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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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かくして野に放たれる



「なぁ、いいのか?」


 ベルナドットの問いかけに、ステラは一体何を言っているのだろう、とばかりに首を傾げた。

「いいって……何が?」

「いや、ルクスを一人にして本当に大丈夫か?」

「大丈夫よ」


 なんだその事か、とばかりにステラは頷いた。

 あまりの即答っぷりに逆にベルナドットは不安を抱いたようではあるが、何も問題はない。


 事の発端がどこからかと問われれば正直どこからかよくわからないけれど、まぁ、勇者召喚されてこの世界に来てしまったが故、というべきだろうか。

 いや流石にそれは遡りすぎた。この国に来てから、というか、恐らくルクスとしてはこの国に来る前――多分二日か三日くらい前には決めていたはずだ。

 ……そういう風に考えるととても突発的に思えるが、そこまで突発的でもない。


 この国にやってきた理由としては、ずっと同じダンジョンに潜り続けるのも飽きるから、とかいう理由とあとはアズリアが呪われている事に関して調べるためとかいうとてももっともな理由からだ。

 この国で、というかプリエール王国の城、つまり今ステラたちがいる王都から見える立派な城にかつてアズリアは勤めていた。とはいえ、その城からは追い出されてしまったわけだが。


 時を同じくして他に探索者たちから魔術師とか使えないし、という理由で仲間から追放された魔術師たちを集め、アズリアはパルシア王国へと渡ってきた。

 そちらで拠点を得て、しばらくは彼らだけでダンジョン探索をしたりしていたというのはキールからも聞いている。そしてある日、唐突にアズリアは眠りに落ちた。

 治そうにも原因がわからず、だからこそありとあらゆる症状を治す事が可能な万能の秘薬と謳われる世界樹の雫なんてものを求めたわけだが、アズリアの症状はぶっちゃけ呪いであるし、ステラが作る解呪薬で正直治せる程度のものだ。

 そう聞けばとてもしょぼいなと思えるが、こちらの世界の魔術師たちが主に使う魔術は攻撃系のものと治癒に関するもの、その他に錬成魔術だとか、魔物退治か生活にそこそこ関わるようなものといった感じだ。

 ゲームで言うところのバフデバフといった、相手の能力を上昇させるだとか、敵の能力を下げるだとかいったものはほぼないらしい。

 そして呪いも恐らくはそういった方面であまり流通していないのだろう。いや、そんなもん流通されても困るけれども。


 多く知られていない、となるとうっかりそんな呪いにかかったら解呪するにも方法が不明のまま、なんていうのは言うまでもない。

 既によく知られたものであれば対処は可能であっても、未知の何かが原因となればそれをどうにかするにしても、そう簡単にいかないのは当たり前の話だ。


 アズリアの症状が何らかの病気である、とかならまだしも呪いであるとルクスがハッキリと断定しているし、そうなれば呪いをかけた人物か何らかの物があってもおかしくはない。

 呪物がそこら辺、例えばダンジョンにポンポン落ちてる、なんて話であればアズリアのような者は他にもっといてもおかしくはないが、そういった話は今の今まで耳に入ってこなかった。であれば、アズリアに呪いをかけた誰かがいると考える方が普通だろう。



「キールたちには、アズリアの呪いに関して調べるって話でこっちの国に来たわけだろ? でも、実際の目的って確か……何か俺の名前と似た感じの奴探しに来たんだよな?」

「そうね、魔女候補のベルナルードさんね」


 男だろうとは思うけれど、それでも魔女と呼ぶのはどうなんだろうなと思いつつもまぁ、ステラがかつていた転生前の世界でもそういう表現はあったしそこはあまり気にするものでもないだろうと脳内でさらりと受け流す。


