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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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スラムとかいっぱいある、とはキールの談



 新しい国に来て早速一番難易度のあるダンジョンに行くか、と言われればステラたちはそうしなかった。

 一名別行動のために離脱しているのもあるし、こっちと向こうとでダンジョンに差があるのか、と気になった部分もある。

 少なくともパルシア王国ではアビリティ至上主義、みたいな空気はあまりなかったが、キールの話ではこちらの国はアビリティ至上主義である探索者が多いと聞いている。

 だからこそ、何か違いがあるのでは? そう思ったのも確かだ。


 まずは以前キールが足を運んだ事もある中級者向けのダンジョンへ行く事にした。

 かつて仲間と共に行き、そしてそのダンジョンを最後に追放されたというキールからしたらある意味ロクな思い出もないダンジョンだが、いざ行ってみれば思った以上にあっさりと攻略できた。


 上級者向けのダンジョンと違って罠があるわけでもない。

 魔物だってパルシア王国のダンジョンと比べて強さが違うというわけでも……いや、数は多いな、と思ったくらいだろうか。けれどもまぁ対処できない程のものでもない。


 ゲームで言うなら一歩歩くたびにエンカウント、みたいな勢いで頻繁に魔物と遭遇するダンジョンもあったけれど、それさえわかっていればどうにかできる相手はどうとでもできるだろう。


「なんていうのかしらね、こっちの国、見た限り向こうとあまり変わらないように思えるけど……全体的に余裕とかそういうのないのかしら?」


 一見すればパルシア王国と大差ない。けれどもどうにも道行く探索者たちはピリピリとしている。


 例えばこれが、これから戦争がはじまります、みたいな状況でそれ故に……というのであればわからなくもないのだが、探索者以外の住人はそうでもない。


「えぇと……こちらの国がアビリティ至上主義が多いと言いましたよね。それ、探索者以外にもある程度適用されてるんですよ……」

「あぁ、そういう……」


 言われて何となく理解できた。


 住人の様子はそこまでピリピリしているわけでもないが、それでも時折浮かない表情の者が見受けられた。

 恐らくはアビリティのせいで自分のやりたい事ができず、望まぬ仕事をしているだとかそういったやつなのではないだろうか。


 適材適所、という言葉があるにしろ、本人にやる気がないのに無理に続けさせるのもどうだろうか、と思えるがこの国はその部分を無視しているようね、と理解するまでにそう時間はかからなかった。

 それがはっきりとわかったのは、ダンジョン帰りにその町の中を見て回った時のとある少年少女の会話を聞いてからだ。


 どうやら少年は針子としてのアビリティがずば抜けてあるらしく、結果望まぬ職業として服を作ったりしているらしい。そして少女はそんな少年を羨ましいと言っていた。少女のアビリティでは針子としての仕事には就けなかったらしい。

 しかし少年も別に服を作るのが好きというわけでもなく、どちらかといえば少女のアビリティを羨んでいた。


 似たような話は他の町や村でもちらほら耳にしたが、なんというか……表向きはそれなりに上手くやってるように、というかまぁそれなりに上手く回っているようだけど、そのうち何かの切欠があったら一気に駄目な方に傾くやつよねこれ……という感想しかステラは抱けなかった。


 仕事のためと割り切って自分の得意分野というかアビリティを活かせればまだしも、夢を追っているタイプの人間からすれば苦行でしかない。しかも若いうちにアビリティがどういうものか判明してしまえばその時点でそのアビリティを活かせる職業が決まってしまうのだ。


 まだ未来に漠然とした期待とか希望を持つ年頃の者からすればたまったものではないだろう。


 自分の目指す将来とそのアビリティが一致していればいいが、ステラが見た限りそういった者は本当に極僅か、一握りいればいい方、といったところか。

 じゃあそんな国出て他の国で好きに生きればいいじゃない、と他人事なら言うだろうけれど、恐らくそれも簡単にはいかないのだろう。

 そもそも探索者であればある程度町や村を好きに移動できるけれど、それでも他の国に行くにはギルドに申請を出さなければならない。その理由がある程度理解できるものであればまだしも、そうでなければその申請を取り消される事もあるかもしれないのだ。


