まぁ、そんなことよりも
事情が事情のせいで、玉とどんぐりは当然知ってるものだと思った常識が通用しない事を早々に察した。
この世界で生まれているならある程度の常識は知っているだろうと思えるが、異世界出身となれば知って当然の事すら知らなかったとしてもそりゃそうだよなぁ、となってしまう。
幸いにしてこちらとあちらの世界はそう大きく差異があるわけではなさそう、と思いはしたもののだからといって全く同じというわけでもない。
場合によっては神々と対立する事だってある相手に、世界の秩序を保つための力を貸してほしい、とか玉からすれば流石にとんでも要求だなと理解はしたし、どんぐりは自分と同族だろう相手だとしても、いやでもお前今どんぐりじゃん? みたいな感じで力を貸す気にもならないというのが明らかすぎる。
どんぐりにINしたのはルクスだけれど、正直その時点で自分より弱いのが明らかな相手の言う事を何故聞かねばならないのか、という反応をされればどんぐりもこれ以上言葉を重ねるのは無駄だと判断したらしい。
弱者を騙して食い物にするのはともかく、強者を騙すにも騙されてくれない状況なのは明らかだし、ましてやある程度の事情を話してしまえば同情を買ってでも、ともならない。
玉とどんぐりの失敗は、相手がこの世界の人間であると疑う事なく話を進めてしまった点であった。
ところでステラたちが暮らしていた世界とこちらとの違いに、魔族の存在がある。
どんぐりボディにINしている奴は明らか魔族とか悪魔とかそういったものに該当するはずなのだが、こちらの世界では魔族という種族は最初からそういうものとして存在していたわけではないらしい。
ステラたちが暮らす世界では最初から神族に対する相反するものとして魔族が存在していたようだが、こちらの世界にはそういったものは存在していない。では今どんぐりの中にいるのは? と思われそうだが、元はこちらのどんぐりも神族にあたる存在だったとか。
どうやら同じ神族であるにも関わらず、色々あって神に対する疑念やら不審やらで造反する流れになったのが、どんぐりたちらしい。
ステラたちのいる世界でも天使が堕ちて堕天使になったりしたのがいたし、それの神族バージョンだと思えば別におかしな話でもない。
というか、ステラたちが異世界転生する前の世界でもそういった話はあったから特におかしいだとか思う事もなくあぁそういう話ね、で終わる。
それに元をただせば同じであるという話を聞いて、ようやく納得がいったのだ。
玉は魂を結晶化したものであって、そこに更にどんぐりが乗り移っていた、なんて話に。
元が同じならそりゃ同化したとしてもそこまでの拒絶反応も起きないのだろう。とはいえ、完全同化というわけにもいかなかったようだが。
「どうやらこちらの世界の神は自分の影を落とす事を良しとしなかったようだね。ま、結果として身内から影になるのがばんばんできてりゃ世話ないけど」
ルクスも割と呆れた様子であった。
確かに神族とは何となくノリが合わないな、とか思うようなのが大勢いるし、最初からそんな対立するのが目に見えてる種族とか生み出すくらいなら……と思わなくもないというのは理解できる。けれども、だからといってそれをしなかった結果、神族が堕ちていたら世話ないなとも思うのだ。
最初から敵になるだろう相手を定めていればまだしも、そうしなかった結果身内がいつ敵になるか……なんて心配事を抱え込む事になったわけだし。
勿論神族全てが仲良しこよしというわけにもいかないだろうけれど、それでも目に見えてわかりやすい共通の敵になりそうな相手がいるというだけで大分違ってくる。
こいつ何か気に食わないけど、でもいないと万一敵が襲ってきた時に困るしなぁ……ま、有事の際だけ手を組めばいいでしょ、みたいな打算だとかそういったものも働かなくなるわけだ。
明確な敵となりそうな相手がいるのといないのとでは、心構えも違ってくる。
実際意見の対立程度では神族同士であってもそこまで物騒な事にならないはずなのだ。けれどもこちらの世界では神族の中から創星神に造反する者が出てしまっている。最初に反旗を翻した相手がどこを最終目標としていたかにもよるが、場合によっては創星神倒して自分がこの世界の神となる、くらいに思っていたとしてもおかしくはない。
一時的な代理みたいなものであれば可能だろうけれど、ずっとは無理だと知る事もなく。
しかも結果として大分数を減らしたらしいのだ。神族。
そりゃ身内同士で争って敵対して倒して、となればあっという間に減るわな、と納得もする。
しかも戦いの最中で神族が途中で裏切って相手側にいくなんて事もあっただろうし、何というか不毛な争いでしかないのだ。
それらをどうにかするべく力を使って創星神は現在余計な消耗を避けるべく、そして力を蓄えるべく眠りについたとか言われても、そうなる前に対処しとけよ、としか思えないのがルクスであった。
知り合いに神族がいるから、というのもあるが、何というか……神って決して万能でも全能でもないんだなと理解しているけれど、それにしたってどうなんだろう――というのが偽る事なくルクスの本心である。
正直自分だってもうちょっとマシな事できるけど? とすら思う。
ま、召喚系の術に関係していない世界から失敗したとはいえ巻き込んだりするような世界だ。神様とやらの能力が色々と問題ありだとしても別に驚くようなものでもない。
「とりあえず貴方たちに関しては保留で」
ステラの言葉に玉もどんぐりも何も言わなかった。いや、言いたい事はそれなりにあるのだけれど、喚いたところで現状圧倒的に不利なのはこちら側なので。
「それよりもアミーシャ」
「ひっ、え、何?」
