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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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私、メンバーから離脱します



 パルシア王国とプリエール王国は、パッと見だけならそこまで大きな違いはない。

 海を挟んで大陸の向こう側ではあるけれど、気候風土はそこまで変わりがないからだ。

 これが片方の国がもう少し北か南に寄っていれば違ったかもしれないが、海を挟んで東西。それもそこまで離れていないとなれば、劇的な違いなんてもの早々あるわけもない。


 キールはともかくモリオンはまだ上級者向けのダンジョンへ行けるものではなかったけれど、こちらの大陸に来るにあたって事前にパルシア王国の上級者向けダンジョンへ共に行き、そこを攻略してモリオン自身も上級者向けのダンジョンへ行く資格とやらを得ておいた。

 単純にギルドに他国のダンジョンも気になるし、ついでにちょっと手を組んでる魔術師団から二人ほど一緒にプリエール王国に行こうと思っている、なんて話せば手続きに時間が少しばかりかかると言われたからだ。

 ステラたちだけならそうでもなかったらしいのだが、かつて向こうの国にいて、そこから逃げるようにやってきた人物がまた向こうに戻るとなると何やらいくつかの手続きが必要であったらしい。


 その空き時間で、ステラたちはついでとばかりにモリオンをダンジョンに連れていったに過ぎない。


 どうにかこうにかステラたちについていって自分の実力で攻略していないけれど攻略したという実績だけを得たモリオンは、それはもう何とも言えない顔をしていた。

 罠がわかる眼鏡はキールが身に着けていたために、モリオンはキールと一緒に行動していた。それでも少し離れる事があった時は、極力ステラたちが踏んだ場所を踏むようにしていたし、正直生きた心地はあまりしなかったけれど、それでもどうにかステラたちについていく事はできた。

 これでついていくのもやっと、などであったら完全に向こうの国での拠点でお留守番状態だったけれど、どうにかついていけると判断されたので、多少はダンジョンに連れていってくれるだろう。


 モリオンもプリエール王国出身ではあるし、彼もまたかつての仲間から戦力外通告を受けた身ではあるがキールほどこの国に抵抗はない。

 だからこそ、立候補したというのもある。

 ついでに一緒に行けばルクスから他に何か魔術を教えてもらえないかという下心もあった。


 恐らくそんな胸の内を同士たちが知れば、お前案外強かだなぁ……なんて言われた事だろう。


 まぁ、そんな胸の内は知られる事も明かす事もなかったので、言われるような事にもならなかったが。


 モリオンは案外平然としていたが、キールは違った。

 何とも気まずそうに周囲を見回したりはしていないけれど、それでも周囲を警戒しているのは明らかだった。罠がわかるクソダサ眼鏡をしているからか、道行く人の視線が若干キールに向けられているものの、何というか温度差がある。


 通行人からすれば彼がかつてここを追放された魔術師だなんて思ってはいないだろう。

 けれどもキールからすればここは追いやられた場所だ。いやお前そんな有名か? と聞きたい気もしたが、世間は案外狭いものなのでそんな質問をしてちょっと自意識過剰が過ぎるんじゃない? なんて言った矢先に知り合いとバッタリ、なんて可能性もあるのでステラもおちおち下手な声掛けはできなかった。

 どう考えてもフラグを建設する流れになりそうだったからである。


 ところでこうしてある意味一部にとっては因縁の地でもある場所へやってきたわけだが、キールとモリオンの服装は前の大陸にいた時と異なる。

 普段着であればそれなりに替えはあるけれど、ダンジョンに潜る際はどうしたって防具というものが必要になる。魔術師の場合はあまり重たい装備は難しいので、基本的には身動きに支障が出ない範囲での魔力と親和性の高い素材を使ったローブだとか、マントだとか、そういったものを身に着ける傾向にある。

 その下は大体普段着に近いものではあるが、一枚羽織るものが魔力で薄くとも障壁を張る事が可能になるものだとか、そういった魔力で足りていない防御力を底上げする物である事に間違いはない。


 とはいえ、あからさまに魔術師です、という見た目になるとこの国では特に魔術師が冷遇されているらしいので無駄に注目されかねない。


 だからこそ、キールもモリオンも現在はちょっとした駆け出しの探索者です、武器は短剣とかあまり重たくない武器です、みたいな感じに寄せていた。実際の武器はキールは指につけているリングだし、モリオンもこちらの国に来る時にキールと同じように杖やロッドといったわかりやすいものではなく、腕輪タイプの武器を作って渡してある。