「……魔女?」

 しかしベルナドットはそういった返しがくるとは思っていなかったらしい。器用に片眉を跳ね上げてみせる。


「探索者の人たちが話してた魔女って、魔物を引き連れたりする存在でしょ? あの時はあれよあれよといううちにアミーシャがそれに仕立て上げられてたけど、よく考えるとダンジョン管理者を示してるわよね、あれ」


 ステラたちもあの闘技場で魔女について聞いた時は突然の魔女、とかいう気持ちですらいたけれど、よくよく考えてみればどう考えてもダンジョンを管理する能力を与えられたアミーシャはその魔女にほぼ該当する。


 あの魔女の話はかつてのダンジョン管理を任された誰かがやらかした話なのだろうと思えるし、その魔女が最後に同じ力を持つ者は他にもいる、なんて言い残したのはつまりそういう事なんだろうなとも。

 ステラに言われてベルナドットも遅れて理解がやってきたらしく「あぁ……」と何とも言えない声をあげていた。


 アミーシャと同じ立場だろう存在として名が出たベルナルードは、アミーシャ曰く城勤めをしているらしいとも言っていた。城勤めであるならば、城に行けば会える可能性は高い。

 けれども、一探索者が気軽に城に行けるかとなれば……微妙なところだろう。

 それこそ城に招かれるような何かがあるか、城に赴くような何かがない限りは気軽に立ち寄れる場所でもない。王族に知り合いがいるだとかのコネがあるわけでもなし、ステラたちが城へ行くとなればダンジョンで見つけた財宝とかを手土産にして謁見を望むしかない。


 とはいえ、城勤めをしているらしいベルナルードとその時に会えるかとなると、可能性は微妙なところだ。

 城勤めとはいえあまり上の立場でなければそういった謁見の時に見る事はできないかもしれないし、上の立場であったとしても例えば働く部署の違いで謁見しても会えないなんて事もあり得る。


 ダンジョンで何度もお宝を発見してそれを王家に貢ぎにいくにしても、頻繁に足を運べばそれはそれで何だか怪しまれないとも限らない。

 王族からの覚えが良かったとしても、あまり目を付けられたら他の国に行く時に引き留められる可能性も出てくるし、相手が王族となればそれはそれで面倒ごとに発展しかねない。


 アミーシャからベルナルードの話を聞いた時は案外簡単に会えるかもしれないなと考えたが、その後よくよく考えるとそうでもないなとなったので方向性を若干変更した結果が、ルクスの単独行動だった。


「ま、実際単独行動かっていうと微妙なのよね。現在ルクスってばほら、どんぐりにINしたアミーシャとか玉にINしてたけどその後どんぐりに引っ越した奴とか、玉本来の奴とかを所持してるわけだし」

「……魂的に三つくっついてるけど、でもパッと見は単独だろ」

「そうね。ルクスがあの三人から情報引きだしつつ、ついでにあわよくば城に入り込んだりしてベルナルードを探す手はずになったわけよ」

 実際に過去ベルナルードを見た事のあるどんぐり(アミーシャ)を連れていれば本人を目の前にしても気付かないだとかそういった事もないだろう。


「……大丈夫、なのか?」

「ベルくんたら不安に陥りすぎじゃない? 大丈夫よ。万一何かあっても最悪城が吹っ飛んだりする程度だし、ここ私たちの世界じゃないから別にそうなってもあんまり困らないわ。私は」

「いやそういう意味での大丈夫かよ!? 駄目だろそれは」

「いきなり最悪の展開に関して言ったから不安になってるのかもしれないけど、考えてもみてベルくん。

 あのルクスよ? 猫被る事に関しては私以上に上手いルクスよ? そもそも王族がいるようなところに入り込んでも不審がられる可能性はとても低いわ。だってあのルクスよ?」

「う、そう、言われると……」


「思い出してベルくん。以前ルクスがやらかした最低最悪な遊びを。恋人たちにちょっかいかけて仲を引き裂くような真似しておきながら、いざ破局しかけて相手の女性がルクスになびきかけた途端に口先だけで煙に巻いて最終的に元鞘におさめてみせたあの口先の魔術師を」

