一歩間違うと何か怪しいプレイ
「さて、この世界について話そうか。
一応創星神が創った世界みたいだし、そういう意味では多分私たちが暮らす世界と大幅に異なってる感じではない。とはいえ、こっちの世界はダンジョンありきみたいな部分はあるね。むしろ生活の大半を支えているのはダンジョン産業だ。
薬草とかはダンジョンの外にもあるけれど、それは恐らくダンジョン攻略する際にダンジョンの中だけでしか薬がない、とかだと本末転倒だからそういう風になってる、と考えてもいい。
ま、この世界の仕組みとか構成なんてのが本に記載されてるはずもないからこれは推測だ。
けれどもまぁ、知り合いの神族から聞いた話組み合わせて考えれば概ね間違いでもないと思う」
知り合いの神族っていう単語がもう何かパワーワードにしか聞こえない。
実際ステラも以前は正体を偽っていたとはいえ星の女神が弟子にいたわけだし、そういう意味では知り合いに神族がいるわけだけど、そういった世界のあれこれに関して話せるような感じではないのでルクスと一緒にされても困る。
「とはいえ、こっちの法律も大体私たちが住んでる所とそう変わらない感じかな。ダンジョンの中は魔物がいるから治外法権な部分もある。けれど……そうだな、ダンジョンに関しては私たちの世界よりも少しルールが多いかな、とは思う。
生活水準も多分そんな変わらない感じかなぁ……直接見てないから何とも言えないけど、でも予想の範疇って気がする。
道具に関しても……どうだろ、それに関しては凄いのが身近にいるからね」
凄いの、でステラに視線を向けた。
「とはいうけど魔力粉ないと私何でも作れるってわけじゃないのよ」
「あぁ、世界樹の精になって魔力量とか更に上がったけど魔力粉は自力で作れないもんな、あんた」
「それはベルくんだって同じようなものじゃない」
二人そろって生まれ変わって人類卒業したくせに、魔力量だとか身体能力だとかはそれなりに上がったものの、どうにも得手不得手はそのまま、みたいな部分があった。
「それじゃ魔力粉ならオレが」
「あ、それはルクスにお願いするわ。頑張って、魔力粉生産係」
立候補しかけたクロムには申し訳ないが、ステラは即座にルクスに役目を割り振った。たとえその結果ルクスが働き過ぎるような状況になったとしても、ステラは申し訳ないとはこれっぽっちも思わない。
「おや、私が? まぁいいけど。弟のと同じような出来は期待しないでおくれよ?」
「そう言いながらも何だかんだ高品質のやつ作るだろうから、期待してるわ」
「あっ、これ、期待に沿えなかったら後で弟に言われるやつかな? ちょっとやめてくれないか、想像しただけでも弟に失望しましたとか言われる光景はきついものがあるんだ」
「勝手に想像して自滅しないでしょうだい」
「いや母さん、オレだって魔力粉作れるんだけど!?」
「クロムには他の役目が多分あるから」
「多分かよ!?」
「多分よ。そのうち何か色々やる事出てくるはずだからきっと」
とても雑な扱いにしか思えないが、そこまで言われたら何を言っても魔力粉作りは任せてもらえないのは察する他ない。
クロムも確かに魔力粉を作れないわけではないが、アイテム合成に必要な魔力粉は基本的に無属性が多い。けれどクロムがその魔力粉を作るとなると火属性がやけに多く出来上がるのだ。火属性の魔力粉が必要な場合はそれでいいけれど、そうじゃない時は少し困る。
「ダンジョンに出没する魔物とかは正直敵じゃないからそこはいいかな。というか、この世界の魔術師、一応魔術は使えるけどレベルはそんなに……って感じだからね。正直魔石に魔力込めて使ってる私たちの世界の方がまだマシなんじゃないか、って思えるのもあるような気がしている」
ルクス曰く。こちらの世界の魔術師はステラたちが暮らす世界に比べれば人口は多いけれど、実の所そこまでの実力があるわけではないらしい。
素の状態だとそこまでではないが、ダンジョンで見つけた杖だとか媒体があれば化けるだろう、とは言うものの……
ゲームで言うところの初期装備のままの魔術師みたいなものか、とステラは考える。
しかしゲームであれば新しい術はレベルが上がれば覚えたりするし、場合によっては魔術書だとかを購入して読んで覚えるだとかの方法があるが、こちらの世界でもレベルの概念はなさそうだし強力な魔術をバンバン扱える人物がそもそも圧倒的に少ないのだろう。
そんなんだからダンジョン探索で前衛職ばかりが幅を利かせているのだとか。
「ま、正直な所現状そこまで張り切らなくて大丈夫だと思う。適当に時間潰していれば弟が迎えに来るだろうし」
とは言うものの、ルクスの表情は浮かない。だからこそその部分を突っ込んでみれば、彼はやや言いにくそうに数秒黙り込んだ。
「…………いや、迎えに来た時点でロクに何もできてなかったらそれはそれで何してるんですかこの無能、とか言われる気もしてるし、かといって張り切ってあれこれやったらそれはそれで何張り切っちゃってるんですか痛々しい、て言われそうな気がして」
「どっちも想像できるのがキツイわね」
ルクスに対してクロノの態度は案外辛辣だ。正直何やっても難癖つけられると言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、別にクロノだってわざわざ粗探しをやっているわけではない。ただ、本当に本心からその時思った事をろくに考えず口から出しているだけなのだ。それもそれでどうかと思うけれど。
「まぁ、でも、この場にルクスがいてくれて助かったとは思ってるわ」