 今までの魔術師です、みたいなキールやモリオンの姿と比べると大分イメチェンしたな、と思えるのだが……当の本人にあまり変わったという自覚はないらしい。モリオンはともかくキールは引っ越した先、新しい家に連れてこられた猫のような態度だった。多分今ちょっとでも大きな音が出たら軽く飛び跳ねるのではないだろうか。そう思える。


「さて、拠点はどうしたものかしらね」


 向こうの国からこちらの国へ。

 転移装置で来たのはこの国の中心とでも呼ぶべき城がある――こちらも王都と呼ぶべきだろうか。


 既に上級者向けのダンジョンを攻略しているので、こちらの国に来てまた初心者向けのダンジョンから攻略する必要はない。とはいえ、いきなりこちらの最大規模と言われるだろうダンジョンへすぐに足を運ぶのもどうかと思う。


 いや、最終的にはそのダンジョンをメインにするだろうし、拠点はとりあえずここであるのは確定なのだが。


 キール達が拠点にしていたグリオ農村での彼らの拠点は、本当に村の外れでひっそりと、と言った感じだが流石にあれと同じような拠点をここで用意できるかと問われれば難しい。

 それなりに人の目に触れるだろう事は確かだ。


 追い出された、という事実を向こうでもある程度知られていたけれどそれでも向こうの探索者はそこまでキール達に酷い態度をとっていたようには見えなかった。

 とはいえ、ステラたちが来る前はもしかしたら、とも思うがステラたちが来てからは特に酷い事をされてはいないはずだ。

 けれどもそれは、既にそういうものとして認識されていたというのと、自分たちを仲間に入れて欲しいなんて言い出したりしなかったからだろうと思える。


 こちらが向こうに迷惑をかけるなら排除の方向性もあっただろう。けれどもそうではなかったので、まぁ頑張れよ、と他人事として流されていたのは想像に容易い。


 だからキールも向こうではそこまで周囲の目を気にした様子はなかった。

 けれどもここは、かつてそうなった場所でもある。

 キールが行けたのは中級者向けダンジョンだったので、上級者向けダンジョン、それもこの国最大手と言えるここではないけれど、かつてキールを知る誰かしらが既にここにきている可能性は高い。


 追い出されたという事実を知るだけの第三者からの目はそこまで気にせずとも、かつて自分を知る者がいた場合は流石にそれも気にしないとはならないのだろう。


「キール」

「な、なんです」

「拠点だけど。どこかの建物借りるのと宿を長期間借りるのとならどっちがいいかしら?」

「ど……え?」


 流石に王都にやってきて、特に空いてる土地とかそういうのはないだろう。空き地があったとして恐らくそこは貴族あたりが所有する土地だろうし、勝手に建物を建てるわけにもいかないはずだ。

 グリオ農村のような田舎っぽいとこなら土地? いっぱいあるから好きに使えばいい、とか言われる事もあるだろうけれど、流石に王都でその返しはないとみていい。


 けれどキールは何を言われたのかわからない、といった反応だった。


「どこかの空き家を借り受けるか、それとも宿の部屋を滞在中ずっと借りるか」

「どれだけかかるかわかってますか?」

「お金の事? じゃあ心配いらないわよ。あるもの」


 ある、と言われてもキールはすぐにそうでしょうね、と頷けはしなかった。

 確かにあるんだろうな、とは思う。ダンジョンで入手して使い道のないアイテムがいくつかあったし、中には宝石なんてものもあった。売れば確かにそれなりの値はつく。


「いつまでここにいるつもりかわかりませんけど、どっちにしたって……」

「キール。今そういう話してないの。どっちがいいかを聞いてるの」


 一切の感情を削ぎ落したような声に、キールは思わずたじろいだ。


 それはそうなのだ。ステラの言う通りでもある。

 既にここにやってきた。来てしまった。拠点もなしに毎度向こうへ戻るわけにもいかない。手続き面倒だし。

 拠点を作るのは必須なのだ。


「それでしたら……宿で」

「そう。わかったわ。じゃ行きましょ」


 キールとしては実際のところ宿よりは家を借りる方が良かったのだが、直前で考え直す。

 既にここのダンジョンを稼ぎ場としている探索者はかなりの数がいるはずだ。

 空き家、といってもどちらかといえば小さな部屋しかないアパートだとかが残っていればいい方だろう。そこに流石にキール達全員が入るわけにはいかないし、そうなればいくつかの部屋を借りる事になる。それなら、最初から宿の方がまだマシに思えた。


