アミーシャ、今更敵を知る
光があるからこそ影が生じる。
何もない空間に光だけを満たしてしまえば影もできないかもしれないが、それ以外の何かがあれば影であり闇は生じるようになっている。
神が世界を創ったとして、光だけで満たすというのは創った時点で無理が生じる。
極力そういったものを少なくする、くらいは可能かもしれない。
けれども、意思のある生命体ができた時点で何もかも全て自分の思うがまま、というのは無理だ。
一見従順な相手であってもそれが本心であるかまでは知りようがない。意識なんてないままに、ただ己の言葉を聞くだけの人形であればまだしも、そうでなければどうしたって自分の意のままなんてのは無理でしかない。
現在玉にいる方が神族か、もしくはその眷属に該当する相手だとして、どんぐりにINしたのはその敵対者。自分たちの世界で当てはめてみれば、自分たち側の存在だろうとは思える。
いや別に魔族は神族と常々敵対しているわけでもないのだが。
まぁどうしてもそりが合わない、なんてのはそこそこいるから小競り合いとかはよくやるけれども。
光も闇も、相反するものをあの世界の創星神はわきまえていた。だからこそ、上手くバランスをとっていたのではないだろうか。自分たちを光とするならその反対側には闇に属する者がどうしたって生まれ出る。
だからこそ、魔族がいたし魔王は生まれとしては神の子になるものの、子ではなくある程度対等な存在として許されている部分もあった。度が過ぎれば流石に向こうも黙ってはいないだろうけれども。
ルクスは身近に神族がいるために、そういった話はそれなりに耳にする機会が多かった。
耳にしたからといって、特に何かに役立つような話かと言われれば別にそうでもない、としか答えられなかったけれど、その分裏側の事情とかそういったものに関してはある程度理解できる。
それを踏まえると、この世界はなんというか――
歪、であった。
そもそも神族の魂に魔族の魂が寄生できるだろうか。いや、やろうと思えばできるだろうとは思うのだけれど、効率という点で考えると非効率的でしかない。お互いがお互いに消耗しあって最終的には仲良く消滅する事の方が可能性としては高いくらいだ。
アミーシャの話からして一年二年程度ではない。既に今の人間たちにはダンジョンはこういうものという認識が完全に植え付けられているし、であれば数代前から既にそうだと考えていい。
ダンジョンに関して色々といじったらしい相手の言い分を考えれば、長い年数を存在するだろう王家の歴史書なんかであっても既にそういうものだとなっている可能性も高い。かつてダンジョンはただ魔物を封じ込めているだけのものであった、なんて記されているかどうかも疑わしい。
そもそも神々の争いがあって世界は荒れていた。そのごたごたに乗じてやらかそうと思えばまぁ、できなくもない。ルクスだってやろうと思えばそれくらいはできると断言できるわけだし。
むしろルクスならそのごたごたをあえて自ら発生させるしその隙に乗じてやらかす。
仮にこちらの世界の同種足り得る存在がやらかしたとして、その割にやってる事が微妙にしょぼい気もしないでもない。
いや、ダンジョンが生活に密接に関わるようになって今更手放すには惜しい存在であると思えれば、ダンジョンをこうした側を排斥しようとならない、とも思う。ダンジョンで利益を得ている者は今更ダンジョンを本来の形に戻すとなっても納得はしないだろうし、そうなればこちら側に手を貸す人間も多くでるだろうとも。そういう意味での保身と考えればまぁ、上手くやれていたと言えなくもない。
どんぐりと玉に視線を移動させてみるが、ステラたちがどちらにも手を貸すつもりはあまりないという態度である事に両者どう出るべきか悩んでいるらしい。
まぁそうだろう。
下手にこちらに喧嘩を売るような発言を重ねれば最悪ぷちっとやられかねないのだ。
玉の方は強度がありそうだけれど、どんぐりはあくまでもどんぐり。ぐしゃっとやられたとして、その場で魂が解放されると考えたりはしないだろう。むしろその時点で肉体と仮定されているどんぐりがやられた場合普通に死ぬと考えていい。
『その、手を貸すつもりがないのであれば、何故こちらに魔力を提供したのです……?』
玉の疑問はもっともではあった。
「そんなの、片方から話聞いてそれで判断するわけにもいかないからに決まってるじゃない」
ステラはそもそも玉に二つも人格が宿っていたなんて知らなかったけれど、それにしたってもう片方の言い分も聞いてからという選択は間違っていないと思える。
実際最初にいた方の言い分だけを聞いていたら、第二のアミーシャの出来上がりである。
しかし今まで力を奪われる一方だった本来の存在は話をする力も残ってなかったようだし、そうなれば一応最低限の魔力提供くらいは……といった程度の考えだった。
その上で、話を聞いた上で思った事は、割とどうでもいい話ね、というものだった。
そもそも自分この世界の住人でもないし……という思いがあるのもあってそこまで親身になれなかった。
例えば自分の意思でこの世界にやって来て、それでいて困ってる相手にとりあえずちょっとした情があって手助けする、とかであれば話は違ったかもしれない。旅先で困った人を助けるくらいのノリである。
しかし実際は別に来たくて来たわけでもないし、迎えが来るまでの間に適当に暇潰しておこうかしら、くらいの気持ちしかない。
例えばもっと違う形でこの世界に呼ばれたとして、一人頼る相手もいない所を助けられて、その相手が困っている、とかであれば助けてもらった恩もあるし……となったかもしれない。
