けれども事実を知る者はこの場にいないし、知っていたとしても言うような親切な誰かがいるわけでもない。


 防具に関してはアビリティで必要がないからこそ、ああいった強力な武器だけを持っている、という仮説がもし合っているのだとしたら。

 そんな考えにいきついた者たちは、改めて短剣を盗んだ男に目を向けた。


 手を出しちゃいけない相手にやらかした末路、とでも言うべきか。どちらにしろ支払った代償は大きなものであった。



「――中は思ってたよりもなんていうか……想定の範囲内って感じね」


 一連の事件を見ていた探索者たちの事など既にすっかり遠い過去、くらいの認識でダンジョンにやってきたステラは、中に入って少し進んだあたりでつまらなさそうに呟いた。

 パルシア王国のダンジョンは人工的に作られた感漂うステージであったが、こちらはそれとは違い、壁も床も天井も全体的に岩でできたものだった。

 石畳、というものではない。

 長い年月をかけてできた洞窟のようなもので、足下はゴツゴツした感触があるし、壁も凸凹している。天井からは鍾乳石っぽいものすらある。いや、鍾乳石の方がまだ可愛げがあるかもしれない。石でできたつらら、と言った方がいいだろうか。


「うっかり魔物の突撃食らって吹っ飛んだら追加ダメージ食らいそうな場所だな」


 ステラの感想もそうだが、ベルナドットの反応もどうかと思う。


 大陸一番の規模のダンジョンとされている所に入って、よりにもよってそれ、ってのもどうなんだろう……とキールとモリオンは思っている。

 ちなみに完全に自然にできた洞窟です、みたいな見た目のくせに罠はしっかりあった。キールのかけている眼鏡はしっかり仕事をしていたし、罠の数も一つや二つなんてものではない。

 その事をモリオンに伝え、モリオンはある意味罠の場所を視覚で理解しているキールが命綱とばかりにしっかりと手を繋いだ。

 武器を持って接近戦をするわけでもないので、片手が塞がったとしてもどうにかなる。魔術においては両手が使えなければだめだとか、そういったものは儀式的なものならともかく実戦においてはそこまで決まりはないのでお互いがお互いに精神の安定をはかろうとするかのようにぎゅっと手を握りしめた。


「罠とか、あの辺の石のつららみたいなのとか落ちてきそうよね」

「あー、通り過ぎる直前で落下とか、移動中ならともかく魔物と遭遇した時だと下手に回避できるか微妙なとこだな」


「そうですね、あれ罠です」


 罠がわかる眼鏡をしていないくせに的確に罠の位置を当ててくるステラとベルナドットに、キールはそうだよ言う通り罠だよとばかりに頷いた。

 ちなみに天井からつららのようになっている石はうっかり落ちてきて命中したらシャレにならない結果にしかなりそうにない。直撃したら確実に死んでるとしか思えないものばかりだ。一つ二つならまだ回避もできるだろうけれど、複数そこに罠がありますよ、とキールの眼鏡がイヤでも知らせているのでキールとしては正直真下はもとよりその付近に近寄りたくもなかった。

 とはいえ、先に進むにはそこを通るしかないらしい。


「罠がわかってて、尚且つどうせあれ落ちてくるってのもわかってるなら、事前に落としちゃえばいいんじゃないの?」

「……落ちると思います?」

「魔術でドカンと、今のキールやモリオンならできるんじゃない?」


 いくつかのダンジョンを既にこの国でも攻略している。その時に得た素材などで多少武器を強化しているし、魔術の威力を高める効果がやや強化されたとはいえ、なんというかできる気は正直しなかった。


 罠、とわかっているからいいけれど、そうじゃなければ悪戯にダンジョンに傷をつける行為とみなされて何らかの報復のような展開がくるのではないかという気もする。

「もしくは罠が発動するだろう位置に衝撃系の術着弾、っていう方法もあるよな」

 ベルナドットの言葉に、どっちかって言うとそっちの方ができそうだなと思ったのでキールはモリオンと繋いでいない方の手を伸ばし、狙いを定める。


「ストーンバレット」

 魔力で具現化された石の礫が罠が発動する地点に炸裂する。同時に、ゴォン、と重々しい音がして天井から垂れ下がっていた先のとがった石が次々に落下してくる。

 ゴゴゴゴォン……という音とともに次々に床に石が突き刺さっていく。もうもうと立ち上がる土煙が視界を塞いで、しかしすぐに晴れる。


「あ、完全に道が塞がったりはしないのね」


 いくつかは突き刺さっているが、いくつかは落下時点で崩壊したらしく残骸と呼べるような大きな破片が転がっているものの。ステラの言う通り道は塞がったわけでもない。どうにか先に進む事は可能のようだ。