「あの、案内した方がいいですか?」

「え、キールここ来た事あるの?」

「いえ……」

「なんで案内できると思ったの?」

「一応事前に話だけは聞いてるので、大まかに、程度はどうにかなるかなって」

「大丈夫よ。構造はそんなに向こうと違いがないし、それならある程度どうにかなるでしょ」


 実際そう言うステラは迷いのない足取りで大通りを進んでいく。

 そして予想が当たったのだろう。案外あっさりと大きな宿へと辿り着いた。


 ここを稼ぎ場としている探索者たちの中でも更に多く稼いでいる、と思われる探索者たちは屋敷を借りたりついでに使用人を雇ったりしているらしく、宿を借りているのはこのダンジョンに毎回行くかどうかを悩んでいる、というよりは見極めようとしている者の方が多いのだろう。拠点に戻るか、それとも拠点を引き払ってこちらに移動するか……それらを決めかねているらしき者が数名、宿の受付であれこれ話しているのが宿に入るなり見えた。


 転移装置があるとはいえ、毎回拠点に戻ってまたこちらに来る、というのも手間に感じる者はそれなりにいるらしい。

 まぁ、拠点がここならダンジョンから出て拠点に歩いて戻る途中で食事を済ませたりだとか、買い物だとか色々しながら帰るだけだが、拠点が別のところだとこっちでいくつかの用事を済ませた後また転移装置の所へ戻る必要があるし、そのほんのちょっとが面倒だと思う者がいても不思議ではない。


 そんな感じの話をしている者たちを横目にステラはとりあえず別の宿の従業員に声をかける。

 そうしてサクサクと大部屋を二つとってしまった。

 しかも当面の間はここに滞在したい、と前払いでまずは一月分の料金を払って。


 キールとモリオンは目の前で行われたやりとりに一瞬ついていけず、目を白黒させていたが気づいた時には手遅れだった。だってもう部屋はとってしまったわけだし。えっ、宿代そっちが負担してくれるの? 助かるけどそれはそれとしてこっちまで大部屋にする必要あった? そんな気持ちで一杯である。

 あとから宿代請求されても流石にキールとモリオン二人の懐からとなるとかなり厳しい。けれどもステラは二人の反応を見越していたのだろう。別にいいわよ、と先に一言告げられてしまった。



 確かに、ダンジョンに行く前に全員集まっての話合いとかそういうものがあるのなら、どちらか一つは大部屋の方が安心なのだが……あっさりとキールとモリオン二人だけの部屋にされた大部屋は、二人しかいないせいで余計に広く感じられた。とはいえ隣の部屋も四人しかいないわけで、それなりに広いんだろうなと思う。

 少なくともここの部屋、八人くらいで入るところだと思うんだよなぁ……とは思うが口に出したところで……といった感じなのでキールは何も言わなかったし、モリオンはしばらく部屋の中を見回して口をぽかんと開けたままだった。


 八人くらいで泊まるだろう大部屋ではあるが、決して安い宿の一室、といった感じでもない。むしろグリオ農村にあるキール達の拠点の個室と比べれば圧倒的にこちらの方がいい部屋だと言える。ここを普通の基準にしてしまうとキール達の拠点のあの個室は独房か何かだとしか思えなくなってくるのでキールもモリオンも考える事は早々にやめた。


 どれくらいそうしていたかは二人もよくわかっていなかったが、そう長い時間でもなかったはずだ。

 コンコン、とドアがノックされてこちらが返事をする前にあっさりとドアが開けられる。


「やぁ、ちょっといいかな」

 そう言って入ってきたのはルクスだった。

 いいかなも何も既に入ってきているので、駄目だと言ったところで無意味では……と思いながらも二人は頷く。


「既に向こうで簡単な話し合いをしてあるんだけど。とりあえずこの国では私、しばらく単独行動する事にしたから」

 それは相談というよりも完全に結果報告だった。


「へぇ、それは……えっ!?」

「えっ、ルクス様一人で行動するんですか!? なんで!?」


 これがちょっと買い物行ってくるとか、そういう話であれば気にする事もなかった。

 けれども当面の間の単独行動となれば、ダンジョンに行く時にルクスがついてこない事もあるという事だ。


 キールは半分ほど理解が追いついていない時に相槌を打ちかけて、途中で完全に理解して驚いたような声が出たし、モリオンもモリオンで驚いてはいるようだった。

 この場にいたのが他の同士たちであったとしても驚くだろうなと思えたので、驚いた事に関してはキールにとってはどうでもいい話ではあるが。


「流石に事情を説明してくれますよね……?」


 単独行動という点においては流石に何も聞かずに送り出せるはずもない。


 流されてそのままはいそうなんですねー、で済むかと思ったがそうでもなかったという事実に、ルクスはただにこりと笑みを深めただけだった。

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