「え、何、突然私に対する態度のデレ……?」
「適度に使いやすいから」
「あ、そういう」
仮にルクスがいない状況で、ステラ、ベルナドット、クロムだけの三人が異世界に召喚されていたと想像した場合、結果的に変わりはないかもしれないが途中経過での面倒ごとはそこそこステラに降りかかる気がしている。
ルクスではなくクロノが一緒であれば勿論大体その時点で全部解決したも同然ではあるが、もしルクスではなくそれ以外の誰かであった場合。
クロノの兄でもあるルクスより更に上のヴァルデマールやフォルトゥニーノ。この二人、もしくはどちらかが一緒に巻き込まれていたとしたら。
顎で使える相手ではあるけれど、正直やっぱり手間がかかる。
それを考えるとルクスで良かったとすら思えてくるのだ。
普段の態度から一番信用のならない相手に思えるが、少なくともクロノを裏切る真似だけは決してしないのでステラにとっては困った事にとても頼りになる味方なのだ。一番信用しちゃいけないタイプのはずなんだけどなぁ、と頭と心で理解しているのに、しかしクロノがこちら側というだけで絶対的に味方であるという事実。矛盾した感覚に見舞われている、というのが近いかもしれない。
いや、頼りになるのは頼りになるんだけれども。
「まぁ、勇者召喚の儀式は失敗、ダンジョン探索もこっちはあまり乗り気ではない。向こうからすれば結構ピンチのはずなんだけど……あれどう考えても事態を把握できてないよね」
「貴方がそうさせたんでしょうに」
さっきの流れるようなやりとりを思い返してみる。協力的な感じだっただろ、と間違いなく誰もが突っ込む。
「でもさぁ、ダンジョンに行くとは言ったけど、私たちの誰か一人でも必ず目当てのアイテムを見つけてきます、なんて一言たりとも言ってないし、私たちの一人として自分は勇者なんだ、みたいな自覚もないよね」
さも当然とばかりに言うルクスに、一同まぁそりゃそうなんだけど、みたいな顔をした。
だってどのツラ晒して勇者ですと言えるというのだ。
今はもう現役を退いたとはいえ、それでも現役の頃と全く実力も何も衰えていない元魔王の妻であるステラ。
その息子のクロムウェル。
魔王の血族でもあるルクス。
ベルナドットだけなら若干どうにか勇者を名乗れるのでは? と思ったがそもそも魔王の後継者としての資格を持つ一族の妻が二人いて、その夫になった時点でこいつも紛れもなく魔王サイド。
人としての生を終えて、その後ステラ同様世界樹とまではいかずとも植物の精としてクロノの手によって復活を遂げてしまったベルナドットも流石に勇者を名乗るつもりはないらしい。
ステラもベルナドットも恐らくはうっわー、異世界転生しちゃってるー、くらいのテンションだった頃であればもしかしたら召喚されて勇者名乗っちゃうくらいしたかもしれないが、流石に今となってはそのテンションになるのも無理がある。
「しかも普通にキールはこっちに服従するって言っちゃったからね。思わずこっそり従僕の術かけちゃったよね。万一の事考えて」
「伯父さん何してるんですか……」
「いやだって、信用できない相手の口約束って、信用できる?」
「本日のお前が言うな大賞受賞してる人が何か言ってる……」
いくら同じ系統の神様が創った世界だからとはいえ、どうやらこちらの世界でも普通に術が使えるんだな、とステラもベルナドットも今更のように気が付いた。
この部屋に入った時点で音が外に漏れないよう術をかけていたにも関わらず、だ。
召喚されたけど向こうで得た技は使えませーん、なんてオチだとそれはそれで困るので助かったが、あまりにもあっさりと術をかけられているキールが気付かないのはどういう……あぁ、実力差あるだけか。疑問が浮かびかけたものの、瞬時に解決した。
「おや? 責められてる? もしかして? いやまさかね。だってステラ、きみだって私と同じ事を考えたくせに黙っていただろう?」
「同じかどうかはさておいて、私はちゃあんと理由があって口を噤んでいただけよ」
「え、母さんどういう意味?」
事情は何となく呑み込めてきたものの、状況はまだわかっていないクロムは何のことを言っているのかさっぱりわからない。
ルクスとステラは二人同時にクロムの方へと視線を向けて、何を言っているんだ、みたいな顔をしていた。
「キールの一応の目的が世界樹の雫の入手でしょ?」
「あ、あぁ、そういや言ってたっけ」
「私、世界樹の精。ベルくんだって一応あの時点で気付いてたのにクロムったらうっかりさんねぇ」
ふふふ、と鈴でも転がすくらい軽やかに笑ってみせたが、その笑いも瞬時に引っ込む。
「世界樹の雫ね。身も蓋もなく言えば、私の体液が大体それ」
涙とか無難っぽいけど汗とか鼻水とか唾液とか血液とかその他諸々の体液大体世界樹の雫にしようと思えばできるのよね、と淡々と告げれば、意味を理解したベルナドットとクロムは大層しょっぱい表情を浮かべていた。
もっと神秘的な何かを想像していたのかもしれないが、残念、ステラの口からそんな厳かな何かが出るはずもない。というかだ、尿って言わなかっただけステラとしてはかなり配慮している。
なんというか、この世界の人たちの価値観が大丈夫だろうか……? とおもむろに不安になってきた瞬間でもあった。
本体から採取するなら樹液がそうなんだろうけど、生憎本体は遠く離れた異世界である。
人型の状態であるこちらのステラが樹液を出すにはちょっとどころではなく難しい問題であった。
まぁ効果的には一緒一緒、とか言えちゃうのがステラなので、勿論色んな意味でどうしようもない。