 歩きにくくはなったものの、通れないわけでもない。下手に転がっている岩の破片めいたものを踏んでバランスを崩さないように気を付けながら先へ進む。


 罠の位置がそれなりに厄介だなと思える所にあるので、油断をしていれば恐らくどこかのフロアで怪我をしていたことだろう。けれどもステラたちは特に罠に困る事もなく進んでいく。

 魔物が出た時はクロムが率先して前に立った。ルクスがいない今、援護とかそういうものはあまり期待できる状態でもない。キールとモリオンがいるけれど、ルクスの援護と同じように考えていれば明らかに痛い目に遭うのはこちらだ。

 援護が必要になる前にクロムはさっさと前へ出て、魔物の方へと突っ込んでいく。ついでにいくつかの罠を発動させて回避。罠を回避しそこねたどんくさい魔物を巻き込んで、引っかからなかった魔物は早々に拳で沈めた。

 クロムを狙わずステラたちの方へ向かう魔物に関してはベルナドットが矢で射って、合間合間にキールとモリオンが魔術を発動させる。

 単体で出た時はクロムだけで間に合うが、ある程度の数が揃った状態で出くわした魔物に関してもなんだかんだ連携がとれていた。

 キールとモリオンはここまで自分たちが無傷であるという事実を未だに理解しきれていなかった。



 王都パルシアのダンジョンなら闘技場がある階層までやってきたステラたちだが、流石にこちらのダンジョンにそういったものはなかった。

 あ、やっぱどこのダンジョンにもああいう施設があるとかではないのね、とどこか安心したように呟いて、この階層では特に何事もないまま先へ進んでいく。


 なんでダンジョンの中に闘技場なんてものあったのかしら……アミーシャにそこら辺聞いとけばよかったかしら……いえ、管理していた元の存在に聞くべき? とか今更すぎる事を思い浮かべつつも進んでいって、四十階層へ到達した。


「……何か、あるわね」

「そうだな」

「闘技場かしら」

「いや、流石に違うだろ」


 階層主が待ち構えているだろう扉が見えているが、ステラたちの目を奪ったのはその隣にある別の意匠の扉であった。


「……キール、モリオン、貴方達、何か知ってる?」


 元々はこの国にいた事のある人間に聞くのが確実だろうと思って問いかけてみたが、キールもモリオンもそっと首を振った。勿論横にだ。

 そもそも彼らがこの国にいた時に行けたダンジョンは中級者向けと呼ばれるところ。それも中級者向けの中でもまだそこまで難しいとは言われないような、中の下、くらいのダンジョンである。

 この国で一番難易度のあるダンジョンに関しての情報が全く入ってこないわけではなかったけれど、それでも積極的に調べたりするにはまだ早いと理解していたし、何よりこのダンジョンに通い詰める実力の持ち主が知り合いにいたわけでもない。

 噂で聞くにしても、そんな噂が流れてくるような所にあまり足を踏み入れなかったのもあって、全くといっていいほど知らなかった。


 探索者ギルドでもそういった話は聞いていない。

 まぁ、ステラたちの見た目からしてダンジョンに挑んでもここまでくるのはまだ先だろうと思われたか、既に事前にどっかで情報知ってるだろうと思われてたか、はたまた言う必要のないものとみなされていたか……いや、流石にこういった話を言わなくてもわかるでしょ、扱いもどうかと思うが。


「もしかして暗黙の了解ってやつなのかしら……」


 闘技場に関してもギルドで教えてもらったわけではない。

 中に足を踏み入れてそこにいた探索者に教えてもらった。事前に話だけ聞いて、それを目当てにここまでくるのを目指す者もいるかもしれないが、基本的には直接己の目で確かめろとかそういうやつなのかもしれない。


 どちらにしても中を確認くらいはしておくべきだろう、と意見は一致する。

 入って早々中から魔物の群れが、という展開もないわけじゃないなと思ったので念の為ステラが先頭に立った。もし何かあっても大体はクロノが作った防衛魔術仕込みのアイテムがあるので身の安全は確保される。


「じゃ、開けるわね」


 そうして開けた扉の先に――


 なんというか、複数名の探索者たちがいたのが見えた。

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