 探索者ですらそうなのだから、探索者以外の者はもっと面倒な手続きが必要になりそうだし、仮に他の国に行けたとしても、そこで自分が望むような暮らしができるとは限らない。今がどん底だと思っていたら更に底があった、なんていう結果が待ち受けているかもしれないし、そう考えると気軽に出ていくだなんて言えないのだろう。

 仮に他国に飛び出しても結局上手くいかず、あれほど嫌っていたアビリティに頼るしかない、なんて事もあるわけだ。


(アビリティの存在がなかったらそういう事にもならないのかもしれないけれど……まぁ、未来のお先真っ暗加減は大差ない感じかしらねぇ……)


 ある程度見て回って思った事といえば、そんな完全に他人事のようなものとあとは――


 長期滞在するつもりで家を借りなくて良かったなといったものだった。


 気候風土は似ているけれど、まだパルシア王国の方がマシに思える。

 向こうでも多少なりともアビリティによるあれやこれやはあったようだし、あちらでも魔術師の立場は低かったりするけれど、堂々と公衆の面前でつるし上げるような事はしていなかった。


「この差って一体何なのかしらね」

「えっ? 何ですかいきなり」

 おもむろに呟いたからか、キールは一瞬ステラの話を聞き逃しただろうかと若干慌てた。

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと色々考えててね」


 実際は考えていた事の疑問がつい口から出ただけに過ぎないのだが、まぁ折角だし、と思ってキールに聞けば、キールは思わずモリオンへ視線を向けて、モリオンもまた「あー」と残念なものを見るような目をしていた。


「恐らく、ですけどステラ様。

 それ、きっとこの国の王族が関わってるんだと思うんですよ」


 流石に大きな声で話せないと思ったらしいモリオンが声を潜める。


 パルシア王国の王族は人並みに欲は持ち合わせているようだけど、まだわきまえていると言える。

 欲しい物があったとして、流石にそれが国庫を傾かせるレベルであれば手は出さない程度に自重できる。税金だとかもそれなりに良心的な方だ。


 けれどもこちらの国、プリエール王国はパルシアと違い必要であると判断した物に関しては大金をはたいてでも入手するらしい。その必要な物が国にとって、というよりは王族の見栄の方が強いようではあるが。

 とはいえ、他国に対しての国力を示したりだとか、そういった意味での象徴になる物もあるらしいので完全にいらない物と切って捨てるわけにもいかないようだ。


 ついでにアビリティでよりよく働いて稼げる者が多いという建前のもと、税金も高めであるのだとか。

 その税金を回収してあれこれ入手していると考えると……


「数字の上ではウィンウィンだけど、内情見たらボロボロじゃないそれ」


 やりたい仕事ならともかく、やりたくもない仕事に就いてそれで一杯稼いで贅沢できるならともかく、税金でがっぽり持っていかれるとなるとやってらんねぇ、と思う者が多くいてもそれはそうだろうなとしか言いようがない。税金だとかで差っ引かれて手取りおいくら? と聞きたくなるが、実際聞いた金額がしょぼすぎたらどういう表情をするべきか困るのでステラは流石にそこまでは踏み込めなかった。


「……というか、税金って私たちどうするのかしら?」

 今更すぎる疑問でもあった。

 パルシア王国にステラたちが召喚されてからそれなりの日数が経過しているが、そういった話は一切出てきていない。この世界の住人じゃないから払いません、とか言ったとして、そうなると人権もないって事でいいですねとか言われそうだし流石に初っ端からお互いに喧嘩腰でいるわけにもいかない。