しかし実際はそんな事にすらなっていないのだ。
正直どうでもいい、としか思っていないところであれこれ壮大な話を持ち出されて助けて下さい世界の危機になるかもしれないんです、みたいに言われても、「はぁ……それで?」という気持ちしか出てこなかった。
ゲーム風に言うのであれば、どんぐりに宿った方も玉も、ステラたちが手を貸そうと思えるだけの好感度を稼いでいないだけの話だ。フラグも何も立てていない。
必須フラグもこなしてなければ好感度も足りないくせに告白しても成功しない乙女、もしくはギャルゲーの攻略対象といえばいいだろうか。
出会いのあたりからやり直して、どうぞ。とはいえ現実にリセットもロード機能もないのでどうしようもないのだが。仮にセーブしていたとしても多分そこ詰んでるのでロードも役には立たないだろう。
「なぁ、一つ聞いておきたいんだが」
そんな中でそう声を上げたのはクロムだった。表情というか態度から全身でどうでもいい、というのが溢れているものの、それでも何かのとっかかりになるかもしれないと思ったのか、玉は『なんでしょうか』と即座に聞き返していた。ロクに会話もなければ相手に話を振ろうにも……といった感じが凄いので、ある意味クロムのその声は天の助けに思ったのかもしれない。
「世界が荒れたって話はわかった。で、長い年月の間にダンジョンが本来の姿とは微妙に異なってしまったってのもまぁ、わかる。
上は何してんだ? まさかお前らがトップってわけじゃないんだろ? さっきの話を聞く限り」
上。
そう言われてみれば確かに、と思えるものだった。
玉からすれば上というのは神族のトップ。創星神をさしているわけだし、どんぐりは正直ちょっと同じだと思いたくはないけれど、魔族側だと思われる。となれば、この世界にだって魔王に該当する何者かが存在していてもおかしくはない。
まさかこのどんぐりと玉がそうです、とか言われたらステラは反射的にこの二つを破壊してしまうかもしれなかった。なんというか、あまりにもしょぼすぎて存在を勢いで抹消してしまいそうな気すらしている。
『我らが主は今は力を蓄えるために眠りについています。ですから、一刻も早く力を取り戻して助けになるべく行動したいのですが……』
「こちらの上は何をしているか皆目さっぱりですね。ま、生きてはいるんじゃないでしょうか」
魔王に該当している存在が生きてるらしいというのは正直どうでもよかった。
むしろ問題は……
「創星神寝てんの? え、大丈夫かなそれ」
「あぁ、てっきり普通に活動しているものとばかり思っていたのに眠りについて……? 最悪目覚ましアタックで殺されたりしないかそれ」
そのうち迎えに来るだろうと確信しているクロノの事を思い浮かべる。
仮にも異世界。この世界は勇者召喚とかあるくらいだから、異世界からの来訪者に関してはそこまで目くじらたてるものではないだろうけれど、召喚されたわけでもなく堂々と異世界からやってくる相手に関してはどう対応するかなんてわかりようがない。
そっちの世界がちゃんとしてないから無関係のうちの世界から勇者召喚の巻き添えくらったんですけど、責任者としてそこんとこどうお考えです? みたいなノリでクロノがこの世界の創星神に詰め寄るのは想像に容易い。けれどもその時点で創星神が眠りについていたのであれば。
多分目覚めの一撃を食らわすんだろうな、とステラは思ったし、他三名もそう考えている。
最悪寝ている所を奇襲からの暗殺になりかねないのでは……? という気がしてきた。
ステラたちからすれば創星神がどこにいるのかなんてわからないけれど、こういうものは大体天界とかそれに近い場所と相場が決まっている。クロノが本気出せば多分そう時間をかけずに相手の居場所を特定できるのではないだろうか。
力を回復させるために寝ているとかそんな場合ではないのでは……?
むしろ回復させるのを一度中断して起きてないと危険なのではないだろうか。
「ところで神様って死んだとしてそしたらその世界はどうなるの? やっぱ神様と一緒に滅んだりする?」
「いや、創星神に関しては死んでもすぐにその世界が滅んだりはしないはずだ。ただ、やはり世界を調整する役割を持つ者がいなくなるからゆるやかに衰退するとは聞いているよ」
『あの……何故だか急に不穏な会話になってるように思うのですが……?』
「不穏も何も、このままだと最悪死ぬ可能性が高くなってきてるって話なんだが」
玉は自分たちの事情についてはある程度話したとはいえ、ステラたちの事情なんて知るはずもない。だからこそ話についていけてないのは当然の話だ。
それもあって、ベルナドットは親切にも教えてやる事にした。
だって教えでもしないと、流石に異世界の元魔王がこの世界の創星神を殺すかもしれないなんて可能性に至るはずがないと思ったからだ。
まさかこの世界の神に関連するだろう存在も、勇者召喚でやってきた相手のせいでそんな危機に陥りかけているだなんて思うはずがない。
だからこそ、ベルナドットが大雑把に語って聞かせた自分たちの事情は予想外だったらしく。
「えっ、あたしもしかしてとんでもない相手に挑んでた……!?」
話を聞き終えたアミーシャは気付いてはいけない真実に気付いてしまったかのような反応をしていたし、動けないはずのどんぐりボディは若干小刻みに震えていた。
そりゃまぁ、喧嘩売る結果になってしまった相手が、よりにもよって異世界の魔王関係者とか普通に考えて命捨ててるとしか思えないし、実際アミーシャの現状からすればむしろどんぐりの中に魂入ってるとはいえよく今生きてるなとなるのも無理のない話だった。