流石にもう自分の手に負える範囲の話ですらなくなってきていたアミーシャは完全に他人事のように話を聞いていたものの、唐突に名を呼ばれて思わず悲鳴を上げた。今の自分もまたどんぐりボディ。相手の機嫌を損ねたらぐしゃっと潰されて終了するのはわかっているけれど、正直な話もうそれで終わった方が早々に楽になれるんじゃないか、という気もしていた。
とはいえ圧死とか流石にちょっと勘弁したい。
そんな気持ちも確かにあった。
「アミーシャ、貴方さっき言ってたわよね? 自分と同じようなのもう一人知ってるって。ちょっとそっちの情報を教えてくれない?」
「え? えぇ……? いや、いいけど。でも、多分そう簡単に会える感じの人じゃなかったはずよ? あたしはたまたまダンジョンの中で遭遇したけど、あれだって本当にたまたまだったみたいだし」
アミーシャの言い方からして、そちらはアミーシャ程精力的にダンジョンに足を運んだりしているわけでもないらしい。であれば、本当にアミーシャは運よくというべきか、ほぼ偶然その人物と出会っただけに過ぎない。
「それで? 名前とかは知ってる? それともそういうのは知らないで外見情報くらいしか知らないとかいうやつなのかしら?」
「名前は……ベルナルード。プリエール王国の城勤めだったはず」
その名前に。
思わずステラとクロムとルクスの視線がベルナドットへ向けられたのは他意があったわけではなかったものの。
「なんとなく名前はベルくんに似てるわね……? もしかして外見似てたりするのかしら?」
「えっ、えぇ……? どうだったかしら。髪の色は金色だったけれど、そうね、目の色は確か……コバルトグリーンで……似て、ないことも、ないんじゃないかなぁ、って……」
「またかよ」
うんざりしたようにベルナドットが吐き捨てる。
いや、髪の色はもうベルナドットも毛先部分が変色しているので全く同じ見た目の人物とか流石に出てこないだろうと思っているけれど、それにしたってだ。
かつて、まだベルナドットが人間だった頃、とても良く似た人物がいた。
彼の名はレェテ。かつて天使でありながらも堕天使となりクロノの部下となった人物である。
外見だけなら瓜二つと言っていいほどに似ていた。目の色こそ若干違えど、パッと見ただけならどっちがどっちなのか一瞬で判断できないくらいにだ。
けれども植物の精として復活したベルナドットとレェテはベルナドットの髪の色が若干変わった事で以前程見分けがつかない、なんて事もなくなっていたのだ。
しかしまさか異世界に来てまでまたも似た感じの人物の話が出るだなんて、ベルナドットは思っていなかった。しかも今回は名前も何となく似通っている。なんなの、俺は出かけた先でそっくりさんと出会う運命でもあるの? とか思うのも仕方のない話だった。
「プリエール王国、ねぇ……」
ステラたちがいるのはパルシア王国だ。つまりは別の国。アミーシャはダンジョンの管理者としての権限があって、自分が管理しているダンジョンを自由に移動できる能力があったから遭遇する機会もそれなりにあったのかもしれない。
ステラたちも別の国に行こうと思えば行けなくもないけれど、それには探索者ギルドの許可が必要だったはずだ。
この国のダンジョンにいくつか挑んでみたけれど、こことは合わない気がするから他の国のダンジョンに挑みたい、とかそういう理由で他国へ渡る探索者の話はキールからも聞いている。というか、キール達は元は別の国出身だったはずだ。そっちで仲間から追放されたりして、居づらくなってこっちの国に来たとか。
行くだけなら特に問題はなさそうに思える。
とはいえ、ステラたちが唐突にこの国以外のダンジョンにも行きたいの、とか言い出してキールが果たして納得するかどうかだ。
いや、別に納得しなくてもそれっぽい事言って納得させればいいだけなのだが。
むむむ、と少しだけ考えて、ステラの中では決まったらしく、よし、とばかりに頷いた。
「じゃあ折角だし、ちょっと他の国のダンジョンも見てみましょうか。ついでにそのベルくんに似てるらしいって人と会えればなお良し」
そのベルナルードもダンジョンの管理者であるなら、この大陸のダンジョンの中でも会おうと思えば会えるのかもしれない。例えばアミーシャがステラたちに目を付けた時のように、ベルナルードが管理しているダンジョンを傷つけてこれまた本来はないはずの何かを付け加えればこちらの存在を感知されるだろうし、そうなれば極秘でこちらの様子を探りにくるだろうとは思う。
とはいえ、どれがそのダンジョンなのかまではわからない。
アミーシャが管理していないダンジョンをご丁寧にいくつかぶち壊すというのも、手っ取り早いとは言い難い。
アミーシャは思っていたよりも早い段階でステラたちの目の前に現れてくれたけれど、ベルナルードや、それ以外のダンジョン管理者がいたとして皆が皆アミーシャのようにあっさり姿を見せてくれるかと言えば、そんな事もないだろう。
「城勤めというのが事実なら、会おうと思えば会えない事もないんじゃないかな。それこそ珍しいアイテムを手土産にすればいける気はする」
「あぁ、宝飾品とか献上って形でなら王族にも会えそうな気はしますね。そのベルナルードって奴の立場がどの辺かにもよるけど、顔を見るだけならそう難しい話に思えないな」
「俺は正直気は進まないが……いやこの時点で行く気満々なの三名って考えると俺の意見聞き入れられないやつだよなどう考えても」
この三名の行く気をやっぱやめた、ってさせるような一発逆転の案が今すぐベルナドットに浮かばない時点で、結果は見えていた。
「それじゃまずはキールを説得しないとね」
流石に彼に話を通さず勝手に他の大陸のダンジョンに行きます、だと後々面倒な事にもなりそうだし。
とはいえ、説得はそこまで難しいとは思わない。思い立ったら何とやら、とばかりにさっさと席を立ってステラは早速キールのところへと足を運ぶのだった。