「そう、言われると……!?」


 あわや破局になるかと思われたものの、最終的になんだか丸く収まっていたあの時を思い出す。

 ベルナドット自身、植物の精となって復活して間もない頃だったがあれは覚えている。

 どう考えても元鞘になりそうにない展開だったのに、元鞘になったあの光景は思い出した今でも解せない。

 いや、だって別れる直前までいってたのに、元鞘になった途端そんな事はなかったとばかりに仲睦まじい状態だったのだ。いや、どう考えたって心のどこかにしこりとか残りそうなものなのに……としか思えない状況だったのにも関わらず。


「一応ルクスにはある程度万が一を考えていくつかのアイテムとか資金渡しておいたから、どうとでもなるわ。というかどうにでもしてくるでしょ」

 使える手足としての部下はいないけれど、単身だからといえ何もできないわけじゃない。


「それに……結局のところ拠点として部屋をとってるわけだし、戻ってくるには戻ってくるのよね。

 気になるならその時に進捗いかが? とか聞けばいいのよ」

「……それもそうだな」


 言われて納得する。

 部屋に入るなり早々にルクスに、

「じゃあしばらく私は単独行動するから」

 なんて言われて色々冷静な判断とかそういうのがすっ飛んでいた。そのままずっと別行動で顔を合わせる事もロクにないものだと思い込んですらいた。


「ま、必ず夜に戻ってくるかとかわからないし、こっちもダンジョンに行くわけだから、場合によってはしばらく会えないのはそうなんだけどね」

「あー……そう言われると、そう、なんだよな……」


 とはいえ、部屋に戻ってくるのであれば、手紙を残すだとかでやり取りは可能だ。

 そう思うとルクスが別行動するからといってもそこまで慌てるようなものでもないのかもしれない、という気がしてくる。


 ベルナドットのそんな様子を見て、ステラは僅かに笑みを浮かべた。どちらかといえば苦笑と言うべきそれ。

 そうして、伸ばしていた腕が掴んでいたものをそっと離す。

「だからね、クロム。

 あなたも落ち着きなさいな」


 ルクスが颯爽と部屋を出ていったあたりから明らかに狼狽えて後を追おうとしていたクロムだったが、上着の裾を掴まれた状態で足止めされていたので身動きが取れなかったものの。

 ステラとベルナドットの会話を聞いているうちに、クロムもどうにか落ち着いたらしい。

「母さん……」

 何とも言えない表情で、振り返る。


「フォル伯父さんからも言われてたと思うんだけどさ。

 報連相しっかりしようぜ!?」

「フォルトゥニーノに関してはむしろそっくりそのままお返しするわって毎度言ってるわよ。

 というか、クロムも咄嗟の事で驚いたのかもしれないけどね?

 単独行動するのって、私でもベルくんでもなくてルクスなのよ?

 あなた本当に心配できるの?」


「…………」


 真顔でそう返されて、クロムは数秒考えこんだ。


 異世界に呼び出されたという状況を鑑みたとしてもだ。


「……うん、ごめん母さん。オレちょっとテンパってたわ」

「でしょうね」


 突発的な状況に冷静さを欠いたのは自覚できた。

 何ていうか、この中で一番一人で放置しても大丈夫な奴は誰だと問われれば間違いなくルクスの名があがるだろうに、どうしてあれほどまでに狼狽えてしまったのだろう。


「ま、今までずっと一緒だったものね。それが急にってなれば気持ちはわからないでもないわ。でももう一度よく思い出して。相手はルクスよ」


 そう念を押すように言われてしまえば。


 何であんなに心配してたんだろうな、という気持ちが急激に押し寄せてきて、余計に何とも言えない気持ちになった。

 ルクスがこの光景を見ていたならば、間違いなく指差して笑っていたことだろう。色々と酷い。

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