「あぁ、貴方がたの税金ですけど、既に支払ってますよ」

「え、うそ」

「一体いつ?」

 流石にそれはベルナドットも初耳だったらしい。

「いつ、と言われてもな……ダンジョンから色々持ち帰った時にいくつかこちらに融通してもらった品があるでしょう。それらを売って、ギルド経由で支払ってあります」

「なんと……」


「こっちの国での滞在期間にもよりますけど、向こうに戻るとか他の国に行く前にギルド経由で払えば特に問題なく他国に移動できますから」

「え、じゃあキール達向こうに行く時大変だったんじゃない?」

「それは、まぁ、師がまとめて支払ってくれました。あの頃のぼくたちは手持ちほとんどなかったから」

「聞けば聞くほどお師匠様いい人すぎない? なるほど、色んな恩があればそりゃ助けようってなるわけね」

「はい。正直この国に戻ってくるのは気は進まないけれど、師のためであるならば……」


 そう言われるとステラのなけなしの良心が痛んだ。


 ごめん、治そうと思えばすぐ治せる。

 そんな言葉がうっかりでかかったけれど、どうにかそれを飲み込んだ。


 確かに治せるけれど、アズリアの症状は病気ではなく呪いによるものだ。

 病気ならその場ですぐに治してしまっても問題はないが、呪いはそもそもどこかにかけた相手がいると考えていい。

 もしその相手にアズリアの呪いが解けたと知られた場合、今度は別の呪いをかけられるか、はたまた直接的に殺しにくるとかそういう物騒な方向になる可能性もある。


「税金が割とこの国高いので、長期滞在には向いてないかもしれません。アビリティも使えない、税金も払えない、なんて周囲に知られればそれこそ――」

 キールの言葉は最後まで続かなかった。かわりに、ちらりと視線を向けた先では探索者だろう連中が何やら揉めているのが見える。


 話の内容が全部聞こえるわけではないが、漏れ聞こえる内容からするとダンジョン探索で得た魔物コインだとか、その他アイテムだとかの配分に文句を言ったらしい相手に仲間が逆にふざけるなと罵っているようだ。

 お前のアビリティたいして役に立たないんだからこれで妥当だろう、だとか、この程度しか稼げなかったら生活もできないだろ、だとか、ふざけんな文句があるならもっと活躍してから言えとか、お互いに切実かつ何とも醜い争いを繰り広げている。


 ダンジョンの中では魔物が出るし、当然命がけなのだからある程度それに見合った報酬がないと不満が出るのはわかるが、こいつたいして役に立たないくせに報酬だけは一丁前に欲しがるとかせめて人並みに働いてから言え、なんていう言い分も理解できなくはない。

 必死こいて報酬に見合う働きをしている傍ら、仲間として組んでる相手がちっとも役に立たないとなれば、必死になっている自分が馬鹿みたいに思えるとかそういうのもわからなくもない。魔物が絡まなければ、必死にやらなくてもこんだけ報酬もらえるならもっと手を抜いてだらだらやるわ、とかいう奴が出てもおかしくはないだろう。


 相手がきちんと働いているにも関わらず不当に報酬を減らされた可能性もあり得るし、仲間内の事なので下手に口出しすれば余計にこじれるのは目に見えている。だからこそ、そんな騒ぎを遠巻きに他の者も見ているだけだ。


「なんていうか……居心地あまり良い国とは言えないわね……」


 実の所ああいった揉め事は既にかなり遠目ではあるがいくつか見ている。

 それでも国が国として破綻したりしてないのは、アビリティによる恩恵を受けている者がそれなりにいるからなんだろうな、とは思うが。

 それ以外が大体ああいう感じとか、一部の者以外からすればロクでもない国としか言いようがない。

 それでも出ていかないのは、出て行けない、というのもあるからだろう。


 転移装置を使って他国に行こうにも、税金を支払わなければどうやら他国にも行けないらしいし、そうなると資金を稼ぐしかない。

 正攻法で出るならそうするしかないわけだ。

 それ以外の方法として、転移装置を使わず自力でというのも考えられるが……転移装置での移動に慣れきった状態の者がマトモな地図もなしに外に出て行ける先なんて精々一つか二つ隣の町とか村あたりだろう。

 国内の移動ならまだしも、他国へ行くとなれば最悪途中で野垂れ死にする事だって有り得る。

 探索者ならまだしも、そうじゃない相手ならなおの事途中で行き倒れる可能性は高い。

 だからこそ、不満があっても中々出ていけない者たちが多いんだろうな……とは想像に難くない。


「とんでもないディストピアじゃないか」


 ベルナドットの呟きが大体真実だった。

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